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連載「lit!」第102回:ビリー・アイリッシュ、デュア・リパ、トミー・リッチマン……音楽シーンを騒がせる真の注目作

Real Sound

ビリー・アイリッシュ『HIT ME HARD AND SOFT』

 2024年の音楽シーンはいつにも増して騒がしい。メガポップスターの新作が次々と咲き乱れているのもその理由だし、ラップシーンで巻き起こっている稀に見る大規模なビーフに多くの人々が熱狂しているのもその理由のひとつだ。しかし、真に歓迎すべきは、アーティストのさらなる発展を目にしたり、新たな才能が発掘されたりすることだろう。

(関連:連載「lit!」第84回:「メインストリームの音楽」とは何か? 2023年グローバルポップの動向を総括

 やはり音楽シーンの中心はビリー・アイリッシュなのだろうか。興味があろうとなかろうと、ソーシャルメディア上で彼女の言動は逐一目に入ってくる。例えばテイラー・スウィフトのようなスターがCDやレコードをアートワークの種類を変えて複数形態でリリースする手法を地球環境によくないと非難(後にその矛先は自分自身にも向けていると補足)したり、実はずっと女の子が好きだったと明かしたり、性的なことについてもインタビューなどで赤裸々に語ったり……。4月に開催された『Coachella Valley Music and Arts Festival 2024』(以下、『コーチェラ』)ではヘッドライナーを務めたラナ・デル・レイのステージに登場し、自身の「Ocean Eyes」とラナの「Video Games」をデュエットで披露したのも話題を呼んだ。それはラナからビリーに受け継がれた、囁くように歌うディーヴァというスタイルの系譜が繋がったような、意義深いコラボだった。

 しかしなんと言っても最大のトピックは3年ぶり4作目となるフルアルバム『HIT ME HARD AND SOFT』のリリースだろう(タイトルがラナの危うい魅力に通ずるようで興味深い)。兄フィニアスと共同制作したというのはいつも通り。収録曲は10曲で、メガポップスターのアルバムとしては比較的コンパクトな曲数だが、1曲あたり4~5分とやや長めな曲が目立つのが特徴的だ。また、曲中で大胆にトラックが切り替わるような展開を含んだ曲が多く、15曲くらい入っているような気もする。アルバムの持つ文脈を尊重するために先行シングルをリリースしなかったという判断は、この43分間に詰めこまれたアプローチの多様さとバランスを保つためだったのだろう。リリースの前日にはリスニングパーティがNYで開催された。そこでも一際盛り上がっていた2曲目の「LUNCH」は、出だしから〈I could eat that girl for lunch(あの娘だったらランチに食べられる)〉という奇妙でストレートな歌詞が面白い。全体的にはシリアスな雰囲気もありつつ、ユーモアも欠かさない。ポップスターとしての貫禄も出てきた記念碑的な作品だ。

 デュア・リパの最新アルバム『Radical Optimism』を聴いていると、いますぐ走ってジムに行かなければならないような気がしてくる。「Illusion」のMVではインストラクターのようなデュアのルックにもそのスポーティな雰囲気がよく表れているが、アルバム全体がBPM115~125の四つ打ちで概ね統一されている点や、約36分というコンパクトな構成もエクササイズと親和性が高そうだ。本作の注目ポイントはやはりTame Impalaことケヴィン・パーカーが11曲中9曲の作曲やプロデュース、演奏に携わっていることだ。現代のロックバンドとしては最高峰の成功を築いたケヴィンだが、自身のプロジェクトとしては2020年のアルバム『The Slow Rush』を最後に、プロデュースや客演などで幅広い領域で裏方に徹しているようにも見える。それでも今作におけるシンセやドラムの音色は紛うことなくTame Impala印だ。また、チャーリー・XCXやキャロライン・ポラチェックとの仕事で知られる異形のポップ職人、ダニー・L・ハールの参加も見逃せない。先述したビリーもそうだが、かつてインディと称されたサウンドは、完全にメインストリームの位相に移ったのだろう。それを象徴するような作品だ。

