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『リアリティ』の題材となった実際の事件を解説  恐ろしく“リアリティ”のあるスリラー映画

Real Sound

 そんなアメリカ国民を震撼させる情報を流出させたのが、機密にアクセスすることができたリアリティ・ウィナーだったというわけだ。もちろん、国家機密を故意に外部に漏らすことで、罪に問われるのは当然の結果だといえる。

 その一方で、一つの疑問が生じることも避けられないだろう。なぜロシアが選挙戦に介入していた事実を国民に隠さねばならないのか、という点だ。アメリカは民主主義国家であり、国民には知る権利がある。主権を持つ有権者が投票した選挙戦に、よりにもよって強大な軍事力を持つロシアが介入していたとすれば、重大な事件に他ならない。そんな情報が故意に隠蔽されるのは、国民に対する裏切りといえるのではないか。FBIは、いったい誰のために動いているのか。

 リアリティは確かに職務に反して機密を漏洩してしまった。法に照らしても許されない行為であることは間違いない。だが、彼女がこの情報を、自らの正義感からニュースサイトに提供しなければ、この問題は完全に闇に葬り去られていた可能性がある。トランプ陣営にとっては痛手かもしれないが、大勢の国民に利益をもたらしたことも確かなのだ。見方を変えれば、彼女はまさに風の谷のナウシカのような、自己犠牲的なヒーローだともいえるのではないか。

 この問題を考えるときに焦点となるのは、国家というものをどう捉えるのかということだ。軍人でもあったリアリティは、国に忠誠を誓い、国を守るために働いていた。そう考えれば、リスクを覚悟で情報を流出させたことも、軍人として自国を外国の手から守るための行動であり、市民の義務を果たす選択だったと考えることもできるのではないか。国を愛することとはどういうことなのか。何のために人は働き、社会に貢献するのか。この事件は、そんなことをわれわれに考えさせるのである。

 本作が長編映画監督デビュー作となるティナ・サッターは、ニューヨークのオフブロードウェイで、現代演劇作品の演出や戯曲を手掛けてきたアーティストだ。彼女のブロードウェイ進出作となったのは、本作『リアリティ』の基となった『Is This A Room』。『リアリティ』同様、FBIの実際の捜査の音声を基に、一言一句内容を変えず、咳払いすら忠実に再現するといった、実験的なまでにリアリティを追求した演出が話題を呼び、演劇界の「超新星」と評価する声もある。

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 サッター監督は、戯曲に付け加えをしないことを決めたことについて、こう述べている。「私たちは、音声記録をまるでシェイクスピア劇のように扱いました。まるでそれが正典であるかのように」と。(※)

 ジェンダーを作品のテーマの一つにしてきたサッター監督にとって、危険を冒して自らの信念に従ったリアリティの精神性や、彼女の孤独な戦いの記録は、同じ女性として、またアメリカ国民として価値のあるものだと理解したのだろう。だからこそ監督は、舞台でも本作においても、忠実にリアリティ・ウィナーの実像や体験を、できる限り変えずにそのまま表現しようとしたのだ。まさに本作は、二つの意味で『リアリティ』というタイトルに相応しい内容なのである。

 本作を鑑賞して、どのような感想を持つか、リアリティの行動をどう判断するかは、もちろん自由である。しかし、本作の観客たちが、実際に起こった出来事を忠実に再現した内容を追体験することで、いままでの社会の見方に変化が生じたり、国家と国民との関係や、政治問題などについて、これまで以上に考えるきっかけを得るのならば、本作が撮られた意義は十分あったのだといえるだろう。

参照
※ https://www.npr.org/2021/10/12/1044602235/is-this-a-room-reality-winner-play

(文=小野寺系)

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