ウクライナのゼレンスキー大統領は、ガザ問題を契機にこの終わらない戦争の落としどころを模索するのか? それともロシアを追い返すまで徹底的に戦い続けるのか?
イスラム組織ハマスがイスラエルを急襲して始まった軍事衝突に世界の注目が集まる中、難しい立場に置かれている国がある。ロシア軍の侵攻と戦い続けているウクライナだ。世界からの支援がどうなるかわからない中、それでもアピールし続けるゼレンスキー大統領と、アメリカ、ヨーロッパ、ロシアの本音とは。
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■ウクライナよりイスラエルを優先!?イスラエル軍によるガザへの地上侵攻が本格化し、混迷を深めるパレスチナ問題。民間人を中心としたパレスチナ側の死者は1万人を超え、深刻な人道上の危機に即時停戦を求める国際世論が高まっているが、欧米諸国の支持を後ろ盾としたイスラエルが強硬な姿勢を崩す様子はない。
そんなガザ問題の影響で深刻な危機に直面しているのが、〝もうひとつの紛争地〟であるウクライナのゼレンスキー大統領だ。
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「最大のスポンサーであるアメリカの関心が一気にイスラエルへと移ってしまったのは、ロシアとの戦争が膠着(こうちゃく)状態にあるウクライナにとって大きな衝撃です」と語るのは、アメリカ現代政治が専門の上智大学教授の前嶋和弘氏だ。
「もともと、アメリカのウクライナ問題に関するメディア報道は日本と比べても少なく、世間も『ウクライナにはかなり武器もお金も出したけど、その割に反転攻勢があまり進んでないよね……』と冷めてきていました。
そして戦況が膠着状態に陥る中で『いつまでアメリカは青天井の援助を続けなきゃいけないんだろう……』という空気も広がり始めていたのです。特に共和党側からは『ウクライナへの支援を減らすべきだ』という議論まで出ていました。
そこにガザ問題が追い打ちをかけた。10月7日にハマスがイスラエルへの越境攻撃を行なうと、バイデン政権はすぐさま『イスラエルの全面支持』を表明。これによりウクライナとの二正面作戦を強いられることになるのですが、政治的に見てもアメリカにとってイスラエルの存在というのはやはり大きいんです」
そこには宗教的な背景がある。
「まず、大前提として民主党も共和党もイスラエル全面支援というのは変わりません。その上で民主党は基本的に『イスラエルとパレスチナの2ヵ国共存』を支持する立場なのに対して、共和党側は有力な支持層であるキリスト教福音派を中心に、徹底したイスラエル寄りの立場で、『聖書には神がパレスチナの地をユダヤ人に与えたと書いてある』と信じている人も多い。