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 ケンドリック・ラマーによるドレイクへの痛烈ディス、「Not Like Us」が記録的なヒットとなっている全米シングルチャートだが、次点につけているのはテイラー・スウィフトでもアリアナ・グランデでもなく、トミー・リッチマンという2000年生まれの新人だ。早くも今年のサマーチューンとの呼び声も高い「MILLION DOLLAR BABY」は、バウンシーで強烈なビート、80sのポップスターの数々を思わせるようなハイトーンボイス、メンフィス風のフロウ、そのどれを取っても中毒性抜群だ。このほぼ無名に近いヴァージニア州出身のアーティストは、R&Bシンガーのブレント・ファイヤズ率いるISO Supremacyに所属している。ブレント・ファイヤズの楽曲に客演で参加した経験はあるものの、本格的なヒットは初だ。画素数の低いVHS風のティーザーがTikTokで瞬く間に話題になったのがきっかけだが、それでもいきなり全米2位という結果を残してしまうとは、いち早くその才能を見抜いたブレント・ファイヤーズも予想していなかったのではないか。そんなブレント・ファイヤズ自身もまだ28歳なのが空恐ろしい。早速ドン・トリヴァーとのリミックス版のリリースも噂になっており、トミー・リッチマンから一瞬たりとも目が離せない。

 現在TikTokで700万フォロワーを獲得している米ワシントン州出身の21歳、ベンソン・ブーンは米国のオーディション番組『アメリカン・アイドル』で一躍有名になった。審査員であるケイティ・ペリーに激賞されるほどだったにもかかわらず、音楽制作に力を入れるために番組を降板。自作曲をネットにアップロードして注目を浴びるうちに、Imagine Dragonsのダン・レイノルズに見出され、彼のレーベルであるナイト・ストリート・レコードと契約した。最新アルバム『Fireworks & Rollerblades』はスタジアムでの鳴りを意識したようなロックサウンドに、激情を吐き出すように声を張り上げたボーカル、そして大袈裟なほど劇的な展開がティーンの支持を集めている。サウンドがロック寄りなのがここ数年のポップシーンの大きなトレンドとも合致している。中でも特大ヒットなのがこの「Beautiful Things」だ。ロサンゼルスに引っ越してきたばかりの眠れない9月29日の夜にピアノで書いた曲なのだという(※1)。彼の音楽性は「親密で日記的なポップ」と称されるが、まさにこの「日記」的な素直さが共感を呼んでいるのかもしれない。

 先日の『コーチェラ』で衝撃的なステージを披露し、人気が急上昇したミズーリ州出身の1998年生まれの26歳、チャペル・ローン。一度見たら忘れられない強烈なキャンピーな装いは、ドラァグクイーンにインスピレーションを受けたものだという。ローンは昨年リリースのデビューアルバム『The Rise and Fall of a Midwest Princess』が批評的評価をじわじわと集めていた新人だが、実はわずか17歳の時点でアトランティック・レコードと契約し、2017年にはEPまでリリースしていた。しかし、2020年にロサンゼルスでゲイクラブを訪れたことがきっかけでできたシングル「Pink Pony Club」がヒットしたものの、期待されていた数字を達成することができなかったためレーベルを解雇されてしまう。そして後にアイランド・レコードに移籍して繰り出されたのが上述したデビューアルバムで、それから先日の『コーチェラ』でさらに火がついたというわけだ。そんな中でリリースされたシングル「Good Luck, Babe!」は穏やかでどこかゴージャスなシンセポップだ。女性のクィアネスを赤裸々に解放する点はビリー・アイリッシュとも共通するが、初期のローンもラナ・デル・レイのフォロワーだったことも大きな共通点だ(最初期のローンには「Die Young」というラナを明らかに意識した曲がある)。ラナが蒔いた種が、ラナとはまた少し違ったかたちであちこちで芽吹き始めているのだ。

※1:https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/134706/2

(文=最込舜一)

 
   

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