馬場徹 | 過呼吸になっても食らいついた、つかこうへいとの出会い
馬場徹 | 過呼吸になっても食らいついた、つかこうへいとの出会い
『広島に原爆を落とした日』で主演のディープ山崎を演じるほか、『熱海殺人事件』や『新・幕末純情伝』など、故・つかこうへいさんの舞台に多数出演している馬場徹さん。「つかこうへい最後の愛弟子」とも言われる馬場さんは、何がきっかけでつかさんの舞台にとびこんだのでしょうか。オーディションでの壮絶なエピソードから、病床のつかさんが最後にかけた言葉まで、うかがいました。
馬場徹
怖い演出家にボコボコにされたかった

――馬場さんが演劇界の中でもとりわけ熱いと言われている、つかこうへいさんの舞台に飛び込んだ理由についてお聞かせください。もともと、つかさんの舞台のことはご存知だったんですか?

馬場徹 (以下、馬場) 正直、つかさんのことはまったく知りませんでした。そもそも舞台の世界のことをまったく知らなかったんです。

――では、なぜ、つかさんのところへ?

馬場『テニスの王子様』の後、いろいろな舞台をやらせていただいたんですが、ちょっと煮詰まってきてしまったんです。それが20歳の頃ですね。その状況を変えるためには、演劇人の中でも特に怖い演出家にボコボコにされたら変わるんじゃないかと考えまして(笑)。

――ボコボコに(笑)。

馬場そのときに頭に浮かんだひとりが、つかさんでした。そのとき、ちょうどつかさんの『飛龍伝2010 ラストプリンセス』のオーディションがあったのですが、なにか手違いがあったのか、現場に僕が行ったらなぜかオーディションが終わっていて。なんとかして見てもらえないかと思っていたら、つかさんが一人でいらっしゃったんです。これは直談判するかしかないと思い、つかさんに話しかけました。

――馬場さんの度胸がすごいですね! それで、どうなりましたか?

馬場「とりあえずこれを読んでみろ」って、その場で『飛龍伝』の中のすごく長い台詞を渡されました。それを一人でずっとしゃべるんですけど、オーディションの最中に過呼吸になってしまって。目の前が真っ白になってハァハァと息を切らしていたら「もういいよ、台本を置け」と言われて、そこからつかさんの“口立て”が始まったんです。

馬場徹

――口立てとは、台本を見ずに台詞を口頭で伝えていく、つかさん独自の演出方法ですね。

馬場当時はそんなこともまったく知りませんでした。とにかく、つかさんが言うことを必死に言うんです。できないなりに一生懸命頑張っていたら、「じゃ、お前、使ってやるから。稽古入れ」って言ってくださって。後から振り返ったらほんの30分くらいの出来事だったんですが、そのときは気が遠くなるくらい長く感じました。

なぜかみんなで黒木メイサの新曲を踊る

――つかさんとの出会いは、馬場さんがVol.1でおっしゃっていた「プレッシャーがあったほうがベストなパフォーマンスができる」というお話そのままのエピソードですね。稽古はいかがでしたか?

馬場本当に大変でした。まず、つかさんが来るまでに1カ月ぐらい稽古がありまして、それまでに台詞を入れて通せる状態にしておくんです。でも、つかさんが来ると、いきなり台本にない踊りの稽古とかが始まるんです。「(共演者の黒木)メイサが新曲を出したから、みんなで踊りますからね。覚えてくださいね」なんて、いきなり言うんですよ。

――今まで覚えたことは無視して(笑)。

馬場おまけに3分もしないうちに「はい、振付できましたか?」って(笑)。当然できるわけがない。でも、できない人はどんどん削られていくんです。「あっち行け」とか「来なくていいぞ」とか。

――厳しい!

馬場とにかく、そのときに覚えないとクビになるんです。でも、稽古が終わって翌朝になると、また台本が変わっているんですよ。20~30ページ分、台詞が変わっているのはザラでした。それが稽古中にどんどん変わっていって、また翌朝にも変わっている。覚えられていないと「やる気ありますか?」と言われて、出番が削られていきますし……本当、サバイバルでしたね。

――さらに、つかさんのお芝居は台詞の量がとにかく多いですよね。

馬場莫大ですからね。今回僕が演じる、『広島に原爆を落とす日』のディープ山崎役では、A4サイズの紙3枚分、字がぎっしりの台詞があります。改行もないですから!

――そんな長台詞、どうやって覚えるんですか?

馬場まず録音して、それを聴きながら毎晩寝るんです。睡眠学習ですね。つかさんの最初の舞台に出たとき、練習のはじめの1週間は、ほぼ寝ないで台詞を覚えました。

「役者なんて芝居しなくていい」

――つかさんは2010年7月に亡くなられてしまいます。つかさんからかけられた言葉で、印象に残っているものはありますか?

馬場「お前のことは心配していないから、芝居なんかしないで目の前にいる相手に想いを伝えろ」と言われました。「台詞なんか考えなくていいから、エネルギーを発してみろ」「役者なんて芝居しなくていいんだ」とも。

――深いですね……。

馬場でも、急に「芝居しろ」って言ったりするんですよ(笑)。ホントにわからない人なんです、つかさんって。(笑)「お前らは俺の言うことだけ聞いてりゃいいんだ。俺が一番おもしろいんだから」なんて言いますからね。

馬場徹

――「俺が一番おもしろい」ってすごい言葉ですね。実際そうなんですか?

馬場たしかに、稽古中でも、つかさんが一番演技が上手なんです(笑)。泣きながら台詞をつけたりしますからね。ものすごく情熱的な方でした。本当にすごい人です。

――馬場さんは「つかこうへい最後の愛弟子」と呼ばれることがありますが、こうしてお話を聞いていると、馬場さんからつかさんへの愛情を感じます。

馬場そうですね。やっぱり、つかさんの作品をやらせてもらったことは自分にとっての大きなきっかけでした。デビュー作品でもある『テニスの王子様』をやらせてもらったことが最初のきっかけで、つかさんの作品への出演がもう一つの大きなきっかけですね。そこで学んだことは大事にしたいな、と思っています。

――つかさんの芝居と出会って、成長した部分、変化した部分はどんなところでしょう?

馬場舞台に関しては、怖いものがなくなりました(笑)。あと、取りつくろわなくなりましたね。若い頃は、カッコよく見られたいとか、自分の汚いところは見せたくない、という気持ちがありましたが、それがなくなったと思います。仕事でもプライベートでも、自分は自分のままでいい、と思うようになりました。たとえば、女の子とごはんを食べに行くときでも、ちょっと前なら澄ました顔したりしていたと思うんです(笑)。でも今は、相手の理想を考えて、そっちに自分を近づけるようなことはしなくなったかもしれませんね。

――馬場徹は馬場徹なんだ、と。

馬場それを好んでくれる人がいたら、ぜひ(笑)。

構成:大山くまお、撮影:吉澤健太

(更新日:2016年1月10日)

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