
連続テレビ小説『らんまん』(NHK総合)は、植物学者・槙野万太郎(神木隆之介)の人生を描いたドラマだった。故郷・土佐の人々、東京大学の人たち、そして生涯の伴侶となった寿恵子(浜辺美波)をはじめとした家族……。ひとりの人生にはこんなにも多くの人が関わるのかと改めて驚いてしまうほど、本作にはたくさんの登場人物がおり、彼らを赤ちゃんからベテランまで様々な人が演じた。その中でも特に後半の物語を盛り上げたパワフルな若手俳優に注目していきたい。
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東京大学の植物学教室に在籍していたものの、そのちょっと特殊な学歴と圧倒的な実績から周囲からの羨望と嫉妬の目に悩まされた万太郎。東京大学を辞めたその人生の後半で彼の支えとなったのは家族だった。
若き日の寿恵子を思い出させるようなしっかりさで、槙野家をぐいぐい先導していたのが遠藤さくら演じる次女・千歳だ。早くから家事全般を覚えた千歳は、十徳長屋の差配人であるりん(安藤玉恵)にみっちりと仕込まれ、後継者に指名されるまでに。明るくはつらつとした千歳を遠藤は、気負いなく、等身大で演じていた。一方で千歳が結婚する場面では、はっと心が奪われるような綺麗さを見せた遠藤。ずっと成長を見守っていた少女がいきなり知らない女性となって巣立つようで突然寂しくなった人も多いことだろう。千歳という名が、万太郎と寿恵子の第1子である園子が夭逝してしまったため、「とにかく長生きできるように」という願いを込めて名付けられたというエピソードも含め、ハイライトとなる一幕だった。
物語全体の橋渡し役となるキーパーソンとなったのが本田望結演じる三女・千鶴である。槙野家の末っ子である千鶴は少々おてんばで、夕飯の調理中に帰ってきた父に包丁を持ったまま駆け寄っていってすかさず、「千鶴、包丁置いてから」と千歳に叱られていた。家族のマスコット的な側面もあり、周囲からいつも「ちづ」と呼ばれ可愛がられていた。その愛情をいっぱいに受けた姿を本田は、にこやかな笑顔とふんわりとした雰囲気で表現し、それが晩年を演じた松坂慶子の柔らかい様子へとへと繋がっていった。同世代・Z世代の俳優たちが多く出演した『ばかやろうのキス』(日本テレビ系)などの『Zドラマ』シリーズでは、高校生らしいキャピキャピ感をみせていた本田。そこから一転したやや落ち着いた演技にこれまでの経験が光っていた。
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大学で研究室に属さず、自分の研究室も作らなかった万太郎にとって、自然とできた後継者・虎鉄の存在は大きかった。虎鉄によって万太郎の研究は後世に引き継がれていくことになる。万太郎と出会った頃の虎鉄を演じたのは寺田心。高知の遍路宿「角屋」の息子だった虎鉄は、植物が好きな好奇心いっぱいの少年だった。熱中できるものがあるが、地元の名家の跡取りという状況は、土佐にいた頃の幼い万太郎のことを思い出させた。寺田といえば、「天才子役」というイメージを持っている人も多いだろう。たしかに寺田は数々のドラマで重要人物の幼少期を演じ、無邪気で可愛らしい立ち振る舞いでCMやバラエティに引っ張りだこだった。そんな彼も今や、子役とは簡単に言えないくらいに成長。その演技も順調に幅を広げているようで、寺田は無邪気さもありながら、宿屋の長子としての責任感も感じ始めているまだ少年の虎鉄を絶妙なバランスで演じた。
万太郎との出会いをきっかけに植物学への思いが大きくなり、実家の遍路宿は妹に任せ、両親を説得して上京してきた虎鉄を演じたのは濱田龍臣。そんな情熱を持って来たからには、万太郎と同じく周りが見えなくなるくらいの猪突猛進なところがあるのだろうと思いきや、濱田は虎鉄のそういうところを大切にしながら、根は優しく気弱なところをプラスして演じてみせた。それもあってか、虎鉄は登場から一気に愛すべきキャラクターに。牧野家と同じ長屋に住み、千歳との結婚もあって、虎鉄はなくてはならない存在となった。線が細いほかの人物に比べて、虎鉄はやや恰幅がよくどっしりしていた。その様子には安心感が感じられた。
朝ドラ出演を機に飛躍を遂げた俳優はとても多い。放送は終わってしまったが、本作に出演した若手俳優陣を他の作品で見かけることもこれからどんどん増えていくだろう。彼らの成長や活躍を様々なところで目撃できることは、「らんまんロス」を解消する今後の楽しみの一つになるのではないだろうか。
(文=久保田ひかる)