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マルセイユを蘇らせた70歳の老将と34歳のストライカー【現地発】

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マルセイユを蘇らせた70歳の老将と34歳のストライカー【現地発】(C)SOCCER DIGEST Web
 OMこと上り調子のマルセイユを、ふたりのベテランが牽引している。今シーズン4人目の監督に就任するや、チームを快進撃へと導いた70歳の老将と、ELの通算得点ランキングでトップに躍り出た34歳のストライカーだ。(文:フランソワ・ヴェルドネ/訳:結城麻里 2024年4月4日発売ワールドサッカーダイジェスト『ザ・ジャーナリスティック フランス』を転載・加筆)

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 今シーズンのリーグ・アンは、若い監督が目立っている。スタッド・ドゥ・ランスのウィル・スティルは31歳、ニースのフランチェスコ・ファリオーリは34歳、トゥールーズのカルレス・マルティネスは39歳だ。こうした若獅子たちがベンチを仕切るようになった時代の流れに逆行するかのように、マルセイユは老将を頼りにして、苦しいシーズンを乗り切ろうとしている。

 今シーズン4人目の指揮官として、マルセイユを率いているのはジャン=ルイ・ガセ。御年70歳の老将だ。1人目のマルセリーノ・ガルシア・トラルは2023年夏の監督就任からわずか89日で政権を追われ、続く暫定監督のジャック・アバルドナドを経て、3人目のジェンナーロ・ガットゥーゾは在任5か月足らずの2月20日に解任された。

 ガセの招聘が驚きを呼んだのは、その少し前にもニュースになっていたからだ。22年5月から、ガセはコートジボワール代表を率いてきたが、今年1~2月に開催されたアフリカ・ネーションズカップのグループステージで2敗を喫し、自ら監督の座を退いたばかりだった。しかも、この辞任がカンフル剤となったのか、ネーションズカップの決勝トーナメントにかろうじて駒を進めたコートジボワールは、自国開催のその大会を制し、通算3度目のアフリカ王者に輝いている。

 フランスの人々は、こう信じていたはずだ。歴戦のガセといえども、さすがにもう終わりだ。傷心のまま、いよいよ年金生活をスタートさせるに違いない、と。ところが、だ。マルセイユの監督に就任したガセは、予想外の好スタートを切り、フットボールの指揮官に年齢など関係ないと証明してみせている。

 シャフタール・ドネツクを3-1で破ったヨーロッパリーグ(EL)の一戦を皮切りに、リーグ・アンでモンペリエを4-1、クレルモンを5-1で下すと、ELではビジャレアルを4-0で撃破。さらにリーグ・アンでナントから2-0の勝利と、怒涛の5連勝を収めてみせたのだ。しかもスペクタクルな戦いぶりで、奪ったゴールは5試合で「18」を数えている。

 リーグ・アンでは25節終了現在、順位をガセ就任前の9位から7位に上げ、チャンピオンズリーグ(CL)出場圏内の4位との勝点差も「8」から「3」へと縮めている(編集部・注/29節を終えて1試合消化が少ないマルセイユの暫定順位は9位、4位との勝点差は「10」へと広がった)。

 ELでも、ラウンド・オブ16の第2レグでビジャレアルに1-3で敗れたものの、ベンフィカ・リスボンと対戦するベスト8に駒を進めている。

 おそらくガセに託されているのは、今シーズンいっぱいまでの采配だ。後任はパリ・サンジェルマンの前監督で、現在はカタールのアル・ドゥハイルを率いているクリストフ・ガルティエと目されている。来シーズンのCL出場権を獲得するか、今シーズンのELで優勝するか、そうした快挙でも果たさない限り、おそらくガセにマルセイユでの未来はないだろう。
 

 ガセが請け負っているのは短期間の、しかも複雑で困難なミッションだ。この好戦家でなければ、おいそれと引き受けられる仕事ではなかったに違いない。なにしろガセが監督に就任する前のマルセイユは、公式戦9試合でたったの1勝しかできず(5分け3敗)、その1勝もクープ・ドゥ・フランス(フランス・カップ)9回戦で5部リーグのクラブから収めた1-0の辛勝だったのだ。

 どん底のそうしたチームを救うには、南仏のモンペリエ生まれで、歌うような特有の訛りのフランス語を喋る百戦錬磨の監督を呼ぶしかなかったのだろう。実際にガセはそれこそバッグひとつでやってくると、瀕死のチームを救命してみせたのだ。

 ガセのコーチングキャリアは、助監督時代が長かった。01~04年はパリSGとスペインのエスパニョールで、現役時代はフランス代表MFだったルイス・フェルナンデス監督を補佐している。07~16年はボルドー、フランス代表、そしてパリSGで、98年ワールドカップの優勝メンバーとなったロラン・ブラン監督の副官を務めていた。

