top_line

インストール不要ですぐ遊べる!
無料ゲームはここからプレイ

「ギャラ飲みやパパ活は完全にシャットアウトしてたのに、最近は…」港区西麻布の闇

東京カレンダー

前回:「ハグしたい」深夜23時55分、デートの帰り際に女性が思わず言った言葉に男は…



やっぱりあの2人、Sneet(スニート)に向かってるね、と予想する大輝くんと並んで歩く。深夜0時過ぎの西麻布。私たちの視線の先、10mくらい前を愛さんと雄大さんが腕を組んで歩いている…というか愛さんが強引に組んでいるように見える。

誰かの後をつけるなんて初めての経験だし、愛さんが雄大さんの方を…横を見て笑うたびに、その視界に自分達が入りそうで、お!?気づいた?とか、なんで気づかないの(笑)、とか、大輝くんとコソコソはしゃぐ。そんなやりとりがどことなくこそばゆくて、ワクワクした。

明日は水曜日なので当然仕事。朝8時半には家を出なくてはいけないけれど、この後何時に帰宅するかは未定。翌日のことは気にせず行っちゃえ!的なノリなんて、就職してからはもちろん大学時代でさえ、夜更かしは休みの前に限ると決めていた自分の行動とは思えない。

― 西麻布に引っ越してきてから、なんか感情とか情緒が…。

揺さぶられまくっている。これがいわゆる情緒不安定ってやつなの?とか“人生常に、凪”を選んで生きてきた自分の変化に戸惑ってはいる。でもその不安定が心地悪いか?というとそうではないのだから不思議だ。

あ、やっぱりSneetだったねと、店に入った愛さんと雄大さんに続く。2人はカウンターに座っていて、愛さんがすぐに私たちに気がついた。いやーん宝ちゃんじゃないのぉ!昨日ぶり~♪とハイテンションで抱きつかれることにも、柔らかい体の感触にも、最早なんだか落ち着いてしまう。

大輝くんは自然と雄大さんの横に、私は当然のように雄大さんと愛さんの間に入れられ、カウンターに4人並んで座る。宝ちゃんは、まだここでジントニック飲んでないよね、めちゃくちゃ美味しいんだよ、と愛さんが言って、雄大さん以外はジントニックを頼むことにした。

雄大さんはお気に入りのラムがあるらしく、そのラムをロックで注文した。今はノリ的にジントニックでいいでしょ?本当に雄大には協調性がない!と嘆く顔をした愛さんが、そういえば、と私を見た。

「宝ちゃんの誕生日って12月3日だったよね?派手にパーティするよ♡」


「私の…パーティですか?」

何で愛さんが私の誕生日を知ってるんだろう?私言ったっけ?とか考えていると、大輝くんが、え、あと2週間くらいじゃん、と言った。

「12月3日、日曜日だから丁度いいね、オレは空いてるよ。雄大さんは?」
「12月3日は仕事だから無理。大阪出張だし」

携帯を見ながら答えた雄大さんに、愛さんが、ほんっとノリ悪い!感じも悪い!!と吠え、夜には絶対東京に戻ってきて!まだ2週間あるんだし雄大なら調整できるでしょ!と詰め寄った。

はぁと溜息をついた雄大さんの返事を待たずに、計画は私と大輝で立てようね、雄大こういうの全くセンスないし頼りにならないから、と随分ひどいことを言って続けた。

「あ。もしかして、誕生日当日ってもう予定入ってる?」
「いえ、予定は全く…」

ないけれど、出会ってからずっと、いろんなことをしてもらってばかりだし…と恐縮した私に愛さんが、何言ってんの、誕生日はまた別物、特別な日なんだからと笑った。

「大丈夫、愛さんの誕生日もめちゃくちゃ派手にやらされるから、安心して」



そうだよ、毎年私の欲望を全部叶えてもらってるの!と胸を張った愛さんの誕生日は3月らしい。大輝くんは9月。雄大さんは?と私がその顔を覗き込むと、雄大さんはラムのグラスを回す手を止めないまま、さもどうでもいい様子で、8月、とつぶやいた。

それぞれの誕生日を忘れないようにと私が携帯に登録していると、3人分のジントニックができあがってきた。じゃあ!もうすぐ誕生日の宝ちゃんにカンパーイ!と声もグラスも上げた愛さんに、相変わらず雑な乾杯だなと雄大さんが淡々と突っ込む。

そういえば、この2人は「昔付き合ってたけど今は友情」なんだった…とパリでの雄大さんの言葉を思い出していると、愛さんが、で?と私と大輝くんを見た。

「なんで2人は今日一緒だったの?」
「オレが宝ちゃんをデートに誘ったんだけど途中で、メイが西麻布にいるっていう情報がきたから、宝ちゃんもオレと2人きりよりそっちが嬉しいかと思って。プラン変更した」

