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県内エリート男子高で“性教育”の名の下セクハラにあった図書館司書46歳女性、教職員カーストで圧された声とは/2024年2月トップ5

女子SPA!

 女子SPA!で2024年2月に公開された記事のなかから、ランキングトップ5入りした記事を紹介します。(初公開日は2024年2月13日 記事は取材時の状況)

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それは、異様な光景だった。カーテンを締め切った真っ暗な講堂に、制服姿の男子生徒がずらりと整列している。入学したての、高校1年生たちだ。手を後ろ手に組み、喉もつぶれんばかりに校歌を合唱する――。

地方に暮らす、40代独身女性にお話をうかがうシリーズ、2回目はミユキさん(46歳)。

生まれは東京で、小学生のとき父の転勤で引っ越してきて以来、北関東の県で進学、就職して現在に至っている。

伝統を重んじる有名男子校

学校図書館司書として赴任した、男子校で見た光景がいまも忘れられない。

「歴史ある進学校で、親子3代で同校の卒業生、という子も多かったですね」

校長以下、教諭も同校のOBで大半が占められていた。その男女比は、9:1。男子校とはいえ、極端な数字だろう。

「入学すると“伝統修練”という行事があって、1年生が放課後に集められ、上級生の指導のもと校訓を復唱したり、校歌を歌ったりするんです。上級生がいいというまで何時間も帰れない」

生徒の自主的な活動であって、教諭は関与していない。けれどそれは建前でしかなく、教諭らが「これをくぐり抜けた者しか、わが校の生徒として認めない」と話すのをミユキさんは聞いたことがある。

憧れの職業に就いたけど

「生徒全員が、これに馴染めるわけありませんよね。その後、不登校になる子も多かったです」

ミユキさんの職場である図書室には、そんな生徒も顔を出していた。

「本が好きな生徒や図書委員も来ますが、それ以外は校風になじめない、おとなしめの生徒や、教室でいじられている生徒がよく来てくれました。意外にも、学校って教室以外には居場所があまりないんですよ。彼らにとって図書室は、アジール(聖域)だったのかな」

ミユキさんは、短大で図書館司書の資格を取った。ときは就職氷河期まっただ中。県職員として、希望どおり司書の仕事に就けたのはラッキーだったとも思う。図書室を訪れる生徒との交流には、やり甲斐も感じていた。それなのに、

「セクハラに遭い、この高校を辞めることになったんです」

それは、生徒が自主的にテーマを決めて研究する自由学習の時間に起きた。



あるクラスの生徒たちから、環境問題についての資料探しを手伝ってほしいと頼まれたミユキさん。ひとつの机に集まる生徒たちに、「これはどう?」と手渡していく。

それは「性教育」ではなかった

「その最中に、彼らの担任である若い男性の先生が入ってきました。学校に届いたアンケートに答えてほしいとのことで、その内容が性教育について。生徒たちは真面目に書き込んでいたのですが、彼が突然『じゃあ、ここから性教育をはじめるぞ』と言い出して。教科書的な内容なら私も気にしなかったでしょうけど、若い先生だからなのか、言葉が露骨というか卑猥というか……」

ミユキさんはここで言葉を切った。聞くに堪えない内容だったのだろう。それを耳に入れる心の準備もできていなかった。耐えきれなくなったミユキさんは図書室を出る。しかし、どこに行けばいいかわからない。学校図書館司書は、職員室に席がなかった。

保健室には、具合の悪い生徒がいるはず……「私の居場所、ないんだ」と立ちすくむミユキさんの前に、たまたま女性教諭が通りがかった。いま起きたことを話すとすぐに、ミユキさんの早退の準備を整えてくれた。

「私が悪かったんだ」

昨今は「包括的性教育」が広く知られるようになった。「身体や生殖の仕組みだけでなく、人間関係や性の多様性、ジェンダー平等、幸福など幅広いテーマを含む教育」のことで、特に「バウンダリー=人との境界線」や「同意」が重視される。

その男性教諭はバウンダリーを無視し、そこにいる人たちの同意を取ることもなく、性の話をはじめた。それも、適切ではない言葉で。ミユキさんは「いないこと」にされたも同然だし、イヤな気持ちになった生徒がいてもおかしくない。これはセクシュアルハラスメントだ、とミユキさんは認識した。

ストレスからの突発性難聴を発症したミユキさんは、このことを学校に訴えた。

「管理職と話をしたときに『だって、それは性教育だったんでしょう?』といわれました。聞いていると、私が悪かったんだという気持ちになってくるんですよね。現場で録音もしなかった私はバカだったな、とか」



ミユキさんの行動は、男子校が長いあいだ保ってきた文化にそぐわないものだったのだろう。同質性の高い集団であるがゆえの不文律があるというのは、それまでにも感じてきたことだった。

ミユキさんは独身で、自分の人生に子どもはいらないと思ってきた。同居しているパートナーがいるが、いまのところ婚姻届を出す予定はない。男子校に赴任したときに校長にそう伝えたところ、あからさまに驚かれ、「保護者になんと説明すればいいのか……」といわれた

県内で力を持つ男子校出身者

その高校の生徒は、比較的裕福な家庭に育った子が多かった。父親は地方議員や開業医、士業。母親は専業主婦というのが典型だと思われる。そんな環境で育まれた“文化”のもとでは、いい年齢をした男女が結婚しないのは、常識外れとみなされるのだろう。

