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『虎に翼』が朝ドラで生理の現実を描いた意義 “まとまり過ぎ”を避ける吉田恵里香の脚本術

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 よねから見たら、銀行員の父を持つ寅子、男爵家の娘・涼子、弁護士の妻・梅子(平岩紙)、海外からの留学生・崔香淑(ハ・ヨンス)は恵まれている。でも彼女たちよりもっと腹が立つ存在が現れた。

 自ら主婦を選んだにもかかわらず、その境遇に不満を漏らす花江(森田望智)である。第1週で、「したたかに生きる」と寅子に自信満々言っていた花江が、希望であった主婦になったものの、姑はる(石田ゆり子)には褒められず、親友だった寅子は外に世界を広げ、自分は置いていかれたように感じてうじうじしている。この状況に疑問を感じていた視聴者も少なくないだろう。その気持ちをよねが代弁してくれたようだった。

 あれだけ寅子たちが恵まれていると腹を立てていたのに、彼女たちは弱音を吐かず、法を学ぼうとしているのに、花江は弱音を吐き、何もしようとしていないと今度は花江を攻撃するのはいかがなものかという気もしないではない。ただ、よねは、とにかくすべてに腹が立ってならないのだろう。それだけ悔しい思いをして生きてきて、理屈じゃない怒りが体いっぱいに溜まっている。

 だから寅子は、弱音や怒りも全部、吐き出そうと提案する。それを全部受け止めて、整理して、どうしたらより良い方向に進めるか、考えるのが法律の仕事であると寅子は考えているのである。

 寅子は若く未熟であるが、この時点で、実に志高く、戦わない人も、戦えない人もいると認め、それをよねのように「愚か」とくくるのは弁護士以前に人としてどうかとまで考えている。実に立派なのだ。あとは、彼女がその考えをどう実践できるかである。

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 理想は高くあってもなかなか進めない障害のひとつが月経である。女性特有のもので、月に1回、身体の調子が悪くなる人もいる。寅子は4日も寝込んでしまうほど辛い思いを味わっていた。月に一週間ほど休まざるを得なくなることがどれだけ不利か。やりたいことがあってもやれず遅れをとる悔しさよ。

 これまで朝ドラでは、女性の社会進出を阻む要因のひとつとして妊娠を描くことが少なくなかった。が、2024年、生理によって心身のバランスが崩れる問題にまでようやく踏み込んだのだ。そして、弱音や本音を吐き出し合うことのひとつとして、寅子やよねは生理の苦しみや軽減する情報を分かち合う。

 女性が男性に軽視されている事実をミステリー仕立ての法廷劇で描き、生理で女性の連帯を描き、とてもうまくまとまっている。まとまり過ぎかなとも思ったが、そこはちょいちょいセリフでコメディ要素を入れて緩和して工夫されている。

 涼子の「お気立てに難がおありでしょう」や「股間」の繰り返しや、「愛想振りまいているからなんでも押し付けられる」とよねが寅子に言うところや、「わかるよ」といつでもなんでもわかった気になっている直道(上川周作)が「大好きな息子がとられたようでさみしいんだろう」と言ったときの「違うでしょそれは」の寅子のツッコみや、「なんでおまえ(直道)が話をまとめてんだという顔の寅子」というナレーションなどで、ムードを柔らかくしている。涼子は自分の優秀さが家柄のおかげにされていることに不満があるようだが、吉田恵里香の優秀さは彼女自身の優秀さにほかならないだろう。

(文=木俣冬)

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