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夏帆は独特な“安心感”を持つ俳優だ 『ブルーモーメント』の物語にどう溶け込む?

Real Sound

『ブルーモーメント』©︎フジテレビ

 日頃、何気なく目にしている天気予報。洗濯物を干す時、服を決める時、出かける予定を立てる時には気にするけれど、あまりに日常すぎて、自分の命を守るためにあるということを考えたことはなかった。

参考:夏帆が『silent』に刻んだ名演 視聴者を涙させた芝居の凄みを紐解く

 ドラマ『ブルーモーメント』(フジテレビ系)はそんな天気予報や自然に対する甘い認識に警鐘を鳴らしてくれる作品だ。第1話と第2話では、雪山での事故で行方不明になってしまった人たちを救うため、SDM(特別災害対策本部)が始動し、天気の変化を予測する晴原(山下智久)の指揮の下、救助隊が助けに向かうというハラハラする展開が巻き起こった。

 そして第3話では、SDMの本格的な始動のため、選抜された医療班候補者が加わることになる。その中には、天才脳外科医と言われていたが、今はメスを持つことができなくなってしまった汐見早霧(夏帆)の姿も。過去の出来事を抱え、その高いプライドから心の傷を受け入れられず、医療行為すらやらせてもらえない早霧。対策本部車ドライバー兼料理人の丸山(仁村紗和)が「SDMに関わろうなんて考えてる人間は色々抱えている方が普通でしょ」と言っていたように、様々な過去を抱えているSDMのメンバーたちだが、次回は絶望の淵に立っている汐見に焦点が当てられることになる。

 汐見を演じる夏帆は、どんな作品にも自然と溶け込んでいるような、独特の“安心感”を持つ俳優という印象がある。2008年に日本アカデミー賞で新人俳優賞を獲得した『天然コケッコー』では、田舎で暮らす中学生のそよを演じ、東京から越してきた広海(岡田将生)との恋愛模様や自分自身の性格に思い悩む等身大の学生の姿を体現。2013年公開の『箱入り息子の恋』では、恋愛経験の少ない健太郎(星野源)と恋に落ちる目の不自由な奈穂子役、2015年公開の『海街diary』では綾瀬はるか、長澤まさみに続く三姉妹の三女・千佳役として個性的でマイペースなキャラクターを演じた。東京ドラマアウォード2023にて助演女優賞を受賞した『silent』(フジテレビ系)では、耳が不自由になった想(目黒蓮)に寄り添ってきた友人・奈々役を好演。自身も聴覚に障がいがあり、言葉で簡単に気持ちを表現できないという役だからこそ、目つきや表情、そして手話で自分の気持ちを懸命に表し、視聴者の心を動かした。

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 また、バカリズム脚本作品の『架空OL日記』(読売テレビ系)や『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)でも主人公の日常にすっと入り込んでいた。主人公の周りで印象的な言動を残すような、物語に必要不可欠なキャラクターも演じ切るのだ。さらに、CM制作の現場で働き、不倫し、毒を吐きまくる……といった新たな一面を見せた『ブルーアワーにぶっ飛ばす』では、避けていた実家に帰省した時に見せる空元気な姿や、弱っているおばあちゃんの爪を切る時に涙を我慢している表情などを見せる。常に揺れ動く心の様子が表情に滲み出ており、それがストーリーの真髄に直結している。

 夏帆は爽やかな笑顔を見せることが多いように思うが、それだけでなく、無理をして作っている笑顔や不安と緊張が滲む笑顔なども見せ、言葉だけでなく自在な表情の演技でもそのキャラクターの本質を語る。そして淡い水彩絵具のように、じわじわと物語を包み込むような鮮やかさも併せ持っている俳優だ。

 ちなみに『ブルーアワーにぶっ飛ばす』の「ブルーアワー」とは「一日の始まりと終わりのあいだに一瞬だけ訪れて、空が青色に染まる静寂の時間(※)」のことで「ブルーモーメント」とも同義とされる。自然の淡く儚い美しさを見ることができるブルーアワー/ブルーモーメントと夏帆は、人をほっとさせるような共通点があると言えるのではないだろうか。今回の『ブルーモーメント』でも視聴者が思わずのめり込むような、人の命を救う医者として存在感を発揮することを期待したい。

 ゴールデンウィークが終わり、また社会生活が戻ってきた世の中だが、これからは梅雨前線や台風の動きを確認するために、天気予報を確認することが増えるのではないだろうか。『ブルーモーメント』のSNSでは「ハルカンのお天気用語解説」と題し、晴原によって「ブルーモーメント」や「南岸低気圧」など様々な気象用語がわかりやすく解説されている。ドラマの中でも、天気を甘く考えている人が多かったが、いざという時に役に立つ知識があるかもしれない。

 汐見を含むSDMのメンバーが抱える過去が明らかになっていくドラマとしての面白さに加え、そして次々に起こる自然災害や事故からの教訓などを通して実生活にも影響を与える気象リテラシーを高めてくれるドラマ『ブルーモーメント』。最近は、晴原と仲間たちの成長や葛藤のストーリーを楽しみに水曜日の夜を迎えている。

参照
※ https://www.bitters.co.jp/blue-hour/
(文=伊藤万弥乃)

 
   

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