top_line

【クイズ】明治5年、暮らしに密着した「アレ」が変わって大混乱!何が変わったでしょう?

「雄呂血」―日本映画史にその名を刻む傑作無声映画が 100年の時を超え、鮮やかに、美しくよみがえる!【後編】

キネマ旬報WEB

「雄呂血」

7月に時代劇専門チャンネルCS292で、〈4Kデジタル修復版〉がTV初放送される阪東妻三郎主演、二川文太郎監督の「雄呂血(おろち)」1925年。およそ100年前に作られた日本映画史上に残る傑作が、デジタル修復によって新たな命を吹き込まれた。その修復プロジェクトを企画した時代劇専門チャンネルの荒瀬佳孝、4Kデジタル修復のコーディネートを担当したIMAGICAエンタテインメントメディアサービス(以下Imagica EMS)の水戸遼平、4Kデジタル修復を担当したImagica EMSの中村謙介、阪東妻三郎の四男で俳優の田村亮の各氏に、修復作業の実態と阪東妻三郎の魅力を語っていただく座談会の後編をお届けする。


─今回の〈4Kデジタル修復版〉と今まで上映されてきたポジ・プリントの「雄呂血」では、上映速度に大きな違いがありますね。

水戸:「雄呂血」のようなサイレント映画は、秒間16コマ、18コマ、場合によっては20コマで撮影されています。ですから秒間24コマで撮られた通常の映画とは違って、上映速度を調整しないと全体の動きが速くなってしまうんです。それで我々はデジタル修復作業をするときに、最後にスピード変換を行います。それには作品が秒間何コマで撮られたかを探る必要がありますが、「雄呂血」はそれが分かる資料文献が残っていませんから、我々は自然物の落下速度を判断基準にするんです。例えば水滴が落ちる、人が飛び降りるときの落ち方が一番自然な速度はどれか。そこから判断して秒間何コマの作品なのかを特定し、上映速度を決めるんです。
荒瀬:今回の場合は、秒間18コマでしたね。ただ見て違和感のない上映速度に調整しても、チャンバラの場面は少し速いんです。それはサイレント映画の撮影技法として、最初からわざと速く見えるように撮影しているからなんです。ですから芝居場の部分は自然に見えますが、チャンバラシーンは制作意図を尊重して少し速く見えるように仕上げています。上映速度を調整したことで、二川文太郎監督の演出が生きたショットもあります。主人公の久利富平三郎が捕り方に囲まれて、追いつめられるラストの場面。迫るいろんな捕り方たちを2コマずつ細かく入れ込んで、フラッシュバックさせる演出があるんですが、これまでのポジ・プリント版だと上映速度が速すぎて、2コマでは何が写っているのかよくわからない。それが今回は、捕り方が迫る緊迫感が演出意図通りに出ていると思うんです。
田村:その緊迫感も含めて、やはり「雄呂血」の面白さはラスト15分の大立ち回りだと思います。サイレント映画ですから、親父(阪東妻三郎)のセリフは弁士が代弁していて、芝居のセリフ回しはわからない。ですからその立ち回りに醍醐味があると思うんです。

【修復前】

広告の後にも続きます

【修復後】オリジナルネガからの修復により、プリントと比べ、細部にわたって視認できるようになった

─田村亮さんは1978年2月の“阪妻を偲ぶ”という舞台公演で、お兄様の田村正和さんとダブルキャストで「雄呂血」の主演を務めたことがあるんですね?
田村:そのとき兄の正和と、「雄呂血」のフィルムを持っていたマツダ映画社さんに伺って、舞台の参考にするために初めて作品を観たんです。『親父も、頑張ってようやりよるなあ』と兄貴と言い合っていました(笑)。舞台では親父のまねごとをちょっとやってみましたが、それだけで似るものではないですね。やはりずっと立ち回りの稽古をしていないと、あれだけの動きはできないですよ。

─主人公の久利富平三郎は、根は善人だけれども世間の度重なる誤解を受けて零落し、鬱屈した思いを募らせたことが、ラストの大立ち回りにつながっていくんですね。
田村:戦後に市川雷蔵さん主演で「大殺陣 雄呂血」(1966年)としてリメイクされているんですが、この映画では最後にものすごい数の人を斬っているんです。でもある人に『亮ちゃん、お父さんは一切、人を斬らなかった。お父さんは、ラストで捕り方に囲まれて逃げ回り、追い払うけれど、致命傷は与えない。それが最後の最後に人を斬ってしまい、ああ俺は人を斬ってしまったと思って、自ら刀を放るんだよ』と言われたことがあるんです。親父の平三郎はそこで我に返って、自分で硬直した手を刀から引きはがして、放り出す。ああいう表現はそれまでなかったですね。ただ人を斬るのではなく、平三郎の斬ってしまったことに対する後悔の念を入れ込んだ。そこに雷蔵さん版との違いがありましたね。

─阪東妻三郎さんは仕事に対しては厳しい方だったと言われますが、覚えていることはありますか?
田村:これは母親から聞きましたが、晩年にセリフが入りにくくなると、セリフを全部巻紙に書き出しましてね。家の鴨居の所にそれを貼っておいて、家中を歩きながら見てセリフを覚えていたそうです。僕もその巻紙を見た覚えがありますよ。

  • 1
  • 2
 
   

ランキング(映画)

ジャンル