メイってあの野球選手の?と聞いた愛さんに、そう、と答えた大輝くんは、メイに会った後ラーメン食べに行って、その帰り道に2人を見つけたんだよね、とニコッと私を見た。祥吾との修羅場を話さないのは、気を使ってくれてるのかな?と私はこっそり感謝する。

メイくんに会ったのいいなぁ、あどけない顔にマッチョな体って最高だよね、とうっとりした愛さんに、そうなんです!と心で叫びつつ静かに頷いた…つもりが、隠せていなかったらしい。愛さんが、宝ちゃん大興奮できてよかったね、と笑っている。

「メイくんと会ったってことは…Porte(ポルト)で?」

雄大さんの質問に大輝くんが、そう、と頷く。

「あそこ、今相当ヤバいらしいけど、大丈夫だったか?」
「…別にいつも通りというか。大丈夫だったけど。なんで?」
「経営者変わったんだよ。気をつけないと巻き込まれるぞ」


いつになくシリアスな口調で、雄大さんが説明してくれた。

大輝くんに連れていってもらったさっきの店はPorte(ポルト)といい、フランスで扉を意味するらしい。私はクラブだと思ったけれど、クラブではなく、大手芸能事務所が経営する会員制のBARなのだという。

Porteで働いているのは、デビュー前だったり、まだ知名度がないなどの理由で芸能の仕事だけでは生活できない、その芸能事務所の所属タレントたち。

事務所がバイト先を提供することで、所属タレントが危ないバイトに手を出すことを防げる。その上、店員のルックスのレベルが高いということが店の売りにもなっているというのだから、その作戦に私は感心した。

働いている自社タレント達を守るためにも、客層は厳選される。会員になるための審査は厳しく、身元調査は、本人のみならず、その交友関係、時には親族にまで及ぶと聞いて驚いた。

でもその厳しさのおかげで、店ができて15年程の間ずっと、安心安全で健全な経営、マスコミを含めた外部に情報が流出することなく秘密厳守が徹底されてきたというのだけれど。



「クスリはもちろん、アテンド系のギャラ飲みとかパパ活的なやつも今までは完全にシャットアウトされてたろ?でも最近…先代が病気で引退して、社長が二代目のバカ息子になってから、なにかとゆるくなってんの」

― クスリ。…ギャラ飲み、パパ活…。

私が固まっていると、愛さんが、雄大、もうやめとこうよ、宝ちゃんを怖がらせないで、と私の肩を抱き寄せてくれた。

「この辺りで生活するなら、宝ちゃんも知っとくべきだろ。そういうヤバさに巻き込まれないためにも嗅覚を鍛えないと、この辺りでは遊べない」

雄大さんの言葉に、まあそうだけど…と愛さんが言い、私も雄大さんの言う通りだと思った。

むしろ…港区に引っ越すと目標をたてた私に、親友・友香が今の部屋を探してくれた時の私の西麻布への印象と言えば、ネットニュースやSNSで見る“ヤバい街”だったのだから。友香のアドバイスがなければ、きっとこの街には住めていない。

「一括りに西麻布ってヤバそうって言うけど、ヤバい店も人もごく一部だよ。宝が住むマンションはエリアと住人の治安は確認済みだし。それに、このマンションより宝の条件に合う部屋って、港区ではなかなか見つからないと思う」

それに、と友香は続けた。

「結局、どこに住んでも100%安全なんてことはありえないんだから、常に危機管理と自己責任ね」

長い海外生活で、強盗未遂や発砲事件に巻き込まれてもサバイブしてきた友香の言葉の説得力はすさまじく、私はそれまでの自分の幼さを反省したはずだったのに。

愛さん、雄大さん、大輝くんたちといたおかげで楽しく安全だったのだな…と、改めて気を付けようと思っていると、雄大さんが、ついでだからもう1つ言っとくと、と大輝くんを見た。

「Porteに行ったってことはいつものメンバーだったんだろうけど…エリック。アイツにも気をつけとけよ」
「エリックが…?どういう意味?」

キョトンとした大輝くんの反応を見ながら、さっき連絡先を交換したばかりのエリックさんを思い出す。お父さんがイギリス人で、外国語アプリの会社を経営している人。私には語学学習の相談に乗るよと言ってくれた。

「最初に会った時から、口が上手くて危なっかしいヤツだなとは思ってたけど」

雄大さんとエリックさんは、大輝くんの紹介で、何度か一緒に飲んだことがあるらしい。

「今、アイツの会社、経営うまくいってないの知ってるか?だいぶグレーな商売にも手出し始めてるって話だし。かなりギリギリなことやってるらしいから、距離とれよ。だいぶ胡散臭くなってきてるぞ、エリック」

