
トヨタ自動車の2022年4~12月期決算で、売上高が27兆4,640億円の過去最高となりました。世界一の自動車メーカーであるトヨタには、さまざまな有名な方針があります。「『なぜ』を5回繰り返す」「紙1枚」などです。両者には「考え抜く」という1点にたどり着くためという共通点があります。 新卒でトヨタ自動車に入社し、独立後は社会人教育関連事業を展開、作家としても活躍する浅田すぐる氏が解説します。
トヨタの洗練された研修制度
私が受けた当時の問題解決の研修では、2人の講師が講義を担当しました。1人目は、グロービスというMBAが取得できる日本最大のビジネススクールの先生。途中からは、ひと回りほど年次が上の先輩社員です。
トヨタには「教え、教えられる」といったキーワードで形容される企業文化が根づいていて、社員同士が教えてもらったり教えたりすることが、時間のムダではなく、大切な仕事のひとつとして位置づけられています。
だからこそ、社会人教育のプロフェッショナルであるグロービスにすべてを任せるのではなく、社員自身が教える力を高められるようにも設計されているのです。
ちなみにこのときから数年後、私は米国トヨタで勤務する機会があったのですが、現地で垣間見た仕事のひとつに「T3」と呼ばれるものがありました。これは、「TrainTheTrainer」の略で、意味は「トレーナーを養成するトレーニング機会」。
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要するに、「教え、教えられる」の海外版も存在するということです。
トヨタのポリシー「1つの概念に固執せず、必要に応じてカイゼン」
加えてもう1つ、こうした地理的・空間的な広がりだけではなく、時間的な観点での補足もさせてください。「教え、教えられる」文化という言い回しだと、「経験豊富な先輩社員が、次代を担う若手に知識や技能を伝承する」といった年功序列的な匂いが、とくに日本ではどうしても漂ってしまいます。
一方、変化の激しい現代においては、「年次が上=仕事のことは何でもわかっている」といった図式は、必ずしも成立しません。
年次や肩書き、所属や会社に関係なく、私たちは生涯学び続けていかなければならない。こうした時代の変化を踏まえ、現在のトヨタでは「自ら学び、教える」に人材育成の方針を転換しています。
このように、トヨタウェイにしろ人材育成の方針にしろ、トヨタは1つの概念に固執せず、必要に応じて次々とカイゼンを繰り返していく会社です。
言い換えれば、「動的=ダイナミック」な仕事観。これもまた、トヨタで学んだ重要な本質のひとつです。