
国連総会の一般討論演説で、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアによる軍事侵攻以降、初めて対面で演説を行った。ゼレンスキー氏は、ロシアは世界を核戦争の恐怖に陥れ、世界の食糧供給を脅かしていると痛烈に批判し、ロシアを打ち負かすため世界は団結する必要があると各国に支援を呼びかけた。しかし、演説時、会場には多くの空席が目立ち、対ロシアの団結が極めて難しいことが浮き彫りとなった。今回のゼレンスキー演説からは何が見えたのだろうか。
◆欧米諸国内でも見える「ウクライナ疲れ」
今回の国連総会では、アメリカのバイデン大統領や岸田首相は演説を行ったものの、フランスのマクロン大統領やイギリスのスナク首相は内政問題などを優先して欠席した。主要7ヶ国(G7)諸国はウクライナ支援で一致しているものの、各国ではいつまでウクライナを支援するのかと「ウクライナ疲れ」が見えないわけではない。ウクライナへの支援継続ではアメリカ国民の間でも疑念が広がっており、中国との戦略的競争を最重要課題に位置付けるバイデン政権としても難しい舵取りを余儀なくされている。
また、ゼレンスキー氏は演説の中で、ポーランドなどがウクライナ産穀物の輸入を規制していることを批判したが、ポーランドのモラウィエツキ首相はそれに反発し、ウクライナへの武器供与を停止すると言及した。ポーランドは侵攻後一貫してウクライナ支援に回り、対ロシアで強硬姿勢を鮮明にしてきたが、今後欧米内での対ロ結束に乱れが生じてくる恐れもある。ロシアのプーチン大統領はこういったウクライナ疲れにより、欧米内の対ロ結束の乱れが深刻化するタイミングを待っているようにも映る。
◆価値や理念ではなく実利を重視する途上国
国連加盟国の大半は途上国であるが、ウクライナ侵攻からすでに1年半が経過するなか、ロシアへの制裁を実施しているのは日本を含め国連加盟国193ヶ国中40ヶ国ほどにとどまり、そのほぼすべてが欧米諸国だ。要は、それ以外の諸国は侵攻を非難する決議では賛成に回るものの、エネルギー分野を中心とするロシアとの経済関係から、それ以上のことは何もしていない。
中国やインドは侵攻後むしろロシアとの経済的結び付きを強化しており、ウクライナとも一定の距離を置いている。また、東南アジア諸国連合(ASEAN)やアフリカ、中南米の途上国の多くは、ウクライナ戦争や米中対立など大国間の問題に巻き込まれたくないというのが本音で、戦争を終結させるため侵略されているウクライナにも停戦を求める国もある。
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実際、ゼレンスキー氏の演説ではこういった途上国の欠席も目立った。途上国の間では、「なぜウクライナ問題だけがこれほど注目されるのか」「我々の国が内戦やテロで苦しんでいた時に世界は無関心だった」と不満や憤りを持つ国も少なくない。多くの途上国は価値や理念ではなく実利を重視し、国益を最優先に外交を展開している。今回のゼレンスキー氏の演説からは、分断が一層進む世界が浮き彫りとなったと言えよう。