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出張中に上司を酔わせて、タクシーで先に帰ってもらい…。意中の人妻と2人で向かった先とは

東京カレンダー

前回:「彼女と私、どっちも好きなの?」妻の質問に否定しない夫を置き去りにし、家を飛び出て…



「私たち、友達になりません?仲良くなって助け合いましょ」

そう言った長坂美里に大輝は眉をひそめた。話がしたいと訪ねてきた美里を受け入れることにした大輝の意図は、美里の狙いを確かめることで、少しでも京子を守れたらということにあった。

京子を支えてタクシーに乗せたあの日に、美里とは目が合っている。あの一瞬でお互いを認識したとはいえ、なぜ自分を探し出せたのか、と聞いた大輝に、“友坂大輝”は有名人ですからと笑った。そして、大輝さんって呼ばせてもらいますねと言い、大輝の許可を待たずに続けた。

「この大学で女子を捕まえたらすぐに分かりますよ。大輝さんが大学に来るスケジュールを正確に把握してる子、1人や2人じゃなかったですし。推しはみんなのものとか言って、大輝さんのスケジュールを共有し合ってるみたいですよ」

私も大輝さんの推し仲間としてカウントされたみたいです、と美里が、大輝を促すように自分の視線を左右に動かした。美里の視線の示す先には、3組程、2人組だったり、3人組だったりする女の子たちがいて、美里と大輝をチラチラと見ている。

話の邪魔しませんよという意志表示でもしているつもりなのか、彼女たちは近すぎることも遠すぎることもない絶妙な距離に散らばっている。

大輝も、決まった女子たちが自分のまわりに度々現れることは認識しているし、全て断るものの、ランチを一緒にとか、飲みに行きませんか、と誘われることも多い。街でのナンパを含めて、知らない女子に誘われることは大輝にとっては至極当然、日常のことなので、特に気にしていなかったが。

公表されている京子の講義スケジュールはともかく、教授の雑用係として呼ばれる不定期の日程まで把握され、共有されているとは思わなかった。小さく溜息をついた大輝を美里は、イケメンも超がつくと色々大変なんですね、と笑って、話を戻していいですかと続けた。

「私はね…出会ったタイミングが遅かったっていうだけで、あきらめるのはイヤ。崇さんへの思いを…世間が決めた、不倫とかいうチープな枠にカテゴライズされるのは耐えられないんです。大輝さんもそうでしょう?」

「……オレはそうじゃないし、カテゴライズとかどうでもいい」

あっさりと否定した大輝に、美里はわかりやすく、えっ?という顔になった。同意してもらえると信じて疑っていなかったのだろうその表情を、大輝は可笑しく思いながら穏やかに続けた。

「美里ちゃん…だっけ?オレも人のことは言えないとはいえ、あなたは完全に不倫で愛人でしょ。しかも本妻を傷つけるために本人の前に登場したんだから、完全な悪役だよ。せめてその立場は自覚しといたほうがいいと思う」


美里は絶句し、大輝をにらんだ。

「それにオレ、自己意識を強引に正当化したり、過大評価する人って、苦手なんだよね。だから美里ちゃんと友達になるのは厳しいかも」

「……じゃあ、大輝さんは自分を正当化したくないの?悪役だって自覚してるの?……好きでしょ?手に入れたいでしょ?奪いたいでしょ?…キョウ……彼女を崇さんから」

語気は荒いが小声を保つ美里のことを、大輝は、心から悪役になりきれない人なのかもしれないと思った。先ほどから何度も京子の名前を出さないように意識しているようだし、それは“キョウコ先生”のこの大学での立場を考えての小声なのだろう。

「好きだよ。気持ちも伝えたし。でも、奪いたいとは思わない」

じゃあ何なの!と苛立ちを含んだ声になった美里に大輝がほほ笑む。

「彼女を笑わせたいし、居心地のいい場所を作りたい。それから……彼女を傷つける全てのものから守りたい」
「……何それ。キレイごとすぎてムカつきすぎるんですけど。クソつまらん純愛ドラマかよ」
「オレって、ロマンティストなの」

そう言ってふざけた大輝がウィンクをすると、キャッというピンクの声があがった。つかず離れずの位置にいる“大輝ファンクラブ”の誰かが反応したようだったが、美里は、キモッと、吐き捨て、うんざりした顔で大輝をもう一度にらんだ。



