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賃貸物件「家賃の値上げ」に泣き寝入りしない方法。実は手厚く守られている“借主側の立場”を活かすべき

日刊SPA!

 止まらない円安。上がり続ける税金に物価。賃金が多少上がったところで、実質賃金の低下は止まることなく、なんと23ヶ月連続のマイナスを記録した。庶民の生活実感は苦しくなる一方だ。
 かさむ出費に懐が悲鳴を上げるなか、さらなる追い討ちをかけられる人が激増している。家賃の値上げラッシュが巻き起こっているからだ。賃貸物件に住んでいる筆者も他人事ではないし、実際に周囲から「値上げの連絡が来た」と聞いては、次は我が身かと戦慄する日々である。

 しかし日本の法律では、実は借主側の立場はかなり手厚く守られている。家賃の値上げに抵抗することはおろか、値下げ交渉の余地さえ大いに存在する。本記事では、実践的に家賃交渉を行う上で武器となるキーワードを紹介するので、賃貸住まいの皆さまにご活用いただけたら幸いである。

 なお、取材・監修には、弁護士法人「永 総合法律事務所」の弁護士であり、さらにはいわゆる「宅建」をはじめとした不動産にまつわる資格を複数持っている、菅野正太氏にご協力を仰いだ。

◆値上げを拒否して住み続けることはできるのか?

 毎月の固定支出である家賃が値上げされてしまっては、家計には大打撃だ。増額も引っ越しも避けたいが、はたして値上げを拒否しても住み続けることはできるのかと、心配な人も多いだろう。

 結論から言えば、「住み続けることは可能」だ。

「合意更新ができない、要するに賃料が折り合わないまま契約期間が満了しても、基本としては自動的に『法定更新』の状態になります(借地借家法26条1項)。法定更新の場合、期間の定めはなくなりますが、その他は同一条件で契約が更新されたものとみなされるのです」(菅野正太氏、以下同)

 借地借家法とは物件の賃貸借の契約を結ぶ上で適用される法律(*1)で、家賃の増減額の請求可否をはじめとしたあらゆるシーンで参照される。この法律がそもそも、構造的に弱い立場に置かれやすい​​賃借人(借主)を守るために存在しているところが大きいものといえる。

 それは複数箇所に書かれた「この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする」との強行規定からも明白で、素人こそ知っておきたい内容だ。

*1……​​​​無償貸しの場合などは範囲外

◆「法定更新」になった場合はどうなるのか

 だが、家賃増額は依頼の形だけではなく、“更新拒絶通知”という一段階上の形式で連絡が来ることもある。

「どのような理由であれ、更新拒絶通知は期間満了の6か月前までに告げる必要があります。当然、賃料で折り合えなければ契約を終了する旨の場合でも同様です。通常であれば、賃料で折り合いがつかないという理由だけで正当事由が認められることにはならないでしょう。また更新拒絶通知があっても受け入れずに住み続けて期間を満了し、その後に貸主から異議が述べられない場合には、法定更新となります」

 つまり更新拒絶通知を受けていても、その通知に正当性があると判断されない限りは満了後にも追い出されない。

 ただ期間満了後もなお話し合いに決着がついていないと、貸主側が訴訟を起こす可能性も十分にある。敗訴すると退去はもとより、損害賠償の可能性も出てくるので、期間が迫ってきたならば弁護士を頼る道も模索されたい。

◆条件によっては「減額請求」も可能

 いずれにせよ、法定更新はあくまで最終手段として考えるのがベターだろう。増減額の請求は認められた権利であって「法定更新しても、賃料改定の問題が解決するわけではない」のだ。もとより、強硬な態度によって住み心地の良さが失われてしまっては台無しだ。

 では、どのような場合に増減額の請求が適切とされているのか。「土地に関する税金」「坪単価」「インフレ・デフレなど経済事情」に変化が生じた結果、「近傍類地の物件の賃料と乖離」してしまった場合である。

 現在の23区内なら、都心回帰傾向にくわえ物価上昇も著しく、家賃増額の打診も正当とされる事例も多いといえる。反面、このご時世であったとしても、近隣環境の変化や人口流出などから土地代が値下がりしていれば、借主からの減額請求もできうるのだ。

