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篠原涼子が持つ“笑いのDNA” 『イップス』を上質なミステリーコメディに昇華させた力量

Real Sound

『イップス』©︎フジテレビ

 篠原涼子とバカリズムがW主演を務めるフジテレビ金9ドラマ『イップス』。たっぷり働いた金曜の夜に、ふたりの会話で笑みをこぼす。至福の時間である。

参考:篠原涼子×バカリズム、“初バディ”の相性は? 「回っていない部分での息はぴったり」

 本作は、小説が書けなくなったミステリー作家・黒羽ミコ(篠原涼子)と、事件が解けなくなったエリート刑事・森野徹(バカリズム)がバディを組んで、事件を暴くミステリーコメディーだ。なんだかんだと事件に巻き込まれるミコと森野がおかしいし、なんだかんだと自分たちの欠点を補い合って謎を解く姿は見ていて痛快である。

 何より、このドラマは「俳優・篠原涼子の振り幅を堪能できる」というお得な点がある。ミコは自由奔放で、殺人事件に遠慮なく首を突っ込んでいく。森野は彼女のアンチだが、ファンでもあるため、仕方なく見学を許容している状況だ。

 森野と共に力を合わせ事件を解決したあと、容疑者に「もがき続けていたら、絶対にリスタートできる」と言葉をかけるミコ。その台詞は、イップスで悩む自分自身に言っているのかもしれない。そんな彼女がふと見せる表情は、どこか憂いがあって、“さっきまで森野とのやりとりで笑っていたのに”とハッとさせられる。ミコも人間なのでいろんな表情があるのは当たり前なのだが、その振り幅に驚く。

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 映画・ドラマファンに「心に残っている篠原涼子の出演作品を教えてください」と質問をしたら、きっと大きく意見が割れるだろう。

 『anego[アネゴ]』(日本テレビ系)、『アンフェア』(フジテレビ系)、『ハケンの品格』(日本テレビ系)といったシリーズ化や映画化した主演作品はもちろん、仕事復帰する妻を演じた『アットホーム・ダッド』(フジテレビ系)、佐倉想(Snow Man・目黒蓮)の母役での名演が視聴者の涙を誘った『silent』(フジテレビ系)といったバイプレイヤーとして存在感を見せたドラマなど、記憶に深く刻まれた作品が多いように思う。

 こうした“カッコいい刑事”や、“息子を支える母”といった役柄はもちろんのこと、コメディー作品でもきらりと光るのが彼女の底知れないところだ。

 おやじ女子を演じて「かわいくて面白い」と絶賛の声があったラブコメ『ラスト・シンデレラ』(フジテレビ系)、反抗期の娘に嫌がらせのようにキャラ弁を作る母を演じた映画『今日も嫌がらせ弁当』(2019年)、そしてバカリズムが脚本を務めた映画『ウェディング・ハイ』(2022年)では、トラブル続きの結婚式を成立させようと奮闘するウェディングプランナーを演じた。彼女は、役柄によって振り回す役でも振り回される役でも、さらりと演じてしまう。

 そもそも“人を笑わせる”というのはとても難しいことだ。同じ台詞でも言葉のイントネーションや間(ま)の使い方によって、笑えるものも笑えなくなってしまう。しかし、篠原はそのあたりを熟知しているようにも感じる。それもそのはず。“笑い”において、篠原はある意味で英才教育を受けてきた。デビュー直後に伝説的なコント番組『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)にレギュラー出演し、人気バラエティーも数多く経験。そこで“人を笑わせるということ”を間近で見て、学んできたのだろう。だから、篠原涼子はコメディーでも心惹かれる演技ができるのだ。

 『イップス』でもそんな彼女の実力が遺憾なく発揮されているように思う。バカリズムの天才的な“受け”もあって笑いも増幅しつつ、彼女がいることで容疑者と対峙するラストシーンがグッと締まる。篠原は、コメディーに寄りすぎず、シリアスにもなりすぎないよう手綱を握り、本作品を上質な「ミステリーコメディー」に昇華させる役割を担っているのだ。

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