アメリカを拠点に活躍している真田広之の最新作『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(公開中)。キアヌ・リーブス主演の人気シリーズ最新作で真田が演じているのは、大阪コンチネンタルホテルの支配人シマヅ。ジョンをかくまったことで主席連合と激突する、ドラマチックな役柄だ。アクションスターとして一時代を築いた真田は近年も、新幹線で激しい殺陣を演じた『ブレット・トレイン』(22)や忍者アクション『モータルコンバット』(21)など多くの作品でキレ味鋭いアクションを披露。研ぎ澄まされた肉体はもちろん、侍を思わせる立ち居振る舞いで存在感を放つ真田のキャリアを振り返ってみたい。
■世界的俳優の華々しい映画デビューは?
真田広之は1960年生まれ。5歳の時に劇団ひまわりに入り、下沢広之名義で『浪曲子守唄』(66)で映画デビューを飾る。父子愛を描いた千葉真一主演の任侠もので、真田の役は千葉演じる渡世人、文吾のひとり息子である健一。後に師となる千葉との絶妙なコンビネーションも手伝い、シリーズ3本が製作されるヒット作になった。
中学生になった真田は、千葉の主宰するJAC(ジャパン・アクション・クラブ、現ジャパンアクションエンタープライズ)に入団した。本格的にアクションを学び、『直撃!地獄拳』(74)では千葉演じる主人公の子ども時代を演じ、前宙やヌンチャクさばきを披露。「キイハンター」(68〜73)など千葉の出演ドラマにゲストで出演するようになる。その傍ら女形を源流とする日本舞踊の玉川流にも入門。速さや激しさだけでなく、美しい真田の身のこなしは玉川流で鍛えられたのだろう。なお当時の家元、玉河主扇は映画界で活躍しはじめた真田について、礼儀正しく気配りの人であると同時に自分に厳しすぎる面を持つため息抜きもしてほしいと語っており、その人格が伺える。
真田広之を名乗り活動をはじめたのは、深作欣二監督の大作時代劇『柳生一族の陰謀』(78)から。真田は柳生十兵衛(千葉)に仕える根来忍者ハヤテ役で、終盤では十兵衛に挑み躍動感ある身のこなしを見せつけた。続いて「南総里見八犬伝」をベースにした深作監督のSFアクション『宇宙からのメッセージ』(78)に、メインキャストのひとりシロー役で出演。小型宇宙船コメット・ファイヤーで突っ走る、やんちゃな宇宙の暴走少年をやんちゃに演じた。その世界観を受け継いだテレビドラマ「宇宙からのメッセージ・銀河大戦」(78)では主人公ゲン・ハヤト役で主演に抜擢。格闘アクションを盛り込んだヒーロードラマ仕立てのシリーズで、真田のはつらつとした演技も見どころだった。JACはスタントマンではなく俳優を育てるという千葉の方針のもと、アクションを含む演技全般に重きを置いていた。そのなかで13歳から鍛えられた真田は、本格デビューのこの年に俳優として一気に開花していった。
80年公開の『忍者武芸帖 百地三太夫』で映画初主演。千葉がアクション監督のほか製作協力も務めたアクション時代劇で、真田は忍者アクションに加え、カンフーやスタント、幻想的な演武も披露し、主題歌「風の伝説」もこなすなど活躍した。人間業とは思えない特訓シーン、千葉演じるラスボス不知火将監との一騎打ち、凄まじい拷問(される方)シーンと見せ場も盛りだくさん。当時はジャッキー・チェンが一大ブームを巻き起こしていたが、日本発の本格アクションスターとして真田を売り出そうという意気込みが伝わってくる。
山田風太郎原作の伝奇アクション『伊賀忍法帖』(82)では、忍者バトルのほか妖術戦を繰り広げ、深作監督のスペクタクル『里見八犬伝』(83)では『七人の侍』(54)の菊千代を思わせる野生児、犬江親兵衛をアクロバティックなアクション満載で熱演。前者では渡辺典子、後者では薬師丸ひろ子と当時の角川映画の看板女優の相手役で、若手人気スターとしての地位を確立した。時代劇のほか『吼えろ鉄拳』(81)や『燃える勇者』(81)など現代劇でも活躍。どちらも腕の立つ青年が犯罪組織に挑む若き日の千葉主演作を思わせる痛快作で、走る車に跳び蹴りをしたり、高所ダイブなどスリル満点のスタントが満載。次々と主演作が公開され、真田は日本のアクション映画を牽引する存在となっていく。
確かな演技力と端整なマスクを持つ真田は、宮本輝原作の『道頓堀川』(82)や松本清張原作の主演作『彩り河』(84)など文芸作でも活躍。なかでも俳優として飛躍するきっかけになったのが『麻雀放浪記』(84)だ。真田が演じたのは博打の世界に飛び込んだ若き主人公、坊や哲。イラストレーター和田誠の監督デビュー作である本作は賞レースを席巻し、鹿賀丈史や高品格ら技巧派たちに挟まれ熱演した真田も称賛を浴びた。
■トム・クルーズ共演の『ラスト サムライ』で世界的に知られるように