 しかし、新たに提示された金額が必ずしも適切であるとは限らないし、むしろ交渉を見越して、やや強気な金額が最初に出されることも往々にしてある。

◆「増額を拒否していない姿勢」を示しつつ…

 交渉のスタート地点はどのように考えるべきか。

「『理由のある増額なら検討はもちろんするので、まずは根拠資料を示してほしい』というスタンスで、賃料増額を必ずしも拒否していないことを示すのがいいかと思います。その上で提示された増額幅と、固定資産税路線価の上昇率とを照らし合わせるのがもっともシンプルでしょう」

 固定資産税路線価は「全国地価マップ」などのサイトから、誰でも簡単に調べることができる。もとの家賃を契約した年と、直近の数字から上昇率を割り出すだけだ。

 これで交渉がまとまれば御の字だが、決裂することもある。ほかに材料としやすいのが、近傍同種物件の賃料だ。

 貸主側に増額幅の根拠を尋ねたときに資料として提示されることも多いのだが、実は物件種の選定に恣意性がある場合も。

「物件の構造や築年数、間取りや立地の共通性を検証する必要はあるでしょう。耐震基準の新旧(​​’71年が旧、’81年が新。’00年は木造住宅に関する改正)や『RC』、『SRC』の構造の違いといった条件が合っているか、確認してみましょう」

◆覚えておきたい考え方「継続賃料」とは

 さらに、貸主側から出される賃料は「新規賃料」がベースに考えられたものである可能性も高い。

 本来、住み続けていくなかでは「継続賃料」という考え方が存在するのだが、一般消費者には知名度が低く、不利な数字になりがちな「新規賃料」ベースで根拠が示されやすい。

「『新規賃料』とは、簡単にいえば、建物や敷地などを新規に賃貸する場合の賃料を指しており、算定手法はいろいろありますが、市場の需要と供給を加味したものといえます。一方の『継続賃料』とは、既に賃貸借契約などが存在している場合に、これを改定する際の賃料です。こちらももちろん算定手法が多数ありますが、要素として、過去の賃料や契約の経緯等も踏まえたものを指すといえるでしょう」

 ざっくりと言い換えると、「継続賃料」では「当事者間でこれまでに交わしていた金額」も考慮すべき材料となり、周囲の現在の家賃相場のみを基準としない考え方である。

 すなわち、地価や物価等が上昇して「10万円」が新規賃料としては妥当だったとしても、契約時に「6万円」であったとすれば、継続賃料において直ちに4万円増額はできないといえるのだ。

◆「妥当な賃料」をはじき出すには…

 非常に重要なキーワードであるにもかかわらず、なぜ「継続賃料」の認知度はこうも低く、家賃改定のシーンであっても俎上に上りづらいのか。

「不動産鑑定の場面で散見される専門用語であり、一般の方が厳密に区別していないであろうことがひとつ。ひいては継続賃料や新規賃料を正確に算出しようと思えば、不動産鑑定が必要になり、時間も費用もかかってしまいます。そうしたなか、貸主にとっても、資料として入手しやすいのが、他のテナント募集広告などに記載のある賃料(新規賃料)であることなどが理由に挙げられると思います」

 知らないと損する「継続賃料」。不動産鑑定で正確な数字を出すことは非現実的とはいえ、相手が提示してきた賃料の上昇率が妥当な範囲であるのかについては、簡単にアタリをつけることはできる。

 その方法とは、固定資産税と路線価の上昇率を平均し、それをさらに半分に割るだけ(*2)。固定資産税を大家に聞けない場合はやや高めの金額が出てしまうが、路線価の上昇率のみで計算してもよい。

 計算結果に不安があったり、そもそも面倒に感じたとしても、単に「継続賃料」の語とその概念を把握した上で、先方に伝えられるだけでも十分。非常に役立つ交渉カードとなること請け合いだ。

