
話題作への出演が続く俳優・一ノ瀬ワタルは“規格外”の存在だ。
参考:一ノ瀬ワタル、『ハヤブサ消防団』で中村倫也と3度目の共演 謎のキーパーソン役に
ここでいう彼の存在の大きさとは体格のことではない(もちろん、恵まれた体格の持ち主ではあるが)。ひとりの俳優としての器の大きさのことである。その魅力はいまや世界中に広がり、あのBTSのメンバーであるVも一ノ瀬に魅了されているらしい。規格が日本の枠に収まらない存在なのだ。
大人気バラエティ『行列のできる相談所』(日本テレビ系)にて、一ノ瀬とVが初めて対面するという。番組公式サイトには「世界のBTS・Vが、大好きな俳優・一ノ瀬ワタルから壁破りドッキリを仕掛けられる!」と記されている。映画にしろドラマにしろ、誰もがどこからでもアクセスできる時代だが、どの作品でVは一ノ瀬の存在を知り、「大好きな俳優」とまでなったのだろうか。それはやはり『サンクチュアリ -聖域-』(Netflix)に違いない。
今年の5月4日より世界に向けて配信がスタートしたNetflixオリジナルドラマ『サンクチュアリ -聖域-』は、一ノ瀬にとって初の主演作だ。もともと恵まれた体格の持ち主だが、長いトレーニングを経てより身体を大きなものへと改造して臨んだ同作が描くのは、角界(相撲界)でのし上がっていく男の物語。はぐれ者が力士として開眼し、角界に旋風を巻き起こしていくさまはまたたく間に話題となり、Netflixのグローバルランキングでもトップ10入り。エンタメ好きなら世界中の誰もが観ただろうから、Vも観ていて当然だろう。
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一ノ瀬が演じたのは、のちに「猿桜」として角界を沸かす存在となる青年・小瀬清。柔道の経験を武器にケンカをしてばかりの不良が、相撲部屋からスカウトされ、その型破りな言動が周囲を、やがては角界まるごとを動かしていく。いや、“型破り”というのは本来、きちんとした“型”を持っている者がそれを壊していくさまを指すものだ。相撲をはじめたばかりの頃の清は礼儀作法も知らず、知ろうともせず、ただ目の前の相手をなぎ倒そうとするだけ。そんな彼が力士としての“型”を習得していく過程も胸を熱くするものがある。
一ノ瀬といえば基礎的な身体能力が非常に高い。不良としての清と力士としての清(猿桜)の身体パフォーマンス(=アクション)はまるで別物。俳優になる前は格闘家だった彼でなければ実現できなかった部分が、視聴者には分からないレベルで多々あるのだろう。そこに、俳優としての経験が加わった。ときに少年のようにはしゃぎ、ときに獰猛なクマのように激情をほとばしらせる。一ノ瀬の感情表現は多彩で、ここに魅せられた視聴者も多いことだろう。内面的なアプローチと外面的なアプローチによって、独自の“清=猿桜”像を立ち上げているのだ。『サンクチュアリ -聖域-』はたんなる一ノ瀬の初主演作ではなく、さまざまな角度から語ることのできる代表作になったはずである。
いま、そんな一ノ瀬の勢いが止まらない。好評のうちに放送が終了した『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系)でキーマンのひとりを好演していたことが記憶に新しいし(出番が極めて限られたものでありながら爪痕を残していたことを考えると、“妙演”と呼ぶほうが正しいだろう)、春に公開された映画『ヴィレッジ』で演じていた悪漢役も素晴らしかった。同作を観て、『宮本から君へ』(2019年)で一ノ瀬が演じていた最低最悪な悪漢の残酷な振舞いがフラッシュバックしてしまったのは筆者だけではないだろう。
現在は舞台『ひげよ、さらば』に出演中であり、生の観客を前にしたパフォーマンスを披露しているところ。映画の出演情報は先に触れた『ヴィレッジ』で止まっているが、水面下で動いている企画が多数あるに違いない。日本の枠組みに収まらない規格外の俳優の動向は、いま世界中から熱い視線を集めている。
(文=折田侑駿)