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初恋の相手と夫…三人の男女で描く縁の物語 注目の女性監督が語った『パスト ライブス/再会』

シネマトゥデイ

人生における“縁”について描く 『パスト ライブス/再会』より – Copyright 2022 (C) Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved

 今年のアカデミー賞で作品賞と脚本賞候補に選ばれたのをはじめ、インディペンデント・スピリット賞作品賞、監督賞など多くの賞を獲得したセリーヌ・ソンの初監督作『パスト ライブス/再会』(全国公開中)。韓国で生まれ、12歳でトロントに移住、ニューヨークで劇作家として活動してきたソン監督が、自身の体験をもとにオリジナル脚本を執筆している。昨年11月、賞レースに向けて開催された記者会見で、ソン監督と主演女優のグレタ・リーが、世界中で高い評価を得た今作の製作裏話を語った。

監督の実体験がベース

印象的なこのシーンは監督の実体験から生まれた

 本作のストーリーは、大きく3つのセクションに分かれている。韓国に住む小学生のノラとヘソンは、お互いにほのかな恋心を抱いていたが、ノラの家族がカナダに移住することになり、2人は音信不通に。12年後、SNSでヘソン(ユ・テオ)が自分を探していることを知ったノラ(グレタ)は、彼とSkypeでやりとりし始める。それからさらに12年後、ニューヨークに移りアメリカ人の作家アーサー(ジョン・マガロ)と結婚したノラのもとを、ヘソンが訪ねて来ることになり、24年ぶりに2人は再会する。 

 映画の冒頭と後半では、ノラとヘソン、アーサーがバーに並んで会話をするシーンが登場するが、それはまさにソン監督自身が体験したことだったそうだ。

 「ニューヨークのバーで、私は、幼なじみの初恋の相手と、夫にはさまれて座っていたの。それは、3人の人生を再訪する必要性を凝縮したような瞬間だったわ。今作(のアイデア)はそこから始まったのよ」とソン監督。

 「その時に私が感じていたのは、私自身や私の人生に対する鍵を握っているこの2人に対する私の感情は、全く異なるものだということ。そして彼らは、両方の世界にしか存在し得ない私のアイデンティティや自我の一部に対して、もう一方が持つ鍵を知ることは決してないの。とても個人的、自伝的なことから始まったわけだけど、膨大な時間と空間を超える感覚とはどんなものなのかを、描いた作品になったと思うわ」

イニョンがもたらすもの

三角関係ではなく“イニョン”(縁)がテーマの物語

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 よくあるような男女の三角関係を描いた物語ではまったくなく、ソン監督が今作で扱ったのは、韓国語でいうところの“イニョン”(縁)。「人と人との縁」といった、深く普遍的なもので、誰もが共感できるテーマだと言える。

 ノラを演じたリーは、彼女以外は考えられないほどのハマリ役。ソン監督にとって、リーとの出会いはまさに“イニョン”で、「30回、または50回は遡った前世で、あなた(グレタ)と私は100%結婚していたわ」と断言。「恋に落ちるのと同じように、“これ”という人に出会ったときは、もしかしたらこの人かもしれないという予感がするものよ。私はかなり皮肉屋で疑い深い人間だけど、『グレタには、私が求めているノラの魂が宿っている。彼女の核には炎がある』とすぐにわかったわ」と振り返る。

 ソン監督の脚本を初めて読んだリーも、あまりの素晴らしさに驚いた。「私は韓国系アメリカ人で、ロサンゼルス生まれなの。セリーヌやノラとは全く違う移民の経験を持っているわ。でも、脚本を読んでいて、『この感覚はわかる!』って思ったの。まるで電気が走るような感覚だった。セリーヌを再現しようとか、真似しようとか、そういうことじゃなかった。ノラを正確に、そして明確に創り上げるために、セリーヌとコラボレーションできた。本当に一生に一度のチャンスだったわ」と興奮気味に語る。
 
 決してセンチメンタルにならない、抑え気味の自然な演出は、現場で臨機応変に作り出したように見えるかもしれない。しかしリーは「非常に緻密なもので、多くの努力と宿題が必要とされたわ。すべての瞬間の背後に深い意図があったのよ」と明かす。
 
 そしてソン監督は、「俳優の表情で、すべてが生きもするし、死にもする。なぜなら、そこですべてのストーリーが起こるからよ。戦いの振り付けや、アクションシーンを考えたりするのと同じことだわ。その日のプランは何で、グレタの眉毛(の動かし方)とかで、ストーリーテリングをどのように進めていくかを考えたの」と続けた。

 今作を観ると、どこの国の観客も、同じシーンで笑い、泣くというソン監督。多くの人々が、自分の人生における“イニョン”や愛について考えさせられるようで、さまざまな反応を見てきたそうだ。

 「もしその観客が恋愛関係にあるなら、家に帰ってパートナーを抱きしめて、愛していると伝えたくなったと言われたし、今は恋人と悪い関係にあるから、それをやめるべきかもしれない、という人もいたわ。あなたの映画が、私に元彼との過去を乗り越えさせてくれた、という人もいた。とても個人的な体験だから、あなたがどういう人で、人生のどんなパートにいるかによって、ストーリーに対する反応が違うと思う。みんな、子供の頃に愛した人の話をしたがるから、私はどの監督よりも、人々の幼い頃の恋について知っているわ」とソン監督は笑った。

 本作を手がけた大ベテランのプロデューサー、クリスチャン・ヴァションは、初監督とは思えないソン監督の手腕に感心したそうだが、会見での話しぶりからも、明確なビジョンを持ち、自信に満ちたソンの大物ぶりが伺えた。ハリウッドでもっとも注目される女性監督の一人となったソンの今後が楽しみだ。(吉川優子/Yuko Yoshikawa)

 
   

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