*2……『ダイヤモンド・ザイ9月号』(ダイヤモンド社)を参照

◆大家との交渉ではどんなカードを切るべきか

 交渉余地となりそうなものは、まだあるのだろうか。

「築年数の古い物件であれば、建物利用にあたって不便なこと、修繕が本来必要であるものが放置されている等の事情があれば、物件価値を下げうるものとして交渉の材料といえます。賃料が低額であっても、その分賃借人が賃貸人の分も修繕を負担しているなど、賃料が安いことで必ずしも得をしているわけではない事情があればその点も主張できるかと思います」

 さりとて、大家との仲をこじらせないのも重要な点。角を立てないために、工夫できることとは。

「『自分としては、●●の理由で、●万円なら負担できるのだがどうでしょうか』と、対案を示しながら協議をすればいきなり関係が悪化するということはないでしょう。このときに相手の資料や根拠が妥当でないという指摘ももちろん大事ではありますが、例えば物価高で自分の生活も苦しいので理解してほしいなど、自身にとって賃料増額は経済的負担が大きい理由などを添えるのもありかと思います」

◆追い出されないために必要な「歩み寄りの心」

 大切になるのは「歩み寄りの心」なのだ。

 それでも万が一、増額を受け入れないことによって「家賃の受け取り拒否」をされてしまったら、「弁済供託」をしなければならない。

 受け取り拒否をされている側であっても、家賃の未納状態が実質的に発生すると滞納とみなされてしまい、それが「追い出し可能な根拠」となってしまう。そこで供託によって、「家賃を払う意思はあるんです」ということを公的に示すのだ。

 専門家に依頼せずとも自力で行える手続きではあるが、「受領拒絶の実態」がないなど供託理由が存在しないと認められてしまっては供託の効力が認められないおそれがあるため、注意が必要である。

 もっとも、以上はすべて「普通借家」契約が前提の話であり、都心で増加中の「定期借家」契約の物件では、まるで話が異なる。

「定期借家の場合、期間満了時は、普通借家契約のような『更新』ではなく、『再契約』という扱いになります。したがって、もとの定期借家契約は終了したうえで、改めて契約し直すということになるため、改定賃料で合意できなければ借家人は退去せざるを得なくなります。そのため、賃料交渉の主導権は事実上貸主側にあるといえるでしょう」

◆家賃増額に備えるための9つのポイント

 定期借家契約は、再開発や老朽化に伴う立ち退きを控えているとの理由のほかに、賃料改定が貸主主導で行いやすいという理由で選択されていることもある。

 普通借家よりも相場に比して軒並み賃料が割安であることが多いのも、こうした背景ゆえなのだ。

「定期借家の場合は、貸主側としても長期の借家契約を想定していない場合が多いので、再契約を繰り返す場合がどこまであるかは何とも言えません。が、仮に再契約交渉の場面になったときには、交渉が決裂してしまうと借家人は退去しなければならないというリスクを慎重に検討したうえで、賃料改定の交渉をしていかなければならない点に留意が必要といえます」

 安いものには理由があるが、高いものには必ずしも妥当性があるわけではない――。このことを念頭に、賢く立ち回らなければ家計は苦しくなるばかり。

 家賃増額に備えるポイントは、下記のとおり。

①普通借家契約であることを確認
②心情面を伝えつつ、貸主に増額の根拠を聞く
③路線価を確認する
④近傍同種物件を根拠に挙げられたら、耐震基準や構造などの精査をする
⑤新規賃料と継続賃料について把握しておく
⑥合意更新ができずとも更新拒絶通知がなければ、自動的に法定更新となる
⑦更新拒絶通知は期間満了の6か月〜1年の期間内に出さなければならない
⑧更新拒絶通知があっても、貸主側から異議申立がないか、あっても正当と認められなければ、法定更新となる
⑨もし家賃の受け取り拒否をされたら、弁済供託をする

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 対話を重ねることがなにより重要なのは当然として、足元を見られないためにも知識をしっかりと蓄えておきたい。

<取材・文/海原あい>



【海原あい】
コンビニで買えるビール類はほぼ全制覇しています。本は紙派。さらに調味料と服とスペースエイジ系のインテリアを収集しているため、収納不足に陥りがちです。好きな検索ワードは「備忘録」
 
   

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