
化学・電気素材メーカーの3Mが開催する若き科学者のためのコンペで、14歳の中学生ヘイメン・ベケレ(Heman Bekele)が皮膚がん治療に役立つ石鹸の開発で優勝した。
◆若き科学者のためのコンペ
ベケレが優勝したコンペは、メディア会社のディスカバリー・エデュケーションと3Mが共同で設立したヤング・サイエンティスト・ラボが1999年より毎年開催する、3Mヤング・サイエンティスト・チャレンジ。このコンペは、アメリカの5年生から8年生の生徒を対象に、世界をより良くするための革新的なアイデアを募るもの。参加者はトピックを選び、1〜2分のプレゼンテーション動画を提出することで応募できる。トピックに関しては、健康、安全、モビリティ、環境、エネルギー消費、コミュニティの6つが設けられ、各領域に関して課題を解決するためのアイデアが求められる。応募者のなかから10名のファイナリストが選ばれ、1000ドルの賞金と3Mの科学者によるメンターシップが付与され、別途、全米各州および首都ワシントンからの51名に優秀賞が与えられる。
ベケレの優勝アイデアは、メラノーマ治療石鹸(Melanoma Treating Soap:MTS)。皮膚がんを治療するために開発された化合物ベースの石鹸だ。石鹸に含まれる化合物が、皮膚を守るための樹状細胞と呼ばれる免疫細胞を活発化し、がん細胞と戦うという仕組みだ。
ベケレの石鹸は現時点、デジタル上での分子分析、二次データ分析、数式計算を経て開発され、物理的試験は行われていない。ベケレのメンターを務めた3Mの科学者デボラ・イザベルによると、彼の石鹸が実際に効果を発揮する可能性は十分にあるが、その有効性を確かめるためには、5〜10年にわたる臨床実験が必要だと語る。(ABCニュース)
◆若き科学者の想いとは
4歳までエチオピアで育ったベケレ。炎天下のなかで働く労働者たちのことが記憶にあり、今回の石鹸の開発につながったという。アイデアを考えるにあたって、科学的に優れているだけでなく、より多くの人に届けることができるかどうかという点を考慮したという。既存の皮膚がん治療手術や、治療薬は高価であり、低所得者層には買う余裕がない。彼のプレゼンテーションによれば、現状、皮膚がんの一種であるメラノーマ(悪性黒色腫)の回復率は、アメリカでは98%に対し、アフリカでは20%だという。5 年後には非営利団体を立ち上げて、皮膚がん治療の石鹸をできるだけ多くの人に届けたいとベケレは構想する。また、中長期的には電子工学者として未来の技術に貢献したいと語る。コンペの優勝賞金2万5000ドルの使途については、一部は石鹸のプロジェクトに投資し、残りは将来の大学の学費のために貯金するという。
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他9名のファイナリストもそれぞれ優れたアイデアを持つ。たとえば、オレゴン州出身の14歳、アニーシャ・ドゥートは、昆布を活用した食料危機と気候変動の課題解決策を提案。単純に昆布の有効性を実験するだけでなく、AI(人工知能)の機械学習を活用して、土壌の質の予測モデルを構築したいと語る。同じく14歳のショーン・ジャンは、視覚障害を持つ人のための新しいナビゲーションシステムを提案。4方向に対してそれぞれ異なる音の合図を設定し、音を通じて障害物の接近を知らせるプログラムを開発した。若き優秀な科学者たちが、医療や気候変動といった今後ますます深刻化する課題に対して、クリエイティブな解決策を生み出す未来に期待したい。