1993年にはテレビドラマ「高校教師」に主演。教え子と禁断の恋に落ちる教師を描いた本作は社会現象を巻き起こし、カンヌ国際映画祭で上映された篠田正浩監督の『写楽』(95)も高い評価を獲得。助演としてドラマを牽引したホラー『リング』(98)は国際的な人気を獲得、静かに生きる武士を演じて共感を呼んだ『たそがれ清兵衛』(02)では役所広司や豊川悦司を抑えて日本アカデミー賞主演男優賞に輝いた。コメディ、シリアスドラマ、ハードボイルド、ミステリーなど多くのジャンルで主役を演じた真田は、日本映画を代表する俳優として定着した。
アクションスター時代、真田は香港映画『龍の忍者』(82)など海外作品にも出演したが、英語圏で本格的な演技に挑戦したのは99年のこと。蜷川幸雄が演出した英国の舞台「リア王」で、唯一の日本人キャストとして道化役に抜擢された。真田を推したのはリア王役で主演を務めた英国の名優ナイジェル・ホーソーンで、95年に蜷川が演出した日本の舞台「ハムレット」での演技が決め手だったという。すでに真田は英語を話せたが、英語で演技をするために発声トレーナーと特訓を重ねており、その経験は後のハリウッド進出でも役だったと思われる。
そして2003年、トム・クルーズ主演の『ラスト サムライ』では十八番の殺陣を活かし剣豪、氏尾を熱演し世界にその名を広めた。また俳優として参加しただけでなく、日本の描写についてのアドバイスを行い作品にリアリティを与える役割も担った。本作を機に海外に主戦場を移した真田は海外では誤解のある日本像を少しでも修正したいと語っており、その後も役や描写について可能な範囲で意見やアイデアを伝えているという。
その後はダニー・ボイル監督の宇宙SF『サンシャイン 2057』(07)、ジャッキー・チェン主演の『ラッシュアワー3』(07)など次々にハリウッド大作に出演。前者はアクションを封印し地球を救うため太陽に向かう宇宙船の船長を好演。キリアン・マーフィ、ミシェル・ヨー、クリス・エヴァンスほかスターを相手に、寡黙な指揮官役で存在感を見せつけた。後者はジャッキー演じるリーの幼なじみで、チャイニーズヤクザの大物ケンジ役。白いスーツに身を包み、日本刀を手に黒服姿のジャッキーと熾烈な死闘を展開!80年代にブレイクし、ハリウッドに渡った日・香アクションスターどうしの熱きバトルは必見だ。
■サムライ・スピリットの持ち主としてハリウッドでの地位を築く
ヒュー・ジャックマン主演の『ウルヴァリン:SAMURAI』(13)では、ブラックな会社経営者で剣の達人である矢志田信玄役。鎧をまとい二刀流で合金の爪を持つウルヴァリンと激しいバトルを繰り広げた。忠臣蔵をベースにしたアクションファンタジー『47 RONIN』(13)では君主を失い浪人になった侍をまとめる大石内蔵助役。確執のあったキアヌ・リーブス演じるカイと剣を交えるシーンでは、ラフスタイルで押しまくるカイを正攻法で受け止める緊迫した殺陣を見せつけた。
久しぶりに忍者アクションを見せつけたのは『モータルコンバット』(21)で、物語の原点である江戸初期シーンに伝説の忍者ハサシ・ハンゾウ役で登場。中国の忍者軍団を相手に死闘を演じ、クライマックスにもアクションで見せ場を作った。『ブレット・トレイン』では、家族思いの元やくざエルダー役。仕込み刀を手に狭い新幹線車内で緊迫感あるバトルを見せたほか、宿敵と運命的な出会いを遂げるドラマチックな展開でクライマックスを独占。監督が『ウルヴァリン:SAMURAI』でアクションコーディネーターを手がけたデヴィッド・リーチだけに、真田を活かした見せ場作りが嬉しい。またキーパーソンを演じた作品だけでなく、ゲスト枠の『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)でもホークアイ(ローニン)との長い死闘をワンカットで演じ存在感を発揮。設定やキャラクターはそれぞれだが、画面に出てくるだけで凛とした空気が張り詰めるサムライ・スピリットの持ち主としてハリウッドでの地位を築いた。
『ジョン・ウィック:コンセクエンス』ではドニー・イェンと壮絶な死闘を演じた真田の最新作が、2023年放映予定のドラマシリーズ「Shogun(原題)」である。三浦安針をモデルに、日本に漂着した英国人を描いたアメリカのミニシリーズ「将軍 SHOGUN」(80)のリメイクで、真田の役は徳川家康をモデルにした将軍、吉井虎長。オリジナル版で三船敏郎が演じた役で、欧米人にとって真田はそのポジションということだ。この作品で真田は出演だけでなく共同プロデューサーにも名を連ねている。かねてから日本人の美学や精神を海外に伝えていきたいと口にしてきた彼にとって「Shogun」は次へのステップになりそうだ。さらなる飛躍を予感させる真田広之から、ますます目がはなせない。
文/神武団四郎
『ジョン・ウィック:コンセクエンス』でキアヌの旧友役に大抜擢!ハリウッドアクションに欠かせない真田広之、激しくて華麗な闘いの歴史
2023年10月1日