
コミカライズを含めた累計が2400万部に及ぶ人気作品となっている日向夏のライトノベル「薬屋のひとりごと」シリーズ。9月29日に発売の最新刊『薬屋のひとりごと14』(ヒーロー文庫)も、名家どうしの諍いや宮中に渦巻く勢力争いに端を発する事件を、主人公の猫猫が持ち前の推理力で解き明かす展開で楽しませてくれる。待望のアニメ放送も控えており、これまで以上の注目を集めそうだ。
参考:『薬屋のひとりごと』などの人気タイトルを輩出する「ヒーロー文庫」の新レーベル「ヒーローコミックス」が9月29日より配信開始!
『葬送のフリーレン』の金曜ロードショーでの2時間放送に続くように、10月21日深夜に一挙3話放送という異例の形でスタートするTVアニメ『薬屋のひとりごと』。こちらも放送するのは日本テレビ系で、局を挙げてアニメ番組を盛り上げていこうとする姿勢と同時に、話題性を聞いて見てもらえれば、確実にファンとして引き込めるという自信が感じられる。
中華風の帝国の都にある花街に生まれた猫猫という少女は、羅門という医師の養女として育てられたこともあって、幼い頃から医学や薬学の深い知識を吸収していた。ところがある時、金目当ての賊にさらわれて下級女官として宮廷に売り飛ばされ、後宮で下働きの仕事をさせられることになってしまう。
花街育ちで神経が図太くできていることもあって、2年もすれば年季が明けて開放されると達観し、目立たないように日々の仕事に精を出していた猫猫だったが、2人のお妃たちが生んだ子供が相次いで体調を崩した原因に感づいて、こっそりと忠告したことで、後宮の管理をしている壬氏という名の美貌の宦官に見いだされ、宮中で起こるトラブルの調査に駆り出されるようになる。
広告の後にも続きます
小説やTVアニメの冒頭で描かれるこうした猫猫の事情や、壬氏との出会いがその後にどのような事態に発展していくかは、毎週の放送を見るなり原作小説を読むなりして追っていくことでだんだんと見えてくる。TVアニメのプロジェクトPV冒頭で、着飾って化粧もした猫猫が、恍惚とした表情から凄みのある笑みを浮かべて「これ、毒です」という場面が、どのような状況なのかもTVアニメでいずれ描かれ、猫猫の物怖じしない性格を改めて示すことになる。
このシーンで登場することになる4人の上級妃のひとりで、幼さの残る里樹妃が実は、最新刊『薬屋のひとりごと 14』で数奇な運命を経た身の上で、改めて注目の存在として浮上してくる。どのような運命をたどったのかには、これからアニメを見たり原作を読んだりする人の興を削がないために触れずにおくが、女たちが自分の栄達だけでなく、出身家の命運も背負って皇帝の皇后となろうとしのぎを削り合っている後宮ならではの事情を、知ることができるとだけは言っておこう。
いずれにしても、皇帝がすべての権力の中心にあることから様々な事態が引き起こされるということで、里樹妃に限らず他の妃たちも、そして壬氏もそれに振り回されている。『薬屋のひとりごと14』ではまた、皇帝の血筋が時代を経てもなお計り知れない影響を及ぼしていることも描かれる。例えば、猫猫が育った妓楼でも人気の女華という名の妓女の部屋に賊が入った事件では、女華が持っていた翡翠の牌が皇帝の血筋を示すものなのではないか、といった噂が背景にある。
前巻の『薬屋のひとりごと13』ですでに、女華から牌を見せられた王芳という武官が、猫猫の実父で軍師をしている羅漢の部屋で、首吊り死体となって発見される事件が起こっていて、皇帝の血筋をめぐって密かな勢力争いが起こり始めているのか、といった想像をかきたてていた。『薬屋のひとりごと14』ではそうした勢力争いが表面化して来て、皇太后派と皇后派に別れた軍人が教練で傷つけ合うような事態も起こるようになって来る。
皇太后派や皇后派はすでに、それぞれ皇帝の後継者となる皇子を押し立てて争っている。女華が狙われたのは、そこに新たな火種となる、前の皇帝たちの血を引く存在が現れては困るといった思惑があるのだとしたら、女華の身に危険が及ぶことになる。それは避けたい猫猫は、出会った時は美貌の宦官に過ぎなかったのが、とてつもない存在であり、そして猫猫と惹かれ合っていく壬氏を頼って事態を収拾しようとする。
もっとも、『薬屋のひとりごと13』でついに結ばれるのかと思ったら、壬氏が土壇場で臆して猫猫を寝所から追い出すようなことが起こっていて、猫猫も昨日の今日で合うのはなかなかに気まずかったりする。後宮で起こる奇妙な事件の謎を解き、宮中を揺るがす謀略の真相を暴くミステリ的な展開の一方で、こうした女性と男性との間のラブコメ的な描写も、実はシリーズの魅力だったりする。