「まあ、そりゃあ、セックスだってできたらいいけど、まだまだ片思いっぽいしなぁ」

LINEだって既読スルーのままだし、と大輝は溜息をついてから続けた。

「連絡先交換しとこうか」

「……は?アンタさっき友達になるのは厳しいって…」

「ひどい、アンタ呼ばわりされちゃった。でもいいね、その方が素っぽくてオレは好き」

そう言って大輝はにっこりとほほ笑み、これオレのID、と携帯を美里の方に差し出した。

「さっき言ったでしょ。彼女を傷つけるものから守りたいって。今一番危険なのは美里ちゃんだし、監視するには連絡先が必要でしょ。美里ちゃんが辛くなったらオレが話を聞くから、これ以上あの人を直接攻撃するのやめてくれない?」

呆気にとられる美里を気にせず、大輝は、あ、ヤバい遅れる、と腕時計をみて、はやくIDのQRコードをスキャンするようにと美里をせっつく。ボーっとした美里が大輝に言われるがままに、コードを読み込むと、ありがと、と立ち上がり続けた。

「美里ちゃんがどんな理屈を立てたとしても、結婚している人と恋愛することは、今の世の中では不倫と呼ばれる。それは悪い事で、人の道に外れた行為としてバッシングされるのが現実でしょ。

自分だけならまだしも、好きな人を世間の悪意にさらすのって怖くない?……とすれば、そもそも、その思いは報われちゃダメというか…相手を守れるなら報われなくてもよくない?日の当たる場所にでちゃダメな恋なんじゃないの?」

まあ、好きな気持ちは止められないのはよくわかるけどね、とほほ笑みを残して去っていく大輝を、美里は唇を噛みしめながら、しばらく立ち上がることができずに見送った。


― あれから連絡ないな。

美里が大輝を訪ねてきてから2週間程。その間1度も美里からのLINEはきていない。

― そういえば、前にどこかであったことあるか、聞き忘れたな。

京子をタクシーに乗せたあの日、美里と目が合った一瞬。大輝はその顔に既視感を覚えた。そのことを美里に尋ね忘れたことにふと気がついたが、今はそれよりも…あんなことを言う資格は自分にはなかったなと、恥ずかしく反省し、美里に謝りたい気持ちの方が強い。

今、ホタテとキノコのクリーム煮を美味しそうに頬張る京子の隣にいられるだけで、うれしくて仕方がないのだから、大輝にも美里の思いは十分理解できたはずなのに。

今、大輝は香川教授と京子の出張に、アシスタントとして同行し青森にいる。青森は香川教授の地元で、その出張の1日目、地元新聞社での教授と京子の対談形式のインタビューと高校生への特別講義が無事に終わって、3人で教授オススメの店に食事に来たところだ。

大輝としては…飲み始めたら長いと有名な香川教授とは別行動で、京子2人きりで夕食でも…と狙っていたのだが、連れて行きたい店があるという教授に、京子が是非と即答してしまったのだ。

「ホタテが…肉厚で、このソースも本当に美味しい」

京子の言葉に、そうだろ、そうだろ、と上機嫌に頷く香川教授が連れてきてくれたのは、フレンチの店で、てっきり郷土料理の和食の店だろうと思っていた京子と大輝の予想は外れた。

弘前はフランス料理の街と呼ばれているんだぞ、と地元自慢を始めた教授によると、弘前の駅前だけでも、10軒近くのフレンチレストランがあるらしい。

中でも教授は老舗と言われるこの店がお気に入りで、いわゆる東京の名店と呼ばれる店のフレンチを幼い頃から食べ慣れている大輝でも、価格設定は東京の半額以下なのに…とそのクオリティの高さに驚いた。



地元の食材を活かすメニューを開発し、弘前をフランス料理の街にするために奮闘したシェフの話を聞くなどしているうちに、教授の顔は赤くなり、声が大きくなっている。それは教授が酔っ払ってきたというサインで、それでも次を注文しようとした教授を、京子がこのあたりでお酒はもう…と止めた。

「……もしかして、わざと?」

教授がふらふらとトイレに立った時、京子が大輝に聞いた。さすが売れっ子脚本家は観察眼が鋭いと思いながら、大輝は、何がですか?ととぼけたが、その通りだった。実は…大輝は、いつもよりほんの少しだが、ハイペースで教授のグラスにワインを注ぎ続けていたのだ。

桜祭りが開催中だから、京子と2人で夜桜を見に行くのもいいな、とか、寒かったらやっぱりBARかな、など、大輝は弘前の街を下調べしていた。その下調べを無駄にしないためにも、教授に2軒目、3軒目と連れまわされるわけにはいかない。そんな大輝の計画は順調に進み。

最後のデザート、弘前のリンゴを使ったアップルパイが出てきた頃には、教授は座ったまま、うとうととし始めていた。それでもまだ飲むと言った教授を、明日もありますからと帰宅を促し、タクシーに乗せることに成功したのだ。

― 教授、すみません……!!

