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『光る君へ』ユースケ・サンタマリアの安倍晴明は絶品だ 毎回うさん臭い大河の「あきら」

Real Sound

 今作『光る君へ』はあくまで紫式部(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)の物語であり、「SF伝奇ロマン」ではない。従って、安倍晴明も非現実的な能力は使わない。メインの業務は天文博士であり、天体観測により天変地異を予測するのが仕事だ。夜勤の仕事のため、昼間に呼び出されると機嫌が悪い。目元の朱がオシャレではあるが、あれは多分、寝不足によるクマだ。

 倒れた藤原兼家(段田安則)への祈禱の際、巫女に死んだ藤原忯子(井上咲楽)の霊を乗り移らせるが、それも狂言であった。巫女に合図を送る指パッチンが妙にカッコよかった。

 陰陽師といえば、紙人形などに命を吹き込んだ式神を操るイメージもある。もちろん、今作の晴明が式神を操る描写はない。ただ、ダンサーのDAIKI演じる従者・須麻流があまりにも謎めいているため、「式神なのではないか」と噂されているようだ。劇中で言及されてはいないが、そんな想像ができる「余白」を残しているところが心憎い。その辺りも大石静に聞いてみたい。「考えすぎだよデコ助野郎」と言われるかもしれないが。

 しかし今作の晴明の怖さは、その「余白」の部分にある。今作におけるリアル晴明は、「中務省管轄の陰陽寮勤務の天文博士」という、今で言う公務員的な人間だ。サイキックパワーを使えるわけではない。

 だが兼家に𠮟責された際、「いずれおわかりになるかと存じますが、私を侮れば、右大臣様ご一族とて危うくなります」と返している。「いつでも呪詛して殺せるぞ」と静かに脅しをかけている。

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 その後、廊下で出会った道長をジッと見つめている時、「こいつは面白そうだから長生きさせてやるか」とか考えていたのではないか。その後の3兄弟の命運を考えると、あり得ることだ。

 わかりやすく言及はされないが、「実は超常的な力も使えるのかもしれない」と思わせる「余白」が、ユースケ晴明の最大の魅力だ。

 「パッと見、うさん臭くて信用ならないが、どうやらそれだけではなさそうだ」という人物を演じさせたら、ユースケ・サンタマリアは天下一品である。特に『麒麟がくる』における、朝倉義景の初登場時のうさん臭さは必見だ。

 高い元結にピンクの着物、大物ぶって常に笑顔だが、意に沿わないとすぐにスネる。志村けんのバカ殿様が、大河に降臨したような風情だった。クソ真面目な明智光秀(長谷川博己)との、「そなた、金がいるのであろう? くれてやろうぞ!」「いただく理由がございません!」のやり取りが、何度観てもツボにハマる。

 だが、初登場時こそバカ殿然としていた義景だが、織田信長(染谷将太)との戦いが深まるにつれ、本来のサムライぶりを発揮していった。その最期も、先述の景鏡の裏切りにより、元・家臣たちに取り囲まれて銃口を向けられる。だが、そんな状況でも一切騒がず慌てず取り乱さず。

「ぬしら、誰に筒先を向けておる……。(略)わしは朝倉宗家、朝倉義景じゃー!!」

 このシーンが思いのほかカッコよく、「わが生涯に一片の悔いなし!!」の時のラオウに見えた。

 バカ殿からラオウ、この振り幅こそが、ユースケ・サンタマリアの真骨頂である。

 寺山修司のボクシング小説を、映画『正欲』の岸善幸が映像化した、『あゝ、荒野』(2017年)も必見だ。

 この作品のユースケは、閉鎖寸前のボクシング・ジムの会長である。初登場時は、他人のジムの前で自分のジムのビラを配っている。片目が潰れているため、常に黒いサングラスをかけている。もうゾクゾクするほどうさん臭い。

 元・半グレの新次(菅田将暉)と、吃音症の理髪師・健二(ヤン・イクチュン)を、なかば無理矢理ジムに連れてくる。ケンカ自慢の新次にグローブをはめ、スパーリングで叩きのめす。

「引退して18年。そんな俺にパンチひとつ当てられねーのが、今のお前。……やろうぜ、ボクシング!」

 おとなしく言うことを聞かないであろう相手に、まず力の差を見せつける。「うさん臭いのに実は強い」というギャップが、たまらない。飄々として人を食ったキャラなのに、実はめちゃくちゃ強い師匠。初期ジャッキー・チェン作品の蘇化子(赤鼻の師匠)みたいである。で、ありながら実は恋愛には純粋だったりもして、その辺のギャップも魅力的だ。

 「パッと見のうさん臭さと本質とのギャップ」という、ユースケ・サンタマリアの本来の魅力が詰まった作品だ。前後編合わせて5時間強の大作だが、おすすめである。なにも予定のない休日などに、一気観するといいだろう。

 このようにユースケ・サンタマリアの演じる役柄は、「初見はうさん臭いのに最終的にはカッコ良く見えてしまう」というパターンが散見される。

 『光る君へ』の安倍晴明も、これからさらに本領を発揮することが予想される。ワクワクするではないか。

 発揮しなかったら、申し訳ない。
(文=ハシマトシヒロ)

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