身内だけでなく、ときにはかかわった他人までをも振り回し、不幸にすることもある毒親。自らの体験をもとに「恋愛や結婚は、相手の家族と接触するキッカケになることも多いので、とくに気をつけてほしい」と忠告してくれたのは、阿部武弘さん(仮名・30代)。
阿部さんは高校を卒業してから10年ちょっとの期間、従業員5人というアットホームな会社で真面目に働いていた。職場の人たちからの信頼も厚く、跡取りのいない社長からは「将来的には、ぜひ会社を任せたい」と期待されていたほど。
◆キャバ嬢にひと目ぼれ
「充実した毎日を送っていたある日、会社の上司に連れて行ってもらったキャバクラで、H香(20代前半)と出会いました。華やかで明るく、よく話す印象の女の子が多いなか、H香はしっとりとした雰囲気で静かに微笑んで話を聞いている。すごくタイプでした」
おとなしく寡黙な阿部さんのただならぬ様子を察した上司は、半ば強引にH香さんから連絡先をゲット。自分の気に入っている店の女の子とH香さんを誘い、4人で出かける機会を何度も作ってくれた。
「H香と会う機会を重ねるうち、消極的な僕でも彼女との距離を自然と縮めることができたのです。その後も上司が僕たちの恋を応援してくれたお陰で、お付き合いまでは順調に発展。付き合って半年以上が経ち、僕はH香にキャバクラを辞めてほしいと懇願しました」
◆母親から?LINEと電話がひっきりなしに
最初は「生活のため」と渋っていたH香さんを、「結婚したいと考えている。月々の生活が楽になるように、僕のアパートで暮らそう!」と、自分には似つかわしくない大胆な言葉で説得。3か月ほど悩んだH香さんだったが、阿部さんの提案を受け入れた。
「そして同棲をはじめたのですが、その頃からH香のスマホが頻繁に鳴るようになったのです。それは、H香がキャバクラを辞めてアパレル関係の仕事に勤めはじめた頃でした。LINEに電話の着信と、浮気を疑うぐらいの頻度です」
H香さんは着信音がなるたびに音を切るなど対処していたが、着信のたびにスマホが光るため気になって仕方がない。「何の電話?」と尋ねてみると、意外にも「母親から」だという返答。「どうして出ないのか?」と疑問をぶつけると、H香さんは黙り込んでしまった。
◆毒親の母から逃げるためキャバ嬢に
「そこで僕は、じっくり話す時間を設けることにしたのです。するとH香は、自身の母親のことを“モンスター”だと表現。いままでは聞いても濁すだけでハッキリ教えてくれなかった母親と自分の関係について話してくれました」
H香さんは、自分が幼い頃に離婚し、女手ひとつで育ててくれた母親を助けるため、高校入学と同時にアルバイトを開始。全額を家に入れるようになった。けれどいつの間にか、母親はホストクラブにドハマリ。お金の無心をするようになる。
「そして、アルコール依存症になった頃から怒鳴ったり暴れたりするようになり、H香にも手をあげるようになっていったそうです。そのためH香は『家を出て、割のいいキャバクラで働いてお金を家に入れたい』と母親を必死に説得。実家を出たそうです」
◆H香の母親と電話することに
キャバクラでもらった日払いのお金を毎日入金することで、自由を手に入れていたH香さん。けれど、キャバクラを辞めてアパレルでの勤務を開始したことで振込が途絶え、母親がH香さんのマンションへ行ってみても空室。そこで、怒りのLINEと電話の嵐となったようだ。
「もし僕がその話を受け入れてくれるなら、H香は電話番号を変え、このまま母とは縁を切って人生をやり直したいと涙ながらに話してくれました。でも僕は『たった2人きりの家族。話せばわかってくれる』と説得。母親の電話に出てしまったのです」
電話に出たのがH香さんではないと察した母親は「まさか、H香の彼氏?」と驚きながらも、普通に対応してくれたとか。H香さんは傍でぷるぷると小刻みに震えていたというが、母に粗暴な一面はなく、むしろ話しやすい印象だった。そのため、会話も弾んだという。
◆「娘をダマして妊娠させた」と電話
「でも、名前や電話番号、住所や職場について話し終わった途端、態度が急変。『H香を返せ! さもないと職場に乗り込む』『H香と付き合うなら、月々お金を入れろ!』と、ヤバイ発言がポンポン飛び出し、話にならない。恐怖のまま、無言で電話を切りました」
けれど、何度電話を切っても、また着信音が鳴る。H香さんと阿部さんの携帯電話が交互に鳴り続け、その日は深夜まで電話がかかってきた。さらに翌日以降も電話が鳴り続けたため、弁護士への相談も視野に入れ、H香さんと再び話し合うことに。
「そんなときでした。職場には『阿部という男が娘をダマして妊娠させた』『娘の人生をメチャクチャにしたから慰謝料を払え』などの電話がかかってくるようになり、自宅アパートにはピンポンダッシュやドアを激しく叩いて逃げるといった行為が続くようになったのです」
◆手紙を置いていなくなった彼女
会社への電話については、上司が「嫌がらせが続くようなら、こちらも適切な手段を取らせてもらう」などと早い段階で伝えたことで収拾したが、阿部さんは何度も事実を確認された。さらに、電話を取った職場の人たちからも事情を聞かれ、会社に居づらくなってしまう。
「そうこうしているうちに、H香が手紙を置いて姿を消してしまったのです。すると、ピンポンダッシュやH香の母からの電話もプツンとなくなりました。電話番号も変えられてしまい、H香とは音信不通です。職場やアパートには居づらくなり、転職して転居しました」
1人の女性と出会って生活が一変してしまった阿部さんは「家族の問題は難しい。H香の言葉を素直に聞き、2人で新生活をはじめていれば未来は変わっていただろうか?」と自問自答し、後悔する日々を送る。モンスターには、人の常識や想いは通じないのかもしれない。
<TEXT/夏川夏実>
【夏川夏実】
ワクワクを求めて全国徘徊中。幽霊と宇宙人の存在に怯えながらも、都市伝説には興味津々。さまざまな分野を取材したいと考え、常にネタを探し続けるフリーライター。Twitter:@natukawanatumi5