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ヴェデキントの名作『LULU』~主演・霧矢大夢と演出・小山ゆうなが2019年のルル像を探る

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ルルとはいったい何者か

ファムファタル(運命の女、男を破滅させる女)を描いた物語は多い。そしてルルもその一人。ドイツの劇作家フランク・ヴェデキントの『LULU』の主人公は、浮浪児だったところを拾われ、奔放な生き様によって夫となった3人の男たちを次々と破滅させていく。ルルとはいったい何者か。2018年読売演劇大賞優秀演出家賞受賞するなど、注目を集める演出家、小山ゆうな。元宝塚のトップスターで大劇場から小劇場まで行き来する実力派、霧矢大夢。彼らが描こうとするルルは、これまでとはどうやらひと味違う。


――小山さんはドイツ育ちで、ドイツ演劇に造詣が深くていらっしゃいますが、『LULU』をやると聞いていかがでしたか?

小山 最初にお話をうかがったときはやはり驚きました。私はドイツ戯曲を手がけることが多いからお声がけいただいたのだと思うんですが、この作品はルル役が見つからないとヨーロッパでもなかなかやれないんです。上演が難しいと言われています。

霧矢 私も出演のお話をいただいたときに、ルルという役も物語も難しいということはお聞きしていました。でも自分もそれで成長できるのだったらいいなあとお受けしたのですが、稽古が始まって、後悔とまではいかないですが、もう少し慎重に決断すればよかったなって(笑)。今は半分逃げ出したいような気持ちです。もちろん逃げ出しません、幕も開きます!(笑)


撮影:宮田浩史



――小山さんは、この作品をどんなふうに演出したいと思われたんでしょう?

小山 驚いたとは言いましたけど、同時に挑戦したいとも思ったんです。それは、ルル役を霧矢さんと聞いて、それは面白いと。実はヨーロッパではルル役が脱いじゃうことも多いんです。つまりセクシャルな部分を全面に出す演出が多くて、それはそれでいいけれど、私はルルの内面が伝わる芝居が見たかった。それには霧矢さんはぴったりだなと思ったんです。

霧矢 もうびっくりしました。ヨーロッパの舞台資料を拝見するとほぼ全裸でこんなに生々しい作品だとは(苦笑)。本当に性のシンボルなんですね。お話をうかがうと、私が演じるルル、2019年のルルとして舞台をつくられるということだったので。とはいえ、なかなかルルという人物に自分を寄せていくことは難しいです。もちろん上演台本はわかりやすくなっていますが、話の展開が早くて、気持ちの切り替えも目まぐるしい。あまり豊富ではない引き出しを必死に探す作業が大変。


撮影:宮田浩史



小山 この作品は普通に上演したら5、6時間かかるんです。歴史大作を腹を据えて見ようというのとは違って、まず『LULU』を2019年の今、延々と見るのは時代に合わないんじゃないかと。繰り返しも多いんです。ただ戯曲はカットはしていますけど書き換えはしておらず、ルルの魅力、ルルと周囲の人間関係がわかるシーンは残しつつ、物語が伝わるようにつくりました。そうすることで、周囲の人間との関係性で現代とリンクさせられるんじゃないかと。ルルはある意味で社会の犠牲者で、それに対して「どうですか?」という問いかけになればと思っています。

霧矢 ルルは、関わった男性を簡単に破滅させたり、貶めたり、究極のSのような女性。だからと言って成り上がっていきたいわけでもなく、普通のこととしてやってしまうから難しい。カマキリのメスはオスを食べて生きていく、そんな感じの女性ですね。ジェットコースターのように上り詰めても最後は自分が転落してしまうわけですが、それがルルの美学なのかはともかく、そんな壮絶な人生を表現できたらいいなと思います。まだまだ試行錯誤している状態です。

小山 いやいや、霧矢さんはご自身では悩んでいらっしゃるかもしれないけど、もうすでにルルですから。本当に大丈夫。私なんかむしろ霧矢さんがこんな大変な思いをしなくてもいいのにとまで思っちゃう。偉いなぁ。

霧矢 小山さん! それおかしいでしょ、偉いなって(笑)。このチームのプロデューサーとは『I DO! I DO!』『THE LAST FLAPPER』など、いつも少人数でキュッとした空間を生み出す作業をさせていただいています。その経験は直接的に血肉になっている。大劇場ではできないことをやらせていただいているし、混み入ったテーマの作品にも向き合えるし、すごく勉強になっていて。その中でもルルはすごい強敵です。


撮影:宮田浩史



――逆に霧矢さんから見て、小山さんはどんな演出家?

