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『燕は戻ってこない』森崎ウィンが与える“安心感” 対比的に描かれた女性用風俗と人工授精

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『燕は戻ってこない』写真提供=NHK

 『燕は戻ってこない』(NHK総合)第4話は、男女が体を重ねるりりこ(中村優子)の春画で始まった。男の下で、女は恍惚とした表情を浮かべている。2人のそれは、生殖行為ではなく男女の“まぐわい”だ。リキ(石橋静河)もまた、ダイキ(森崎ウィン)とまぐわった。

参考:『虎に翼』や『光る君へ』が描く“地獄”を歩む女性たち 社会を切り取るNHKドラマの真髄

 草桶基(稲垣吾郎)とその妻・悠子(内田有紀)の子どもを、報酬1千万円で産む契約を交わしたリキ。帰りのタクシー代に、と渡されたお金で彼女は女性用風俗のセラピスト・ダイキを“買った”。沖縄出身のダイキはカラッとした男で、いい意味で洗練されていないところが逆に好感を持てる。

 近年巷で話題となる女性用風俗は、男性セラピストが女性客に性感マッサージなどを行うサービスだ。需要の高まりとともに急増傾向にあり、現在放送中のドラマ『買われた男』(テレビ大阪・BSテレビ東京)をはじめ、さまざまな物語の題材となっている。その背景には女性の“性”をタブー視せずポジティブに捉えていこうとする世の中の流れがあり、性欲も男性だけのものじゃないという認識が広まりつつある。

 一方で、女性用風俗の体験談や男性セラピストへのインタビューなどを読んでいると、利用客が「泣いた」という話がよく出てくる。客の多くは仕事や恋愛の悩み、パートナーとのセックスレスや、男性に対する恐怖心など、さまざまな問題を抱えていて、セラピストのマッサージで心の淀みが涙と一緒に流れるというのだ。つまるところ、彼女たちが風俗を利用する目的は単なる性欲解消に留まらない。

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 そんな女性用風俗で働く男性セラピストに求められるのは“安心感”なのだという。ラブホテルという閉鎖された空間の中で、客といえども肉体的に不利な女性が安心して心と体を開ける雰囲気や佇まい。相当研究したのだろう、森崎が演じるダイキは「あなたが嫌がることは何もしない」という言葉以上に、彼の手先や声や表情が安心感を物語っている。

 ダイキはリキにいろんな話をした。沖縄の離島出身で、本島の学校ではいじめにあったこと。だけど教師になって島に戻ると、つまらなくて死にそうだったこと。それで東京に来たが、食い詰めてセラピストの仕事に就いたこと。2人の境遇はよく似ている。リキも希望を胸に故郷を飛び出したが、生きているだけでお金がかかる東京は彼女を幸せにはしてくれなかった。

 けれど、今さら地元に戻っても居場所はなく、肩身の狭い思いをしながら生きていくことになる。リキは追い詰められ、一線を越えた。ビジネスだと頭では割り切っていても、身体を買われることに心が追いついていかない。悠子は「最初の赤ちゃんは好きな人との子供を産みたいって思うでしょ?」と言った。そうすることができたら、どれだけ良かったか。愛する人と結婚し、子供を持つ。自分一人が生きるのに精一杯なリキにとっては夢のまた夢だ。

 そんなリキが感じている虚しさや惨めさを、全身で包み込んでいくダイキ。“まぐわい”は、漢字で“目合い”と書く。目と目を合わせて、愛情を通わせること。だとしたら、2人のまぐわいはホテルに入った瞬間から始まっていたのかもしれない。リキはダイキの背中に手を回し、思い切り抱きしめた。自分のお金で買った、自分と境遇の似た彼を抱きしめることは、リキにとって自分を抱きしめることだ。そのお金で叔母・佳子(富田靖子)の墓参りに行くこともできたが、今はもうすぐ自分のものではなくなる身体を愛でたかった。

 そしてリキはついに便宜上、基の妻となって人工授精の施術を受けることに。ダイキとのセックスとは打って代わり、内診台に乗ったら自分の意思とは関係なく足が開かれ、器具を突っ込まれる。身体的な負担に加え、屈辱的な思いをしても、子供はできなかった。医師から提案された排卵を確実に促す注射には、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群などさまざまなリスクがある。それでもお金を受け取っている以上、拒否することができない。想像以上の大変さに打ちひしがれるリキに寄り添うのは、自身も不妊症の治療を受けたことがある悠子だ。

 基の精子とリキの卵子で作られる、自分と血の繋がらない子供を育てていく覚悟を決めた悠子。第4話ではそんな彼女の強さが際立った。基は純粋な男だ。自分たち夫婦とリキは対等なビジネス関係であると一切疑わず、当たり前のように子供が生まれ、悠子と3人で幸せな家族になれると信じている。だが、その純粋さは時に凶器となることを、いつも肌身に感じているのが悠子だ。だからこそ、自分が盾となり、基と千味子(黒木瞳)からリキの尊厳を守ろうとしている。主人公であるリキと心が同期し、気を一切抜くことができない本作において、今回はダイキと悠子の存在が唯一の安心材料だった。
(文=苫とり子)

 
   

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