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『岸辺露伴は動かない』シリーズの集大成となった「密漁海岸」 “次回”も傑作間違いなし!

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『岸辺露伴は動かない』第9話「密漁海岸」写真提供=NHK

 ドラマ『岸辺露伴は動かない』(NHK総合)シリーズに新たな名エピソードが誕生した。5月10日に地上波放送となった第9話「密漁海岸」である。

参考:『岸辺露伴は動かない』「密漁海岸」注目ポイントを解説 「ジャンケン小僧」復習が“ベネ”?

 『岸辺露伴は動かない』の原作漫画の中でも屈指の人気を誇る「密漁海岸」は、岸辺露伴(高橋一生)とトニオ・トラサルディー(Alfredo Chiarenza)が「ヒョウガラ列岩」へと「ヒョウガラクロアワビ」を密漁しにいくという、海中での描写も含めて実写化が難しいとされてきたエピソード。5月5日にBSP4Kで先行放送され、5月18日には別視点で描いたPrime Video限定エピソードの独占配信が控えている。

 今回の「密漁海岸」は、『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部「ダイヤモンドは砕けない」でトニオが初登場する「イタリア料理を食べに行こう」と「密漁海岸」を前後編として繋ぎ合わせた構成となっているのが特徴だ。

 前編に関しては、原作のキャラクター虹村億泰のポジションを露伴と泉京香(飯豊まりえ)が担っており、「医食同源」のスペシャリストであるトニオのイタリア料理を食べ、露伴は大量の薄皮のような垢が出ることで「かるいッ!」と肩こりが治り、京香は噴水のように溢れた涙を流すことで寝不足を、さらに虫歯が吹っ飛び新しい歯に生え変わるという、かなり大胆な演出でトニオの「ギフト」(能力)を初見の視聴者に解説している。

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 そもそも露伴の出てこない『ジョジョ』のエピソードを『岸辺露伴は動かない』の世界観に違和感なく落とし込んでいることが大胆かつチャレンジングだが、同時に露伴と京香がレンジの広い強度を持ったキャラクターであることも証明している。もちろん、それは高橋一生と飯豊まりえの芝居あってのものでもあるが。これぞ荒木飛呂彦の比喩表現といった「味の調和」を例えた、「サイモンとガーファンクルのデュエット!」「高森朝雄の原作に対するちばてつやの『あしたのジョー』!」には放送に先駆けて行われた試写会でも笑いが起こっていたほどだ。

 それほどまでに荒唐無稽でありながらも、映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』を経てのドラマシリーズとしての原点回帰としても成立させている。なお、歯の生え変わりは第1期「くしゃがら」の志士十五の喉奥で蠢く「黒い何か」を、大量の涙のギミックは『ルーヴル』のエマ・野口(美波)が「後悔」に襲われ溺れる特殊造形に近い技術がそれぞれ使用されていると思われる。

 「密漁海岸」の実写化において、多くのファンが心待ちにしていたのが露伴とトニオの「“密漁”をします」(トニオ)、「だから気に入った」(露伴)というやり取りである。どんな病気でも治してしまうという伝説のヒョウガラクロアワビ。トニオのフィアンセでグレープフルーツほどの腫瘍を頭に抱える森嶋初音(蓮佛美沙子)の病を治すために、2人は密漁へと向かうことになるが、その婚約者の存在を把握した上で、トニオの方から密漁を持ちかけるように焚きつけていく、露伴の好奇心を抑えきれない表情。

 それは第1期「富豪村」の一究(柴崎楓雅)や第3期「ジャンケン小僧」の大柳賢(柊木陽太)と対峙した際と似ており、盛り上がっていった先で「“密漁”をします」、「だから気に入った」とあえてトーンを抑えめに「引く」芝居をするその緩急は、露伴と大柳との会話を彷彿とさせるものでもある。さらにこのセリフの続きとしてトニオの決意に満ちた「ベネ(良し)」までがセットだ。

 鮑の密漁のために露伴とトニオが海岸へと出ていく後編では、水中での撮影チームを新たに迎え入れ、実際の海でのロケと潜水用のダイビングプールで撮影した海中でのシーンが見ものだ。水深が10メートルはあるプールで、高橋は3メートルから5メートルぐらいの深さまで潜り、3kgはある重りを鮑の裏側に接着剤でみっちりと付け、自身が本当に沈めるか調整していったという。鮑だけでなくその天敵として「ヘブンズ・ドアー」をかける「タコ」を含めたCGを使わないどこまでもアナログにこだわったチームとしてのスタンス、月明かりの岩山に現れる無数の人骨、古文書を読ませておびき出して殺す「罠」といった先人たちの「知恵」や「誇り」といった要素は、『岸辺露伴は動かない』シリーズ全体に通底している「妖怪」「日本神話」「怪異」といった部分にリンクし、法華経のような菊地成孔/新音楽制作工房の音楽が、その恐怖を増幅させている。「密漁海岸」は、これまでの経験から培った芝居や技術、演出、あらゆる要素を詰め込んだ集大成と呼ぶべき傑作であるが、『ルーヴル』での撮影から生まれた手応え、露伴の言う「確信めいたもの」がチームとして「密漁海岸」に挑戦する自信に繋がっていったのだろう。

 シリーズ恒例の男A(中村まこと)、男B(増田朋弥)を相手に露伴の「ヘブンズ・ドアー」を説明するアバンでは、露伴が「味」を確かめるシーンがある。これは『ジョジョ』で露伴が初登場した際に、ペン先で殺した蜘蛛に対して「味もみておこう」とペチャペチャ舐める姿を思い出させる場面だ。脚本・演出を担当した渡辺一貴監督が言うには、この露伴の行動は脚本には存在せず、撮影の前日に高橋が打ち合わせで提案してきた半分アドリブに近い露伴としての動きだという。結局、露伴は取材のために探していたモクズガニをもう一度見つけることはできず、「味」を確かめたのはゴカイである。

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