心の中で謝りながら、大輝は運転手に紙に書いた教授の実家の住所を渡した。走り去るタクシーを見送ってから京子を振り返る。

「……もう今日は解散、なんて言いませんよね…?」

そう言って京子の反応を待った大輝に、京子が笑って、そしてゆっくり歩み寄った。


「…言わないわ。どこに行く?」

そう言いながら、京子はこの時初めて、大輝のことをかわいらしいと思った。

鮮やかな手順で教授を帰したくせに、強引に押しきることはせず、乞うように返事を待つ。その遠慮と弱気のようなものに、京子は親近感と好感を持った。



「22時までライトアップされてるみたいなので…!」

うれしそうに、桜を見に行きましょう、とはしゃぐ大輝とタクシーに乗り、何やら携帯で調べものをしているその横顔を見ながら、京子は、この子は本当に美しい顔をしている、と改めて思った。

京子は職業柄、外見が美しい人に慣れている。しかも国宝級だとかNo.1だとか、とびきり美しいと言われる人達との仕事が京子の日常なので、至近距離で接してもその美しさに惑わされることがない。

そしてその外側の美しさが、必ずしも中身の美しさにつながるわけではないことを嫌と言う程実感してきているので、人を外見で判断することはない。だけど。

― その人達に…好意を向けられたことはない。

京子さんが好きです、と言った大輝の言葉には、とても現実味がなく、いまだに信じ切れずにいる。

それは、大輝のような美しい人が、一回り年下の男の子が、私なんて好きになるはずはない、というような否定からのものではなく、そもそも自分は“恋情”というものがよくわかっていなかったのだと京子は最近…崇と離れて暮らし始めてから気がついてしまった。

これまでの人生で、男性ときちんと向き合ったのは崇が初めてだった。崇と出会う前にもそれなりに男性に好意を向けられたことはあったけれど、付き合ったのは崇が初めてで、恋人、夫婦、とその関係の名前が変わることを選んできた、その選択こそが“恋”なのだと思ってきた。

― でも、違ったのかもしれない。

崇に帰ってきて欲しいと願った日。京子は確かに、自分が彼の唯一でありたいのだ、彼を手放したくないのだ、という自分の気持ちに気がついた。でも。

京子が崇から美里とのなれそめを聞いた日。最もショックを受けたのは、浮気という行為自体ではなく、崇が京子以外の才能を褒めて認めたことだった。それはつまり、“女”としての悲しみよりも、“脚本家”としての悲しみが大きかったということ。それが今、京子を混乱させている。

崇に愛していると言われて、私も、と返したことはある。でも私から…愛しているとか、好きだとか、伝えたことがあっただろうか。

― ラブストーリーをかけない脚本家。

乾いた自虐的な笑いが湧いてくる。そりゃぁそう言われるよね、私は、恋というものがよくわかっていないのだから。崇に…恋人として妻として、正しく愛情を渡せていたのだろうか。仕事のパートナーとして以外の私は、彼の心を満足させられていたのだろうか。

― 知りたい。

恋情、というものがどういうものなのか。そんな思いがふと沸き上がり、京子は大輝を見た。この青年は、なぜあんなに屈託なく、しかも妻という肩書を持つ女に、好きだなんて言うのだろう。



京子の視線を感じた大輝が、どうしました?と顔を上げてほほ笑んだ時、タクシーが止まった。財布を出そうとした京子を遮り、大輝が携帯で支払って先に降りた。

「暗いから、どうぞ」

差し出された大輝の手を取り、京子もタクシーを降りた。その瞬間強い風が吹き、京子が肩にかけていたストールが舞い上がり、京子の顔を覆った。大丈夫ですか?と、ストールを巻きなおしてくれた大輝と目が合った瞬間、京子に衝動が生まれた。

そして言った。

「教えてくれる?」
「え?」
「恋とはどういう感情なのか、あなたが私に教えてくれる?」


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▶1話目はこちら:24歳の美男子が溺れた、34歳の人妻。ベッドで腕の中に彼女を入れるだけで幸せで…

次回は、4月6日 土曜更新予定!


 
   

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