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バカリズムの独特な“脱力感”が生む心地よさ 『イップス』森野は究極の“ハマり役”に

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『イップス』©︎フジテレビ

 放送中のドラマ『イップス』(フジテレビ系)にて、篠原涼子とともにW主演を務めているバカリズム。数多くの映画やドラマで主演を務めてきた篠原のパフォーマンスもさることながら、本作における“俳優・バカリズム”が素晴らしい。彼は圧倒的なハマり役を得たのではないだろうか。

参考:バカリズム×オークラが語る、脚本、芝居、笑いについて 「ずっととんがり続けている」

 本作でバカリズムが演じているのは、“イップス”が原因で捜査ができなくなってしまった刑事・森野徹。かつて彼は組織内のエリートだったが、あることをきっかけに事件を解くことができなくなってしまっている。そんな森野は、篠原演じるミステリー作家・黒羽ミコと出会い、これがある種の転機に。ミコもまた、“イップス”が原因で書くことができなくなったミステリー作家だ。このふたりが奇妙なバディ的関係となり、互いに欠けたところを補いながら、事件の謎を解き明かしていく。
 
 ちなみに“イップス”とは、心の葛藤が筋肉や神経細胞、脳細胞にまで影響を及ぼし、“当たり前にできていたことができなくなってしまう心理的症状”のこと。人によっては日常生活にも支障が出るレベルの不調という、考えただけで恐ろしい症状だ。劇中の森野は事件現場である瞬間を迎えると(つまり、真実を導き出そうとすると)、言葉に詰まり、フリーズしてしまう。フィクション作品におけるバカリズムの演技は飄々としたものが多かっただけに、微妙な表情筋の変化で“イップス”を表現するさまに驚いた。まさに「パチンッ」と思考回路がショートしてしまったように見えるのだ。

 通常の森野はバカリズムのパブリックイメージと重なるところがある。常に脱力感のある独自のリズムで言葉を発する人物だ。もとからバカリズムは滑舌がいいので、彼のセリフまわしは聞き心地がいい。だからこそ、ごく自然な“イップス状態”への演技の移行に驚くのだ。それでいてバカリズムが立ち上げた森野像は淡々としていて、篠原が演じるミコとは好対照をなしている。

 森野のキャラクターに関して“バカリズムが立ち上げた”と先述したが、これは脚本を担当しているオークラの当て書きらしい。だからこんなにもハマっているのかと納得。当て書きなのだから、主演とはいえ“俳優・バカリズム”として気張ることなく現場に立つことができているということなのだろうか。いや、すんなり納得するわけにはいかない。本作の情報を初めて目にしたとき、当然のようにバカリズムが脚本も担当しているものだと思ったから。 これまでにも彼は、『架空OL日記』(2017年/日本テレビ系)『ノンレムの窓』(2022年/日本テレビ系)や『ブラッシュアップライフ』(2023年/日本テレビ系)、映画では『地獄の花園』などにて脚本を担当し、出演もしてきた。作者自身が創り上げた世界観に溶け込むことに関して、特別に珍しいものだとは考えてこなかった(もちろん、誰にでもできるものではない)。しかし他人の書いたキャラクターを演じるとなれば、話は別。いくら当て書きとはいえ、そこではやはり“俳優・バカリズム”に視線が向かう。

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 思い返せば、『隣人X -疑惑の彼女-』(2023年)で林遣都が演じる記者に厳しいプレッシャーを与える上司を演じていたし、それはバカリズム自身のパブリックイメージとはかけ離れたものだった。それ以前にも彼の俳優としての出演作は多々ある。演じてきた役がいつもバカリズムらしいものだったわけではない。だから彼の俳優としての器用さと振れ幅の大きさは理解していたものの、『イップス』では圧倒的なハマり役を得たのではないかと思うのだ。

 複数のジャンルでトップクラスの才能を発揮し、成績を残し続けられる者はそうそういない。こと日本のエンターテインメント界において各ジャンルの第一線に立つためには、当然ながら類稀なる才能が必要。(そしてもちろん、努力とともに)その才能をどう活かすかだ。トップクラスになるどころか、第一線に立つことも容易ではないことを誰もが知っている。バカリズムは俳優としてもスゴい。
(文=折田侑駿)

 
   

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