カタール優勝で地殻変動のアジア。潤沢な資本を賢く使う国家の脅威。
カタール優勝で地殻変動のアジア。潤沢な資本を賢く使う国家の脅威。
 アジアカップ開幕前に、シャビ・エルナンデスがカタールのテレビ番組で同国を優勝に推したと知った時、きっとリップサービスだと思っていた。


アルモエズ・アリらのスーパーゴールが強烈な印象を残す一方で、カタール代表は組織の熟成度も高かった。 (photograph by Takuya Sugiyama)

 アジアカップ開幕前に、シャビ・エルナンデスがカタールのテレビ番組で同国を優勝に推したと知った時、きっとリップサービスだと思っていた。2015年に高待遇で迎えてくれた国の代表チームを応援しないわけにはいかないだろうし、数年間の満たされた生活のなかでそこは彼の第二の故郷になっているのかもしれない。

 だから予想にバイアスがかかったとしてもおかしくはない。そんな風に、高を括っていた。

 しかし39歳になったティキタカの始祖は、やはりフットボールの賢者だった。過去の最高成績がベスト8にすぎず、ワールドカップ出場経験も持たないカタールの優勝を信じ、その通りになった。ちなみに史上最高の元スペイン代表MFのひとりは日本の準優勝やイランの4強入りに加え、8強のうち7チームまでも的中させている。

国家プロジェクトの成果。

 フットボール史における重要な事象なので、あらためて書いておく。カタールがアジアカップで初優勝を成し遂げた。

 決勝では最多優勝記録を持つ日本を技で凌駕し、運まで引き寄せて完勝。アルモエズ・アリはバイシクルで大会最多得点記録を塗り替え、アブドゥラジズ・ハテムは韓国戦に続いて左足の強烈なミドルをねじ込んだ。どちらも異論の余地なきスーパーゴールだった。

 後半には日本も反撃して南野拓実のゴールで1点差としたが、優位に立った時間に追加点を決められず、主将の吉田麻也がボックス内でテクノロジーの裁きを受け万事休す。アクラム・アフィフに落ち着き払ったPKを沈められ、勝負は決した。

 ペルシャ湾岸に位置する人口約280万人(うち市民権所有者は31万人ほど)の国がアジアの頂点に立った。それは15年前に始めた国家プロジェクトのひとつの成果を意味する。

 国家元首アルサーニ主導の壮大な計画は2004年、ドーハにアスパイヤ・アカデミーを創立したところから始まった。2.5キロ四方の広大な敷地に最新鋭の設備を備え、主にスペイン人たちの優秀なコーチを招聘し、シャビもここで指導を始めているという。

決勝の先発7人が卒業生。

 エースのアリや3点目を決めたアフィフ、そして中盤でシャビのようにパスをさばいた小兵MFアシム・マディボら、決勝に先発した選手のうち7人がここの卒業生だ。また2014年のU-19アジア選手権でカタールに初めてトロフィーを持ち帰ったチームは、この育成組織で学んだ選手たちだけで構成されていた。

 だからあるいは、シャビは心から自信を持って、教え子たちの優勝を予見していたのかもしれない。実際、彼らの高い技術と驚くようなアイデア、泰然とした振る舞いは、2000年代後半から2010年代前半に栄華を誇ったスペインにも通じるところがあった。

 そんな選手たちを日頃から間近で見ていたシャビは、このクオリティーはアジアのシニアレベルでも随一のものだと、確信していたのではないだろうか。

 政治的な背景を考慮すれば、この偉業はさらに輝きを増す。2017年からカタールは周辺国との国交が断絶されており、そのなかには今大会の開催国UAEも含まれる。つまりカタール人のサポーターはUAEに入れず、代表チームの応援に駆けつけられなかったわけだ。

1人当たりの国民総所得世界一。

 平均年齢24.8歳の若いチームは多くの試合で敵意に満ちたブーイングを受けたが、高い個人能力と優れた組織力、不屈の闘志で7試合のすべてに勝利。大会を通じて19得点1失点を記録し、サウジアラビア、イラク、韓国、UAE、そして日本を下したのだから、文句なしの王者だ。

「我々は今日、歴史をつくった」とフェリックス・サンチェス監督は試合後に語った。その通りである。ほかの大陸を見ても、ここまで急激に力をつけ、頂点に立った代表チームはない。

 キャピタリズムの世界のモダンフットボールだ。当然、潤沢な資本を持っているところが有利になる。国土は小さくても1人当たりの国民総所得が世界一の国が、首長の号令のもとにそれを賢く使えば、これまでのヒエラルキーが音を立てて崩れることが証明された。

中国、ベトナム、UAEなども。

 2022年のW杯を開催するカタールはこのタイトルにより、最低限の目標を成し遂げた。実力が伴っていないのにW杯に出場できると揶揄されることは、もうなくなるだろう。

 アジア全体のレベルが底上げされていることは、以前から分かっていた。ただし、ロシアW杯に出場した5カ国が4強にふたつしか残れず、新興国にタイトルまでさらわれてしまうことを予想できた人は、多くなかったはずだ。

 シャビなど、カタールに住む人たちを除いて。

 他国に目を向ければ、中国にもアスパイヤ・アカデミーに匹敵するほどの育成組織があり、ベトナムやタイ、UAEも目覚ましい進歩を遂げている。もはや、日本や韓国、オーストラリア、イランといったこれまでの有力国は、エリート意識を捨てるべきだろう。

 アジアの勢力図は塗り替えられた。我が国も、あらためて襟を正して物事に取り組まなければ、このうねりに飲み込まれてしまうかもしれない。

text by 井川洋一
「海外サッカーPRESS」

(更新日:2019年2月10日)

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