 前述したマルセイユの5連勝は、ガセが革命的な戦術を注入して収めた結果というわけではない。ただし、選手起用の選択は的確だった。それぞれを本来の持ち場に置き直し、チームに自信を蘇らせたのだ。

 たとえば、どちらもセネガル代表FWで入団1年目のイリマン・エンディアイエとイスマイラ・サールがそうだった。ガセ新政権下での5連勝中に、エンディアイエは2ゴール・1アシストを、サールは1ゴール・4アシストを記録している。

 ガセ新監督が、誰よりも多くピッチ上での自由を与えている選手は、ピエール=エメリク・オーバメヤンだ。チーム同様に調子を落としていたこのガボン代表のストライカーは、例の5連勝中に8ゴールを量産してみせた。昨シーズンの公式戦でチームトップの18ゴールを記録し、一躍アイドルとなったアレクシス・サンチェス(現インテル・ミラノ)の退団をマルセイユのサポーターたちは嘆いていたが、ここにきてその幻影をオーバメヤンが吹き消している。
 
 34歳となり現在のマルセイユで最年長のオーバメヤンは、70歳のガセと同様、「まだ終わっていない」ことを証明してみせた。実際に今シーズンのELでは10試合に出場し、10ゴールと得点ランキングの単独トップに立っている。
 


 今シーズンの10ゴールにより、オーバメヤンはELの歴代得点王ランキングでもトップに躍り出た。通算31ゴールで2位のヘンリク・ラーション(セルティック・グラスゴーなどで記録)、30ゴールで3位タイのクラース=ヤン・フンテラール(シャルケ04などで記録)とラダメル・ファルカオ(現ラージョ・バジェカーノ)を上回る、通算34ゴールだ。

 オーバメヤンの34ゴールの内訳は在籍していた順に、ボルシア・ドルトムントで8ゴール、アーセナルで14ゴール、バルセロナで2ゴール、そしてマルセイユで10ゴール。ELを「スモール・ヨーロッパ」と見立てると、オーバメヤンは「スモール・ヨーロッパのミスター」となっている。

 オーバメヤンが作った成功の轍を辿りながら、マルセイユのサポーターたちは新たな夢を思い描く。それは17-18シーズン以来となるELでの決勝進出であり、その大会での初優勝だ。ちなみに17-18シーズンのファイナルは、0-3でアトレティコ・マドリーの軍門に降っている。

 昨年夏にマルセイユに新天地を求め、入団1年目のオーバメヤンはここまで公式戦42試合に出場し、25ゴールを挙げている。昨シーズンのサンチェスをすでに7ゴール上回っている計算だ。しかも、今シーズン記録した1試合で2得点はすでに7試合を数える。彼のこの記録を上回っているのはパリSGのキリアン・エムバペ(10試合)、バイエルン・ミュンヘンのハリー・ケイン(10試合)、マンチェスター・シティのアーリング・ハーランド(8試合)といった超大物たちだけだ。

 オーバメヤンは、03-04シーズンに32ゴールを挙げたディディエ・ドログバに迫る勢いでゴールを量産中だ。34歳となった現在も、世界最速クラスの時速36キロというトップスピードを誇るオーバメヤンは、ペナルティーエリア内に一気に走り込み、瞬く間に襲い掛かるコヨーテのようなストライカーのまま、ドログバの背中を追っている。

 1シーズンだけ在籍した前所属のチェルシーでは、公式戦21試合に出場してわずか3ゴールと冴えない1年を送ってしまったが、マルセイユでは税込みの年俸が900万ユーロ(約13億9500万円)というクラブ史上屈指の高給取りに値する働きを見せている。

 ブンデスリーガ(ドルトムント)で通算98ゴール、プレミアリーグ(アーセナルとチェルシー)で69ゴール、そしてリーグ・アン(リール、ASモナコ、サンテティエンヌ、マルセイユ)で53ゴールを記録し、得点王にも二度輝いている(16-17シーズンのブンデスリーガと18-19シーズンのプレミアリーグ)オーバメヤンは、ガセ新監督と並んで、マルセイユの復活に欠かせない大きな存在となっている。

■François VERDENET(フランソワ・ヴェルドネ)
著者プロフィール/地元のブザンソン大学とパリのジャーナリズム学院を卒業後、1993年に『フランス・フットボール』誌入社。2019年より『レキップ』紙に異動し、グラン・ルポルテール(取材記者最高位)としてフランス代表、マルセイユ、移籍関連を担当。カデ(15~16歳)のフランス代表歴を持つ。
 

 
   

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