
アメリカでは2024年の大統領選まであと1年に迫っている。民主党ではバイデン大統領が再出馬を表明しており、高齢を不安視する声はあるが、今のところは健康問題もなく、国内外で大統領としての職務をこなし国内経済も予測より好調が続いているためか、党内から再出馬に反対する声はほとんど出て来ていない。
一方、共和党ではトランプ前大統領が最有力候補として独走を続けている。しかしここに来て、2021年1月6日の米連邦議会襲撃に関与したとして、トランプ氏の大統領選出馬資格はく奪を試みる努力が民主・共和両党で盛んになってきている。
◆共和党候補者「トランプ氏は大統領の資格なし」
NBCニュースによる最新の世論調査では、トランプ氏は9月現在59%の支持を獲得しており、2番手のフロリダ州知事のロン・デサンティス氏の16%を40ポイント以上リード。トランプ氏は4つの刑事事件で起訴され、91件の犯罪容疑がかけられているが、起訴後に支持率が上昇している。
しかしトランプ氏に関しては、2021年1月6日の米国議会襲撃事件に関与したとして将来的な大統領選出馬資格を疑問視する声が以前から民主・共和両党から上がっていた。今年1月、共和党大統領選予備選に出馬しているエイサ・ハッチンソン前アーカンソー州知事はABCニュースのインタビューで、「トランプ氏は1月6日(議会襲撃事件)のせいで将来的に大統領になる資格がない」と発言。すでに共和党内でもその議論は交わされていたかもしれないが、公的にそれを明確に指摘した政治家はハッチンソン氏が初めてだろう。
そして今年8月にはアトランティック誌に、著名な憲法学者でバラク・オバマ元大統領の恩師でもあるハーバード大学教授ローレンス・トライブ氏と、元米連邦高等裁判所判事で共和党政治家に強い影響力を持ち、同じく憲法学者でもあるマイケル・ルティグ氏が「合衆国憲法はトランプが再び大統領職に就くことを禁じている」と題された記事を共同執筆した。同記事で2人は、1868年に制定された憲法修正第14条3項に従い、合衆国に対する反乱に関与したトランプ氏には「再び大統領職に就く資格がない」と主張している。
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◆ニューメキシコ州では公職者を追放
合衆国憲法修正第14条3項(アメリカンセンター訳)には、「連邦議会の議員、合衆国の公務員、州議会の議員、または州の執行部もしくは司法部の官職にある者として、合衆国憲法を支持する旨の宣誓をしながら、その後合衆国に対する暴動または反乱に加わり、または合衆国の敵に援助もしくは便宜を与えた者は、連邦議会の上院および下院の議員、大統領および副大統領の選挙人、文官、武官を問わず合衆国または各州の官職に就くことはできない。但し、連邦議会は、各々の院の3分の2の投票によって、かかる資格障害を除去することができる」と記載されている。しかしこの資格はく奪がどのように実行されるかについては不明確である。
一方、州内で行われるすべての選挙を統括する各州の州務長官からもトランプ氏の出馬資格を疑問視する声が上がっている。ABCニュースによると、ミシガン州のアシュリー・ベンソン州務長官は「ペンシルバニア州、ジョージア州、ネバダ州、ニューハンプシャー州、メイン州の州務長官と、1年以上前からトランプ氏の大統領選出馬に対する法的挑戦への準備について会話を始めていた」と話している。ミシガン州ではすでにトランプ氏の出馬資格はく奪を求める裁判が起こっている。
またNBCニュースによると、コロラド州でも9月に有権者6人が同じく合衆国憲法に違反しているとして、2024年の大統領選において投票用紙からトランプ氏の名前を削除することを要求して提訴。また前出のABCニュース記事によると、今後はニューハンプシャー州でも前トランプ支持者が同様の提訴を予定しており、今後もほかの多くの州で同様の裁判が起こされる可能性が高い。
CBSニュースによると、実際にニューメキシコ州では昨年、裁判で合衆国憲法修正第14条3項が適用され、1月6日の議会襲撃に参加し、逮捕された人物が官職から追放されるケースがあった。もしこのケースが判例として使われる場合、トランプ氏の場合も今後首都ワシントンで行われる1月6日事件関与の裁判で有罪判決が下りて同氏の関与が法的に明確化されれば、大統領選出馬資格がはく奪される可能性がなきにしもあらずだろう。