今季はV奪還を狙う福岡ソフトバンクホークス。4軍まで抱える育成環境の充実ぶりは球界髄一だ。若手発掘にも余念はなく、その視線は中南米にも向いている。キーマンとなるのが萩原健太・中南米担当スカウトだ。過去にはロベルト・スアレス投手（現：パドレス）やリバン・モイネロ投手などを発掘。ドミニカ共和国が拠点のスカウト活動10年目。新たな逸材探しに奔走する裏側に迫った。（取材・文：高橋康光）
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「昨年度の活動を振り返ってこれまでと変わったという点は、2度ベネズエラを訪れたことですね。国際大会の視察では訪れたことはありましたが、アカデミー視察という目的では初めてのことでした。政情不安、治安の悪化などの要因で、MLBのアカデミーが手を引いたという点でチャンスはあるかと思っています。ドミニカ、キューバ、メキシコに続く柱を作りたいと思っています。選手の獲得という面では、2022年度に5名の育成選手を獲得したのに続き、2023年度は2名の育成選手を獲得することができました。その経緯をお話します。
ダリオ・サルディ（18歳・キューバ出身・投手・左投左打）
彼を初めてみたのは2022年11月メキシコで開催されたU-18パン・アメリカン大会でした。そこで可能性を感じてすぐにでも獲得したかったのですが、キューバは18歳になるまで契約させてもらえないので、2023年の1年間追い続け、彼が18歳になるのを待ちました。
キューバでは亡命の低年齢化が加速しており、実際にサルディのU-18時代のチームメイトの大半がすでに亡命しています。サルディ自身にも見知らぬ所からのメッセージは頻繁に届いていたようなので、亡命せずによくぞ我慢してくれたという気持ちです。
もちろん私もできることはやりました。2023年は計7回キューバを視察してきましたが、その度にサルディの元を訪れて、このまま頑張り続ければ日本へ行けるぞとハッパをかけていました。
そしてモイネロの存在も大きいですね。彼はキューバでは大スターですし、同じ左腕としてサルディにとっても憧れの存在です。モイネロを成功に導いたチームというのもホークスを売り込む上で大きな強みになっています。
そのモイネロもサルディの才能を高く評価しています。さらなる飛躍のためにチェンジアップの習得を勧めていました。私の中でも18歳時点の評価はモイネロより上だと思っています。恵まれた身体を持ち、性格的にも申し分ありません。ここから先は彼の努力次第です。
キューバにはホークスをはじめ多くの日本球団が泣かされてきた経緯もありますが、ポテンシャルのある若者は多いので、リスクは承知の上で慎重にアタックしていきたい市場です。
デービッド・アルモンテ（16歳・ドミニカ共和国出身・内野手・右投右打）
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目をつけている選手たちがMLBに持って行かれ、今年はもうダメかなと思ったときに出会ったのがこのアルモンテです。
ドミニカ共和国内にはMLBに多くの選手を送り込んでいる名門アカデミーもあれば、無名のアカデミーもあります。知り合いからの情報で、彼が在籍する首都サントドミンゴ郊外の無名のアカデミーに視察に行きました。初めて訪問するアカデミーでしたし、全く期待していない中で出会った逸材です。
当時は15歳でしたがポテンシャルに惹かれました。通常ならば一定期間追いかけた上で獲得に至るわけですが、彼に関してはほぼ即決という感じでした。MLBの手も伸びていたようです。
彼は比較的裕福な家庭で育っており、ご両親が教育熱心だという面でも珍しいケースでした。家族とともに食事をする機会もありましたが、ご両親が事前に日本や日本の文化などについてもリサーチしており、日本ならば規律も学べるし、安心して送り出せると判断してくれたようです。
サルディ獲得のケースではモイネロの存在が大きかったように、アルモンテのケースでは通訳のウィルフレイセル・ゲレーロの存在が大きかったです。会食の場にも同席し、ホークスの環境などを説明し、アルモンテの決断に一役買ってくれました。チーム内にはラテン系の選手が多く在籍していますが、みんなゲレーロを良き兄貴分と思っています。日本球界でのプレー経験もありますし、人間的にも申し分ない。彼のことを悪く言う人はいませんね。表には出ない存在ですが、チームの力であることには間違いありません。
今後のスカウティング展望は…？
今年もドミニカをベースにキューバ、メキシコ、そしてベネズエラにも足を運べたらと思っています。特にメキシカンリーグは外国人枠が大幅に拡大されたこともあり、これまで以上に人の流れが大きくなることが予想されるので可能性を秘めていると思われます。
とにかく私が活動する上で競合するのは日本の球団ではなく、MLB球団です。自分の仕事がハードだと言いたいわけではないですが、よく知り合いのMLB球団のスカウトからは「お前は一人で何人分の仕事をしているんだ？」と言われます。実際にMLB球団はキューバを除くそれぞれの国に4～5名ずつスカウトを配置しています。彼らが14、5名でカバーするエリアを私一人で担当しているわけです。
しかし、資金的にもマンパワー的にも大きなライバル相手に先駆けてプロスペクトを獲得できるのはこの仕事の醍醐味です。私の獲得した選手の活躍如何で、NPB球団の考え方にも影響を及ぼすかもしれませんし、後に続く人が出てきてくれるかもしれません。今年もプライドを持って活動していきたいと思います。」
