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三笘の不在は相手にとって何よりのアドバンテージになる――「9日間・7試合」の取材行を振り返る【英国人コラム】

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三笘の不在は相手にとって何よりのアドバンテージになる――「9日間・7試合」の取材行を振り返る【英国人コラム】(C)SOCCER DIGEST Web
 代表のAマッチウィークによる3月のプレミアリーグ中断が、例年以上に長く、そして無粋に感じられたのは、優勝争いがいつになく白熱していたからだ。
 
 アーセナル、マンチェスター・シティ、リバプールの3チームがしのぎを削る三つ巴のタイトルレースは、史上稀に見る大混戦だ。これから佳境を迎えるそのときに、水をさしたインターナショナルブレイクは、どうにも味気なく、恨めしかった。
 
 だから、待ちかねたように取材に飛び出した。ここロンドンを中心に入念に予定を組んだ。9日間で7試合という、むしろ嬉しい強行軍だ。
 
 まず向かった先は、ブレントフォード対マンチェスター・ユナイテッド戦。優勝争いとは関係ないが、ユナイテッドはチャンピオンズリーグの最後の1枠を目指して必死の戦いを続けている。ただ、それ以上に、このカードには観るべき理由があった。ユナイテッドがアウェーに乗り込んだブレントフォード戦と言えば、例の「8マイル事件」があった試合だ。
 
 昨シーズンの2節だった。ブレンドフォードに0-4とこっぴどくやられたその翌日、テン・ハーフ監督は選手を走らせた。その距離8マイル(約13㎞)。いわゆる“罰走”だった。8マイルは試合での走行距離の差。ユナイテッドはブレントフォードに8マイル走り負けたから、勝つためにはそれだけ走る必要があるんだという、それがテン・ハーフのメッセージだった。テン・ハーフが立派だったのは、選手と一緒に自分も走ったこと。ユナイテッドはそこから巻き返して、3位でシーズンを終えたのは周知の通りだ。
 
 あれから1年半が経って、ユナイテッドは良くなるどころか悪くなっていた。とくにパッとしない戦いぶりで、1-1の引き分け。クラブの体制も大きく変わり、テン・ハーフは今シーズンで終わりだろう。悪い監督ではないが、ユナイテッドは彼にはちょっと器が大きすぎたのかもしれない。
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 この翌日がいよいよ本番、マンチェスター・シティとアーセナルのショーダウン(天王山)だ。でも、結論から言えば、ゲームとしては凡庸だった。期待が大きかった分、余計に肩透かしを食らった感じがしたな。どっちも負けないようにという慎重な振る舞いで、いささかダルなスコアレスドローだった。
 
 理解はできる。優勝争いがここまで熾烈だと、勝点を失うことはあまりにも大きな痛手だ。アルテタにしても、ペップにしても、納得ずくの痛み分けだろう。
 
 ただ、どうなんだろう。リバプールはそれでもアグレッシブに戦い続けているからね。諸般の事情でこの7日間のスケジュールに組み込めず、TV観戦となったユナイテッド戦も、2-2の引き分けで勝点3を逃したとはいえ、アグレッシブに攻めて、エキサイティングに戦い抜いた。個人的には、こういうチームが勝つべきだと思う。
 
 ロンドンに戻って、ここからウェストハム対トッテナム、アーセナル対ルートン、チェルシー対ユナイテッドとウィークデーのナイトゲーム3連戦。 ウェストハムとスパーズは、あの「ラザニアゲート」が有名な因縁の対決だ(編集部・注/詳しくはワールドサッカーダイジェスト本誌24年2月1日号を参照)。
 
スパーズはトップ4争いの真っ只中で、ウェストハムもまだヨーロッパ行きの可能性を残している。しかし、平日夜という舞台設定もあってか、ゲームは淡々と進み、1-1で淡々とタイムアップ。終了を待たずに席を立ち、帰宅の途に就く観客も多かった。翌週にレバークーゼン戦(ヨーロッパリーグ準々決勝)を控えたウェストハムのファンは、もうそっちに気持ちが向いていた。
 
 アーセナル対ルートンは、アーセナルの2-0で順当そのもの。シティとの大一番から中2日で、心身ともに難しいはずだった試合をきっちり勝ち切ったアーセナルには、とくに精神的な成長を感じた。シティ戦からスタメンを5人入れ替えて、サカやライスを休ませながらのこの勝利は、優勝に向けて価値ある1勝だ。
 
 ルートンでは、1月に加入した橋岡大樹が3バックの右CBで先発。不慣れなポジションだということもあるのだろう、前半終了間際にオウンゴールを献上したのは残念だった。
 
 寂しかったのがチェルシーとユナイテッドの一戦だ。一昔前ならそれこそタイトルショーダウン(優勝が懸った大一番)だったのに、いまは覇権の行方に何の影響も及ばさない、しがない中位対決。ミッドウィークのナイトゲームという扱いが、両チームの現状を物語っているだろう。4-3で決着するスリリングなシーソーゲームで、幕切れも劇的だったのに、むしろしんみりしてしまった。
 
 次に向かったのはブライトン対アーセナル戦、結果は3-0でアーセナル。もう少し接戦になるかという予想、いや希望があっけなく打ち砕かれたのは、ブライトンに三笘がいなかったからだろう。ブライトンと対戦する相手が最も恐れ、警戒し、対策に頭を悩ますのが三笘だ。その不在は、相手にとって何よりのアドバンテージとなる。
 
 シーズン序盤は無敵を思わせたブライトンが下降線を辿ったのは、デ・ゼルビ監督の身辺が騒がしくなったからだろう。去就をめぐる噂話がチームを掻き乱したのは間違いない。
 
 最後のトッテナム対ノッティンガム・フォレスト戦では、再確認したことがある。それはソン・フンミンの人気ぶりだ。スパーズ・ファンのほぼ全員が7番のユニホームを着ていて、クラブご自慢の大型ビジョンには試合前からソン・フンミンが大写し。アップするその一挙手一投足を専用カメラが追うんだから驚きだ。
 
 ぎゅっと詰め込んだ取材行を振り返り、総括のようなことを述べるなら、改めてプレミアリーグの魅力を感じた「9日間・7試合」だった。
 
 ロンドンのスタジアムで度々目にしたのが、アメリカからの観戦客だった。何人かと話をすると、彼らは異口同音に言った。プレミアリーグこそ世界最高のスポーツイベントだと。僕は深く頷いた。
 
 
文●スティーブ・マッケンジー(サッカーダイジェスト・ヨーロッパ)
 
Steve MACKENZIE
スティーブ・マッケンジー/1968年6月7日、ロンドン生まれ。ウェストハムとサウサンプトンのユースでプレー経験がある。とりわけウェストハムへの思い入れが強く、ユース時代からのサポーターだ。スコットランド代表のファンでもある。大学時代はサッカーの奨学生として米国で学び、1989年のNCAA(全米大学体育協会)主催の大会で優勝した。現在はエディターとして幅広く活動。05年には『サッカーダイジェスト』の英語版を英国で手掛け出版した。
 
※『ワールドサッカーダイジェスト』2024年5月2日号の記事を加筆・修正

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