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『岸辺露伴は動かない』は『ジョジョ』の新たな可能性も広げた 見事な“スタンド”の脚色

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 ドラマ版『岸辺露伴は動かない』を観ると毎回感心するのは原作漫画に対する作り手の距離感だ。原作漫画のドラマ化というと忠実に映像化する原作準拠路線か、原作を下敷きにして監督や脚本家が新たな世界観を構築するオリジナル路線かに別れがちだが、『岸辺露伴は動かない』は荒木飛呂彦の漫画の世界をドラマに落とし込んでいるという意味では原作準拠だが、細部には大胆なアレンジが施されている。

 泉京香をレギュラー化して露伴と組ませることで『TRICK』(テレビ朝日系)や『時効警察』(テレビ朝日系)のような男女のバディもののミステリードラマの型に落とし込んでいるのが、一番目立つ脚色ポイントだが、何より最大の脚色は『ジョジョ』の世界観の核となっている「スタンド」に対するアプローチだろう。

 スタンドとは可視化された超能力のことで、漫画では荒木にしか描くことができない独自の造形のキャラクターが背後霊のように浮かびあがり、超能力を発動する姿が見せ場となっていた。見えない力を可視化してキャラクターして描ききってしまう『ジョジョ』の姿勢は極めて漫画的なアプローチだ。対してドラマ版『岸辺露伴は動かない』では露伴のスタンド「ヘブンズ・ドアー」は「ギフト」と呼ばれている。そして、今回登場したトニオの身体に良い料理を作る能力は原作漫画では、パール・ジャムというトマト型のスタンドとして描かれていたが、ドラマ版では手を見ることで体の悪いところを理解することができる「天からの恵み」と語られ、料理自体は古今東西の毒を用いたトニオの調理法の成せる技として描かれていた。

 つまりスタンドは正体不明の天から与えられた特別な力として描かれている。

 スタンドという名称を使わずに、怪異現象を描こうとすることで、ドラマ版『岸辺露伴は動かない』は原作漫画とは違う面白さを獲得してきた。それは今回の「密漁海岸」のように『ジョジョ』第4部のエピソードをアレンジした回だと、よりはっきりと理解できる。

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 最後に泉京香が「イタリアに取材旅行に行きましょう」と話していたため、次回はイタリアを舞台にした「懺悔室」と「岸辺露伴グッチへ行く」になりそうだが、『ジョジョ』第4部をドラマ版『岸辺露伴は動かない』の手法で翻案した「密漁海岸」のような回には、『岸辺露伴は動かない』だけでなく実写版『ジョジョ』の新たな可能性を感じるため、定期的に作り続けてほしい。
(文=成馬零一)

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