
メインキャストとあらすじのみが公開され、詳細がほとんど分からないまま放送がスタートしたTBS日曜劇場『VIVANT』。しかし、次第にその内容や展開が話題となり、最終回の視聴率は19.6%(ビデオリサーチ社調べ)という高視聴率を記録。大人気のドラマとなった。9月上旬には第1話から第5話までのシナリオを元にしたノベライズ本・日曜劇場『VIVANT』(上)(以下、上巻)が発売。そしてこの度、第6話から最終話・第10話までのノベライズ本・日曜劇場『VIVANT』(下)(以下、下巻)が発売された。
参考:『VIVANT』マニアは必読! 小説版で”伏線”と”考察”の解像度が爆上がり
■次々と切り替わる場面と目線 スピード感溢れる心躍る展開
上巻は伏線やドラマチックな展開は少なく、登場人物と彼らの行動が淡々と描かれており、「ミステリ小説」と思って読み始めると正直、肩透かしを食らった気分になる。だが、下巻はドラマで乃木(堺雅人)が丸菱商事の社員としてではなく、政府非公認の自衛隊諜報組織・別班の一員として活動し始めるところからスタート。もちろん、新たな登場人物もいるが、主要人物は上巻で登場済み。つまり役者は揃っている状態だ。これが下巻ではとても活きてくる。
たとえば、第7話で、乃木と野崎(阿部寛)はそれぞれの場所で、テロ組織・「テント」とそのリーダーであるノゴーン・ベキ(役所広司)、またの名を乃木卓(林遣都)の正体について明らかにしていく。別班の会議の様子かと思いきや、次の文では場面が公安の会議に切り替わっており、展開にスピード感がある。ただ、どちらも知りたいことは同じ。アプローチ方法が違っても、やがて道が交わり、乃木と野崎が真実に近づいていく様は、とてもスリリングだった。読み終わってみると上巻は、おもしろさも兼ね備えた壮大な“伏線編”で、下巻はすべての“解決編”のように感じられる。
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■セリフにはない心の動きも読み取れる 細かい心理描写
後半は父に再会した乃木や、ベキから息子のように可愛がられていたのに、突如、本当の息子が目の前に現れたノコル(二宮和也)の“家族”を巡る気持ちの変化も大きな見どころだった。ドラマでは、特にノコルが乃木につらく当たったり、拗ねた表情を見せたりすることが多かったが、その気持ちを素直に言葉にすることはなかった。しかし、下巻では細かい心理描写によって、ノコルの心の動きがはっきりと記されている。これにより、登場人物の行動をより深く理解することができる。また、ドラマを見ていれば改めて、言葉にせずとも演技で“魅せる”ことができる俳優の素晴らしさを実感することだろう。
■俳優陣のアドリブ? ドラマと小説での違い
上巻では、ドラマで映像にはならなかった細かな情報が記されていることがあった。下巻ではその逆で、ドラマでは印象的だった場面が実は、小説には描かれていないということがあった。第6話で、野崎は上司である公安部長の佐野(坂東彌十郎)に、乃木の父・卓が「テント」のリーダーと思われ、組織のマークと乃木家の家紋が類似していることをもんじゃ焼き屋で報告する。野崎の報告と見せられた卓の写真に何かを感じ取った佐野は、食事をせずに席を立った。その後、ドラマでは野崎が不敵に笑った後、熱々のもんじゃ焼きを食べようとするのだが、下巻には「佐野のその反応に、野崎は思わず笑みを浮かべた」とだけ記されているのである。ここから察するに、もしかしたらもんじゃを食べたのは野崎を演じる阿部のアドリブかもしれない。ドラマと小説でこんな些細な違いを見つけるのも楽しみのひとつである。
ドラマは最終回を迎えたが、最後の場面で、別班の緊急招集の知らせである赤の饅頭が小さな祠に置いてあることや未回収の伏線があることが指摘され、続編が熱望されている。もしそれが実現したとしても、私たちがテレビの前で楽しめるようになるのはまだ先のことだろう。それまで、ドラマとこのノベライズ本で何度もワクワクドキドキし、時には分析と考察をしながら待っていたいと思う。