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脱北者を演じたソン・ジュンギの「剥き出し」の姿が胸を突く…ひたむきな愛情表現にも心奪われる映画「ロ・ギワン」

HOMINIS

「ヴィンチェンツォ」(2021年)、「財閥家の末息子」(2022年)と、近年も出演作の全てが世界的なヒットとなり、ファンの熱い視線を集め続けるスター俳優、ソン・ジュンギ。

昨年も、主演映画「ファラン」(2023年)が第76回カンヌ映画祭の「ある視点部門」に公式招待され、初めてカンヌのレッドカーペットを踏んだことも記憶に新しい。そんなジュンギの新たな代表作として話題を集めているのが、3月1日からの配信開始直後にNetflixのグローバルランキング(非英語作品)で首位を獲得した韓国映画「ロ・ギワン」だ。

ソン・ジュンギの渾身の演技に心が震えるNetflix映画「ロ・ギワン」

原作は、脱北者の青年ロ・ギワンの足跡を通して人々の再生を描くチョ・ヘジンの小説「ロ・ギワンに会った」。申東曄文学賞を受賞し、英語版・ロシア語版も刊行されたこのロングセラー小説を、これが長編デビューとなるキム・ヒジン監督が自らの脚本で映画化した本作。そもそもこのロ・ギワン役は、ヒジン監督が執筆当初からジュンギをイメージしていたそうで、6~7年越しのオファーが実って実現したキャスティングだったことが製作報告会で明かされている。

Netflix映画「ロ・ギワン」

北朝鮮を脱出しベルギーに密入国したものの、なかなか難民申請を受けることができず苦しい暮らしを送るロ・ギワン(ジュンギ)。祖国で最愛の母を失い、ただ生き延びることだけを考え日々を送るギワンの前に、元射撃選手でベルギー国籍を持つマリ(チェ・ソンウン)が現れる。マリもまた過酷な環境に置かれ、生きる希望をなくしていた。ある事件をきっかけに偶然知り合った2人は、いつしか互いに惹かれ合うようになる。

Netflix映画「ロ・ギワン」

前半の大部分が、ギワンの過酷な生活の描写に割かれている。空き瓶を集めてわずかな金に換え、公衆トイレで寝泊まりする。素性を偽ってやっと仕事に就いたものの職場では新人いじめに遭い、素性を偽ったことが原因で強制送還一歩手前まで追いつめられる。

Netflix映画「ロ・ギワン」

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救いのない日々を送るギワンの顔には、感情というものがない。傷つかないように、絶望しないように、感情に蓋をして、ただ日々を生きていく。そうしないと心が折れてしまう、とでもいうようだ。その姿は回想シーンで最愛の母に笑顔を見せるギワンとは別人のようで、ギワンがいかに大切なものを失ってベルギーへとやってきたのかが窺える。

Netflix映画「ロ・ギワン」

そんなギワンの”空っぽの心”が、人生に投げやりな女性マリと交流するうち、孤独や怒り、痛みといったヒリヒリした感情に目覚める。そして、自分自身を傷つけようとするマリを止めるため危険に飛び込んでいく。

Netflix映画「ロ・ギワン」

「マリ、俺が絶対に救ってみせる。炎の中に飛び込んでも」「もっと強くなって君を支える。必ず強くなって、君を見つけ出す」。何というひたむきな愛情だろうか。”生きること”は愛だけでは語れないかもしれないが、”愛すること”はその人の生き様そのものだ。Netflixドラマ「アンナラスマナラ-魔法の旋律-」のヒロイン、ユン・アイ役で注目されたチェ・ソンウン演じるマリの絶望も実に痛々しく、それだけに、ギワンが愛を知って”生きる意味”を取り戻していく様が生々しいリアルさで迫ってくる。

Netflix映画「ロ・ギワン」

ジュンギには、演じる人物の一代記のような壮大なスケールの大作ドラマがよく似合う。「ヴィンチェンツォ」では冷酷な凄腕弁護士の顔とコミカルなキャラクターを絶妙に使い分け、「財閥の末息子」では忠実な従業員と復讐者の二面性を鮮明に打ち出した。コミカルからダークまで振り幅自在の演技力が、人間が抱く複雑な感情を矛盾することなく、まざまざと映し出していく。

Netflix映画「ロ・ギワン」

この「ロ・ギワン」も、ジュンギでしか体現できない説得力に満ち溢れている。人生の瀬戸際で踏ん張る人間の凄みが、体中から発散されているようで、まさに”全て”を懸けた壮大なロマンスに切実なリアリティが感じられる。ギワンの地獄のような人生に希望の光が差し込むラストまで、ぜひ見届けてほしい。

文=酒寄美智子

<配信情報>【Netflix】

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