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プロモーションにアーティスト育成…… 2024年における地下アイドルシーンに足りないものとこれからの課題|「偶像音楽 斯斯然然」第123回

Pop’n’Roll

人間の弱さを歌う強い女の子 Z世代の代弁者としてのアイドル|「偶像音楽 斯斯然然」第122回

Coccoや椎名林檎、ミオヤマザキ……そして近年では戸川純がTikTokを通じてZ世代の間でウケているのもそうした風潮を物語っている。

ヴィジュアル系を始め、ロックの世界には負のアイコンは多くいた。ヴィジュアル系と地雷系ファッションはなんの関係もないし、ヴィジュアル系の源流はゴシックにあるが、ゴシックとゴスロリファッションは別で考えた方がいい。ではゴスロリと地雷系は? ……これまた別なのだが、アイドルというフォーマットによって、これらが繋がってきている。HEROINESやサークルライチ関連など、同じ香りを持ったグループが集まるイベントが定期的に開催され、地雷系のムーヴメントは確実に拡がっている。

サークルライチ所属、“耽美過激表現集団”を掲げるガラチア

私が昔勤めていたヴィジュアル系事務所がいつしかアイドル事業を始めた。しかしながら、ヴィジュアル系とは無縁の煌びやかなグループだった。ヴィジュアル系関係者がアイドルを手掛けることは少なくはないが、そうした香りを一切させないことが暗黙の諒解でもあった。しかし、近年になってド直球のヴィジュアル系っぽいグループを始めるようになった。このムーヴメントが本物だと感じた瞬間でもあった。

クラスで人気のある子が、誰よりも目立つ子がアイドルになるわけではなく、自分に自信がなくともアイドルになれる、いや、アイドルになることで自信を持てるようになる、存在意義を感じることができる、今はそういう時代だ。変身願望こそ、今やアイドルになる大きなきっかけとなっている。華やかな衣装も本気度の高いメイクも、普段の自分とは違うからこそ強くなれるのだ。昭和育ち的にいえば、クリィミーマミの世界が令和の現在、ダークにアップデートされたのが、この地雷系ロックなのかもしれない。

王道と覇道、楽曲派

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これまでは革新的で新たな潮流に触れてきたが、もちろん保守も健在だ。ただ、ここまで多様化してくると何が王道なのかはよくわからなくなっている。FRUITS ZIPPERもiLiFE!も、確実に覇道だろう。そもそも坂道グループやAKBグループのメインストリーム、つまり地上に対する地下アイドル自体が覇道である。

大沢伸一カバー&プロデュース ExWHYZ「Our Song」

かつての覇道アイドルの代表格、WACKもBiSHの解散とサウンドプロデューサー・松隈ケンタの離脱で1つの区切りを迎えた。ExWHYZのクラブミュージックへの傾向は、今後のWACKとしての指針、各グループによるインディペンデントな新スタイルの象徴でもある。ExWHYZ はEMPiRE初期から追ってきた自分としては、K-POPガールクラッシュに対する日本のアイドルからの回答として正攻法なベクトルであると感じたと同時に、相当な音楽通を相手にしていくという並々ならぬ決意が伝わってきた。そして先日、WARGASMの来日公演のサポートアクトとして出演したASPによる、EBM(エレクトロボディミュージック)を爆音で踊り狂うステージを2日間観て、WACKが育んできたパンクスピリッツが国境を越えようとする瞬間を目撃した。

The Prodigyマキシム原曲提供 ASP「TOXiC iNVASiON」

そして、楽曲派だ。このコラムは楽曲派に対するカウンターというのが、1つのテーマであった。楽曲派と呼ばれるアイドル以外のグループの音楽も面白いということを伝えたかったのである。

楽曲派ファンの高齢化といった話題も見受けられるが、もともとがマニアライクな音楽をいろいろ聴いてきたニッチ層に支持されてきたことを考えてみても、楽曲派には昔から年齢層の高い音楽ファンが多かったのも事実だ。ファン年齢の二極化はアイドルに限らず、ガールズバンドをはじめ、音楽シーンでも多く見受けられる。それだけアイドルシーンも多様性を帯びて成熟してきたという見方もできるだろう。

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ボーカリスト、アーティストとしての育成

現代の多様化するメディアにおいて、誰もが知るヒットソングは生まれにくくなった。さらにはアイドルのみならず、物心ついた時にはボカロが存在していた、ボカロネイティヴ世代がアーティストとして音楽シーンを席巻するようになり、誰もが口ずさむことのできるヒットソングも減った。その代わりボカロによって生み出された新たなメロディの作り方、それを歌いこなす新たなスタイルが生まれたのである。

アイドルソングの難易度も上がり、特にここ数年におけるレベルの上がり方は尋常ではない。それを歌いこなす本人たちのスキルも同様で、2020年に「偶像音楽 斯斯然然的 スゴいボーカリスト10人」というキュレーションを書いたことがあるが、あれをアップデートしたものを書こうと何度か試みたが、想像以上の選出の難しさに挫折した。それくらい平均レベルが上がっている。

しかし、“歌がウマい”とされているアイドルでも基礎力がないという場合がある。メロディの起伏の激しい楽曲や詞とメロディが複雑に絡み合っている楽曲は得意でも、平坦なメロディや大きな音符の動きをする楽曲は苦手だったりする。ボカロによってもたらされた新しいボーカルスキルは持っているが、我流ゆえにそれをロジックとして成立できていない。ニュアンスで乗りきってしまっているから応用が効かないのだ。地下アイドルは、ライブ本数が多いので実戦主義になってしまう問題である。私は長年制作ディレクター、A&Rを本職としている人間なので、気になって仕方がない部分である。ウラ拍が取れない、自分のキーがわからないといったことに遭遇したりもする。ボイトレがボイストレーニングではなく、ただの歌の練習になっていたり、レコーディングに関してもエディット前提で進められているので、そのためのディレクションになりがちである。アーティストとしての育成という部分がおろそかになりがちなのである。

アイドルによる「歌ってみた」のど自慢風潮を一網打尽にした女王・鈴木愛理

現在の地下アイドルシーンは、多様性と活性化という部分では目まぐるしく発展はしているものの、閉塞感は否めない。活動フォーマットが完全に出来上がってしまっているところもあるだろう。ライブをこなすことが第一優先となり、アーティストとしての育成とマネジメント、プロモーションがおろそかになっているのが現状であり今後の課題でもある。地下アイドルの利点は、機動力とフットワークの軽さだ。きっちりと先を見据えた計画的な活動ができることこそ、大きな成功の鍵であることは間違いない。

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偶像音楽 斯斯然然

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