
◆『老いた世界と若きアフリカ』
タイムズ紙の主席アフリカ記者であるデクラン・ウォルシュ(Declan Walsh)の記事は、『Old World, Young Africa』という大見出しが付けられている。オンラインでも公開されている長編記事だが、紙では40ページの別冊版として印刷された。文章も読みがごたえのあるものだが、写真が語る物語にも強いメッセージ性が込められている。
アフリカ大陸における若者の人口は、ほかのどの大陸よりも速いスピードで増加している。1950年時点では、アフリカの人口は世界人口の8%だったが、2050年までには世界の4人に1人がアフリカ人となる。また、世界の若者の3分の1がアフリカ人になると推測されている。この大きな変化は、若者が揺るがす世界を比喩的に表現し、「ユースクエイク(若者の振動)」と呼ばれることもあるそうだ。近い未来の変化の兆しが、すでに世界各地で起こりつつある。
アフリカの乳児の死亡率が2000年以降半減し、アフリカの人口のカロリー摂取が増加。アフリカ人がより健康で長生きできるようになったことは、人口増に少なからず影響している。また、教育状況も改善し、高等教育へのアクセスも改善された。インターネットの普及も若者の知識・知能レベルに貢献している。一方で、雇用不足は課題であり、一部の若者は仕事がなければお金のためにテロに加担してしまうという問題もある。さらに、世界的な気候変動は、アフリカ各地でより大きな被害を及ぼしている。洪水、旱ばつ、嵐が各地で発生している。
しかしながら、アフリカは課題を抱え、支援を待つ受身的な存在ではもはやない。アフリカ各国政府は、単体および連合で、世界の政治経済に大きな影響力を及ぼす重要なアクターとなりつつある。そして、アフリカとアフリカ人の世界への影響力が最も如実に現れているのが、クリエイティブセクターの動きだ。
◆グローバル・カルチャーを席巻するアフリカ
昨今、音楽、ファッション、建築など、さまざまな分野でアフリカ系のクリエイターたちが活躍している。たとえば、音楽では西アフリカ発のアフロビーツ(Afrobeats)という音楽ジャンルが、世界各地で人気を集めており、昨年はアフロビーツの音楽が130億回再生されたそうだ。一昨年の80億回から1.6倍にも増加した。また、ファッション業界においても、南アフリカやナイジェリアのデザイナーが欧米で活躍している。グローバルなラグジュアリーファッションの世界において、若きデザイナーの登竜門として知られる「LVMHプライズ」の最優秀賞を2019年に受賞した南アフリカ出身のテベ・マググは以後、自身のコレクションを世界展開するほか、アディダスやディオールなどとのコラボレーションを実現させた。ユネスコ(国連教育科学文化機関)が先月発行したアフリカファッション業界に特化した初の調査報告書によると、155億ドル相当の布や衣料品、靴がアフリカから世界市場に輸出された。同報告書では、アフリカファッション業界のさらなる可能性を示唆する。
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また、近年ではアフリカ系の建築家の活躍も目立つ。たとえば、2022年にはブルキナファソ出身のフランシス・ケレが建築界の最高栄誉とされるプリツカー賞を受賞。現在開催中のヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展では、ガーナ系レズリー・ロッコがキュレーターに任命され、アフリカ系の建築家にフォーカスしたキュレーションを行った。
日本やアジアから見ると、いまだアフリカ大陸は遠い存在かもしれない。しかし、韓国のポップカルチャーがそうであるように、日々接するグローバル・カルチャーのなかに、気がついたらアフリカがあふれているという日もそう遠くはないのかもしれない。