セクハラをめぐる学校との話し合いは、回を重ねても平行線をたどった。「もう無理だ」と思い、ミユキさんは職を辞した。

一連の出来事をとおしてミユキさんには、気づいたことがある。

この学校だけではない。「男子校文化」の影響は、地元、ひいては県全体に及んでいる。

有名男子校は県内にほかにもあり、その生徒の多くが都市部の有名大学に進学する。大学卒業後、彼らにとって郷里に戻っての就職や起業はとても有利で、公、民ともに世代を問わず、エリート職には男子校出身者が名を連ねている。

「男子校出身者が自分の職場にも“伝統修練”の文化を持ち込んでいるんですよね。そうやって、県内の大事なことを動かしているのでしょう」

女子たちの進路

先述したように、マッチョな文化に適応できず離れていった男子生徒もいる。「勝ち残った男たち」が作る地元の空気は、女性だけでなく彼らにも息苦しいものだろう。

では、女性はどうしているのか。ミユキさんは自身のことを、こうふり返る。

「兄がいるのですが、身体がちょっと弱くて。それもあって母は、将来のために少しでもいい大学に行かせないと、と非常に教育熱心でした。教育にかけられるコストの多くは兄に回され、私はずっと『家から通える学校にしなさい』といわれてきました」

似たような境遇のクラスメイトは少なからずいて、「女の子が大学に行ってもしょうがない」と言われた友人もいる。ミユキさんは学校図書館司書として女子校に勤めたこともあるが、そこの生徒たちも親や周囲の大人から同じことをいわれていた。

そんななかで自分の進路を決め、資格を取り、子どものころから憧れていた職業に就いたミユキさんだったが、図書館司書は決して待遇がよくない。



専門性の高い仕事でありながら非正規雇用が多く、賃金も低いという報道を、昨今は頻繁に見聞きするようになり、なかには、その手取りがたった18万円、という記事もあった。

図書館員のうち8割は、女性だ。女性が多いから賃金が低く設定され、賃金が低いから男性のなり手がいない。悪循環が起きている。

居場所はどこにある?

「さらに学校図書館司書は、学校組織のなかでいちばん下に置かれます。図を見ると一目瞭然ですが、校長や教頭など管理職の下に教諭がいて、次は養護教諭、つまり保健室の先生……ここまでは“教諭”です。司書はさらにその下で、用務員さんと同じポジション。お給料にも歴然とした差があります」

図では横並びでも、用務員は男性が多いため、女性が多い図書館司書は実質、最も低い立場だとミユキさんは感じていた。

お話を聞いていると、ミユキさんの口から“居場所”という言葉が何度も出てくる。男子校に居場所がない生徒、「いないこと」にされ、その場から逃げ出しても居場所がなかった自分。男子校出身者が要職を占める県内で、居場所がないと感じている女性はきっと多い。

困窮する若年女性との出会い

生まれた土地、育った土地に住みつづけていると、居場所は当然あるものと思われがちだ。しかしそこから弾き飛ばされる人がいて、だいたいは弱い立場の人たちだ。

「学校を辞めたあと、若年女性を支援するNPOの運営をお手伝いしました。いろんな世代の女性が集っておしゃべりをしてご飯を食べる、という活動に、女子大学生が通ってくれていたんです。彼女がある日ポロッと『経済的に苦しいから、1食でも無料で食べられるのはありがたい』とこぼしたんですね」



親からの支援がなく、奨学金とアルバイトで生活する女子学生たち。車がある学生は繁華街に出て時給のいいアルバイトに就けるが、彼女たちは車に手が届かない。

苦しい者同士のつながり

大学近くでひとり暮らしし、時給の低いバイトに明け暮れても、生活は苦しい。学業にもしっかり励みたいのに、いつも疲れている。

これは筆者の推測だが、そのなかには兄や弟がいてそちらには十分な教育資金が回されている可能性もある。

現在のミユキさんは、自分でNPOを起ち上げ、そんな若い女性たちに居場所を提供する活動をしている。

「ひとり、またひとりと友だちを連れてきてくれるんです。聞くところによると、お金がある子は大学の外にランチに行くけど、彼女たちは教室に残り手作りのおにぎりで済ます。そのときに声をかけ合って、つながるそうですよ」

いつもそこにある居場所

居場所がなかったミユキさんだから、居場所のない若年女性のために何かしたいという気持ちが強いのだろう。

「来年度の助成金が決まったので、私自身が活動する基盤をきちんと作りつつ、一軒家を借りたいと思っています。そしたら、いつでも誰でも来られるような居場所ができますからね」

<文/三浦ゆえ>

【三浦ゆえ】
編集者&ライター。出版社勤務を経て、独立。女性の性と生をテーマに取材、執筆を行うほか、『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(宋美玄著、ブックマン社)シリーズをはじめ、『50歳からの性教育』(村瀬幸浩ら著、河出書房新社)、『リエゾン-こどものこころ診療所- 凸凹のためのおとなのこころがまえ』(三木崇弘著、講談社)、『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社)などの編集協力を担当。著書に『となりのセックス』(主婦の友社)、『セックスペディアー平成女子性欲事典ー』(文藝春秋)がある。



 
   

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