
『どうする家康』(NHK総合)第37回「さらば三河家臣団」。秀吉(ムロツヨシ)が北条攻めを決定する。和平を主張する家康(松本潤)だが、秀吉は家康に先陣を命じた。勝てば北条領を全て与えると言う秀吉だが、それは家康が故郷である三河を離れることを意味していた。家康は家臣たちに事情を話せぬまま、出陣を命じることになる。
参考:小手伸也、『どうする家康』大久保忠世を演じて 「この出会いを一生忘れることはない」
北条との戦が終わり、家康はやや緊張した面持ちで家臣たちに国替えとなることを告げた。故郷を守るために多くの犠牲を払って戦い続けてきた家臣たちの心中を慮る家康だが、家臣たちの反応は家康にとって意外なものだった。家臣たちは皆、国をたつ前に大久保忠世(小手伸也)から国替えは避けられないことを聞かされていたのだ。
忠世といえば、戦場では勇猛果敢だが、「色男」を自称し、髪が薄くなるのを気にするといったコミカルな描写が印象的だ。そんな忠世は家臣団にとって面倒見のいい兄貴分であり、国替えの一件においては、家臣たちが混乱するのを一手に引き受けた。家康の予想通り、忠世から国替えを聞かされた家臣たちは憤りを隠せなかった。
本多忠勝(山田裕貴)は忠世を投げ飛ばし、鳥居元忠(音尾琢真)も井伊直政(板垣李光人)も、平岩親吉(岡部大)も榊原康政(杉野遥亮)も、「わしらの国はどうなるんじゃ!」と忠世に詰め寄った。しかし忠世は、力ずくで押し返すのでもなく、強い口調で説得するでもなく、ただひたすらに彼らの怒りややるせなさを受け止めるに徹した。
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場面が切り替わり、疲弊する家臣たちの姿が映し出される。肩で息をする家臣たちの奥に見えた忠世は、ゆっくりと立ち上がると「気は済んだか」と言った。この時、忠世の表情は彼らに詰め寄られた時と変わっていなかった。額は泥で汚れ、髪も乱れており、彼らと何度もぶつかったことがわかる。それでも忠世はそのまっすぐなまなざしと落ち着いた佇まいを崩さなかった。数分の短い場面ではあったが、忠世が家臣団において重要な役割を担っていたこと、そして彼の存在がなければ国替えを受け入れることはできなかったことが十分に伝わってきた。
忠世に加え、本多正信(松山ケンイチ)も影の立役者といえよう。秀吉の目論見を見抜いていた正信は、家康や阿茶局(松本若菜)の意向に反して、国替えが避けられないことを家臣たちにうまく伝えるよう忠世に頼みこんでいた。忠世を呼び出した正信はニヤリと笑いかける。悪知恵が働く正信らしさが感じられると同時に、忠世と正信の信頼関係がうかがえる場面でもある。考えてみると、イカサマ野郎と呼ばれ、“家臣団の嫌われ者”だった正信を家康に紹介したのは忠世である。忠世が家康から小田原を与えられる場面で、正信はこんなことを言っていた。
「わしが三河を追放されとる間、我が妻子の世話をしてくれたこと、感謝してもし切れん」
2人がどのような間柄であるかが明確に描かれたことはなかったが、この台詞を通じて、正信が忠世に信頼を置いていたことがわかる。
なお、正信と忠世の関係性も印象に残るが、石田三成(中村七之助)に向けた正信の視線も心に残る。織田信雄(浜野謙太)は国替えに異を唱えたことで改易された。正信は「徳川様はどうかご辛抱を」という三成の言葉を、黙って聞いていた。だが、三成が「(秀吉は)これまで一度として間違ったことはございませぬ」と断言した時、「もし万が一、殿下が間違ったことをなさった時はこの三成がお止めいたします」と意気込む三成の横顔を正信は鋭い眼光で捉え、何かを思案するように視線を落とした。正信には先見の明がある。秀吉への忠義を重んじる三成の姿勢に、不穏な予感を察したのかもしれない。
最後に、駿河太郎演じる北条氏政についても書き記したい。氏政が秀吉に抗い続けた背景には、妹・糸(志田未来)から誘われたある企てがあった。小さな国々が争わず、助け合ってつながり一つになること。氏政を通じて、家康は再び瀬名(有村架純)の願いに触れる。