雄大さんの言葉は強く、大輝くんは素直に従うだろうと思っていた私の予想は外れた。

「…アイツを胡散臭いとか言うのは…雄大さんでも許さない」


そう言って大輝くんが雄大さんをにらんだ。でもその目には、祥吾をにらんでいた時のような絶対零度の迫力はまるでなく、怒って拗ねた子供のような表情で。

普段は年齢よりも大人びて見える大輝くんの、その幼い反応に、私が驚いていると、雄大さんが、あーもうめんどくせぇ、と言って、くしゃくしゃっと大輝くんの頭を撫でてから言った。

「大輝お前、ほんと…一度信じたらバカになるっていうか…人との距離間、ヘタ過ぎ。お前の友達で信用できるのは、メイくんと勇太だけだって、オレがいつも言ってんだろ。あのインフルエンサー双子は…まあ微妙」

インフルエンサー双子というのは、さっき会ったショウくんとカツヤくんのことだろう。勇太と呼ばれたのは、大輝くんと大学が同じだった元柔道部の男の子で、大きくてかわいい子だよ、と愛さんが教えてくれた。

「お前みたいな繊細ボーイには、アイツらみたいな運動バカがちょうどいいんだよ」

― …ちょっと待って。…この人今、メイ選手を運動バカって…バカって言った?イヤイヤイヤイヤ(溜息)…それはダメです雄大さん。ほんとダメ。

プロ野球界の宝だよ!(怒)と、大輝くんと話す雄大さんのその背に思いをぶつけていると、雄大さんが振り返り私を見た。え?と思った瞬間。

「宝ちゃん、たぶん今、心の声が出ちゃったと思う」

と愛さんが爆笑した。

「運動バカの何がダメだって?」

雄大さんに念押しされ、失態確定。うわやばい。心の声が漏れました事件は2度目で恥ずかしすぎる…でも、メイ選手をバカ呼ばわりされたらそれは……うん、断じて見過ごせない。

「………人をバカって言う人がバカ、って言いますし……その、せっかくなので、メイ選手がどれだけすごい選手なのか、今私が説明しましょうか?」

絞り出した私の言葉に、今度は大輝くんが笑い、雄大さんもほんの小さくだけれど…笑った。





あれから2週間が経ち、今日は12月3日。私の28歳の誕生日だ。時刻は13時過ぎで、本来ならバースデーツアーとやらに向かう時間…のはずだったのに。

今、私は思いもよらぬ状況に追い込まれ、運転手付きの、いわゆる黒塗りの高級車というものに乗せられている。……愛さんと一緒に。

心臓はバクバクとうるさいし、手に滲む汗で指先が冷えていく。

「…本当にごめんね、誕生日なのに…」

後部座席に並んで座る愛さんが私の手をぎゅっと握る。大丈夫です、と握り返し、なんとか笑顔を作ってみたけれど、頬が引きつってしまったことがわかって我ながら情けない。

愛さんを助けたくて、一緒に乗りこんだのだからしっかりしなきゃ意味がない、と自分を奮い立たせてバックミラーを見ると、鏡越しに助手席の男性と目があった。

その眼光の鋭さに背筋がゾクッとして目を逸らしたくなったけれど、ダメだと足元に力を入れ、私にできる精一杯で鏡を睨みつける。男性が鼻で笑って、私から目をそらした。

この男性は…愛さんの元夫らしい。

「…どこに行くんですか…」

男性に向けた愛さんの声が、かすかに上ずり、震えている。男性は答えない。愛さんの横顔がどんどん血の気を失っていくようで心配になっていると、膝の上においていた携帯が震えた。大輝くんからのLINEだった。

≪どういうこと!?愛さんのex-husbandに拉致された、って≫
≪今、車でどこかに向かってるけど、まだ状況がわからないから、わかったらまた連絡するね。愛さんは1人で行くって言ったんだけど、1人にしたくなくて。大輝くん、待たせてごめんね≫
≪了解。逐一報告してね。必要ならすぐに迎えに行くし≫

なんかひどいことされてないよね?と続いた大輝くんのLINEに、それは大丈夫、と返して私は携帯を握りしめた。愛さんは窓の外を見たまま動かない。

「バースデーツアーの開始は15時だから…」

それまでに全身ピカピカにしてあげる、ヘアメイクもね、と言われて、私が表参道の愛さんのサロンに到着したのは午前10時。今から3時間前のことだった。


▶前回:「ハグしたい」深夜23時55分、デートの帰り際に女性が思わず言った言葉に男は…

▶1話目はこちら:27歳の総合職女子。武蔵小金井から、港区西麻布に引っ越した理由とは…

次回は、4月6日 土曜更新予定!


 
   

ランキング(エンタメ)

ジャンル