霧矢 ドイツの文化に造詣が深くていらっしゃるので、稽古場でお話してくださることはとても勉強になります。女性ならではの視点もお持ちで、とても信頼しています。最終的にここに行きたいというビジョンはお持ちですが、役者には自由にやっていいよというタイプの方ですね。でもそのぶん、役者も「こう思うのでこうやってみるのはどうでしょう」と常に提示しないといけない。それは楽しくもあり苦しくもあり、そして鍛えられる部分でもありますね。

――改めて、ルルの魅力はどんなところに感じますか?

霧矢 自分で自分の魅力を語るみたいなことになってしまうので……いや、本当に私もまだ模索中です。自分ではわからないから、私も皆さんがルルのどういうところに魅力を感じているのか聞きたいです。これまでの自分を打ち破りたい、進化させていきたいとは思うし、せっかくこういう機会をいただいているので役に誠実にやっていくだけですね。


撮影:宮田浩史



――小山さん、話は飛躍するんですけど、ここ最近ブレヒトやヴェデキントに静かにスポットが当たっている気がします。

小山 そうかもしれません。ヴェデキントと言えば生々しい、残酷なものが多いんです。見るものとしては私も好きなんですけど。ヴェデキントの影響を受けたブレヒトは音楽の要素が増え、そのあたりが緩和されている。今って、世界が戦争に向かっていくかのような漠然とした怖さがありますよね? たしかに反戦や社会派の芝居も増えている感じもしますが、日本は特に事実を描いて「こういうことがあったけれどどう思う?」と投げかけるものが多い。もちろん『LULU』は反戦の芝居ではないけれど、ヴェデキントはすごい平和主義者。そんな彼がなぜこんな残虐な作品を描いたのか、それは何か今の時代に合っていることがあるのかもと思います。今はまだ探している途中で、本番近くになったらわかるかもしれないと楽しみにしています。

 この本では次から次へと予想もしないことが起こりますが、それは作家自身その方がリアルだ、人間はそういう存在だという考え方だから。戯曲だからって急に理路整然と書く方が気持ち悪いという。一見すると驚くようなこともありますが、今の日本でも起こっていること。そう捉えていかないと、今、日本人が『LULU』をやる意味がないことになりますから。私たちの物語としてお届けできればと思っています。


撮影:宮田浩史



《小山ゆうな》ドイツ・ハンブルク出身。早稲田大学第一文学部演劇専修卒業。ワダユタカのもとでスタニスラフスキー·システムを学んだ後、ドイツにて演出を学ぶ。劇団NLT演出部を経て、現在はさまざまな分野・国のアーティストが平等に意見を出し合い作品づくりをするアーティスト集団「雷ストレンジャーズ」を主宰し、全作品を演出。2018年に『チック』にて小田島雄志・翻訳戯曲賞、読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。今夏に『チック』(翻訳·演出)の再演を手がける。さらに2020年7月には新国立劇場での演出が控える。

《霧矢大夢》大阪府出身。元宝塚歌劇団月組トップスター。2009年に文化庁芸術祭演劇部門新人賞を受賞。2012年の宝塚歌劇団退団後も舞台を中心に精力的に活動を続けている。主な舞台の出演作に『マイ・フェア・レデイ』『ラ・マンチャの男』『THE LAST FLAPPER』『この熱き私の激情』『タイタニック』『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』などがある。2015年には『I DO! I DO!』で第22回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。6月にブロードウェイミュージカル『ピピン』、11月にミュージカル『ビッグ・フィッシュ』に出演予定。

取材・文=いまいこういち

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