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連載『lit!』第68回:King Gnu、マカロニえんぴつ、緑黄色社会……今年の夏に存在感を示したロックバンドの新作5選

Real Sound

King Gnu『SPECIALZ』

 週替わり形式で様々なジャンルの作品をレコメンドしていく連載「lit!」。この記事では、8月以降にリリースされた国内のロック作品を5つ紹介していく。

 今回は、この夏に大躍進を果たした新世代バンドの新作として、King Gnu「SPECIALZ」、マカロニえんぴつ『大人の涙』、緑黄色社会『サマータイムシンデレラ』、ヤングスキニー「愛の乾燥機」、I’s『永遠衝動』をセレクトした。

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 新世代バンドのトップランナーの一組とも言えるKing Gnuは初夏に初のスタジアムツアーを見事に完遂し、マカロニえんぴつ、緑黄色社会、ヤングスキニーは全国各地の夏フェスでその存在感を高らかに示した。また、あのを中心として結成されたI’sがさまざまなイベントやフェスで頭角を現してきたのも印象深い。そうした大躍進の季節にリリースされた各バンドの新作は、さらなる進化を堂々と見せつけてくれるパワフルな楽曲や、今後の新たな代表曲となり得る渾身の楽曲ばかり。この記事が、日本のロックシーンの今を知るうえでのひとつの参考になったら嬉しい。

■King Gnu「SPECIALZ」
 現在放送中のアニメ『呪術廻戦』第2期「渋谷事変」(MBS/TBS系)のOPテーマとして書き下ろされた新曲。King Gnuと『呪術廻戦』のタッグは、2021年の年末に公開された『劇場版 呪術廻戦 0』の主題歌となった「一途」とEDテーマ「逆夢」以来であり、両者のあいだでさらなるケミストリーが起きるのではないかと心待ちにしていた人は多いはず。今回も徹底してアニメの物語に尽くすような非の打ち所のない曲が生まれ、自分たちのオリジナリティを一切薄めることなく作品世界に新たな奥行きと深みを与える常田大希のソングライティングとバンドによるアレンジの手腕には、あらためて驚かされる。

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 まず耳を引くのが、インダストリアルな響きを放つドープなトラックである。「渋谷事変」の混沌とした展開と激しく呼応するサウンドデザインに仕上がっていて、このテイストは、どこかmillennium paradeの楽曲とも通じるものがあるようにも思える。今のKing Gnuは、一度確立した自分たちのバンドとしての表現フォーマットを解体したうえで、次の次元へアップデートしようと試みているかのよう。同曲はトラックのループを基軸とした作りでありながらも、決してミニマルになることなく、バンドとしての気迫と躍動感が全編に伝っている。まさに新境地開拓の一曲だ。昨年の東京ドーム公演、今年のスタジアムツアーを経て、日本のバンドの王座に至った彼らが、こうした野心的な挑戦を絶え間なく続けていく姿には心の底からわくわくさせられるし、ついにリリースが発表された待望の新作アルバム『THE GREATEST UNKNOWN』への期待はますます高まるばかりだ。

■マカロニえんぴつ『大人の涙』
 あらためて説明するまでもないかもしれないが、近年のマカロニえんぴつの大躍進は本当に目覚ましいものである。彼らはメジャーシーンのど真ん中に堂々と立ちながら、CMや映画、ドラマ、アニメをはじめとした数々のタイアップを真正面から引き受け、並行して、全国のライブハウスやアリーナといった大小さまざまな会場から各地のフェスを片っ端からまわり、幅広いリスナーからの支持と信頼を積み重ね続けている。それだけでもすごいことではあるが、何よりも驚かされるのは、彼らはそうした目まぐるしい日々のなかにおいても迷うことなく、バンドのアイデンティティをシャープに磨き込み続けている点である。8月にリリースされたメジャー2作目のアルバム『大人の涙』を聴くと、揺るがぬ軸を持ちながらも、一歩ずつ進化を重ねてきた彼らの丁寧にしてパワフルな歩みがはっきりと伝わってくる。すべての楽曲に、ユニコーンをはじめとした多彩なルーツが色濃く反映されていて、また、それぞれのメンバーが誇る高度なスキルを遊び心とユーモアを掛け合わせながら存分に炸裂させた楽曲もある。

 一方で、マカロニえんぴつ独自のロックサウンドをここであらためて確立しようとする気概も随所に感じられる。特に、バンドの代表曲ともなった「なんでもないよ、」での斬新なサウンド展開を鮮やかにアップデートした「悲しみはバスに乗って」は、彼らの尽きることなき音楽的探究心の美しい結実だ。バンド結成11年目、音楽へのピュアな愛と好奇心、自分たちのブレないスタンスを大切にしながら、しっかりと“大人”なロックバンドへと成長した彼らは、これからも変わらずに輝かしい青春の季節を謳歌し続けていくはずだ。

■緑黄色社会『サマータイムシンデレラ』
 この夏に届けられた新曲「サマータイムシンデレラ」は、ドラマ『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)のために書き下ろされた主題歌。また、カップリング曲の「マジックアワー」は、同ドラマの挿入歌である。9月8日公開の記事で、この2曲とドラマの物語の親和性については詳しく書いているが(※1)、ドラマを最終回まで観終えた今思うのは、ひと夏の恋愛群像劇である『真夏のシンデレラ』の展開をドラマチックに彩りながら、登場人物と視聴者の心に優しく寄り添うソングライティングのすごさだ。各話の終盤、胸を締めつけるようなシーンに重なる「マジックアワー」は、視聴者が胸に抱く切なさを増幅させる役割を果たしていたし、エンディングを飾る「サマータイムシンデレラ」は、その先の展開への期待を否応もなく高めてくれた。ドラマ自体が往年のトレンディドラマを彷彿とさせる作風であり、その主題歌と挿入歌には王道としてのテイストを求められたはずだが、緑黄色社会は見事にドラマの制作陣と視聴者の期待に応えてみせた。フジテレビの月9枠で王道のラブストーリーが放送されたのは7年ぶりであり、結果論にはなるが、その主題歌と挿入歌を堂々と担うことができるのは、まさに今、ポップスの王道を闊歩しながら令和の音楽シーンを力強く牽引する緑黄色社会しかいなかったのだと思う。ドラマの放送は終わったが、この2曲は緑黄色社会のなかでも強度な普遍性を誇っていて、今後の夏の定番曲として末永く愛され続けていくナンバーになる予感がする。

■ヤングスキニー「愛の乾燥機」
 近年の日本のバンドシーンを見渡すと、恋愛をテーマにした楽曲を歌う新世代のバンドが目立つと感じる。それは、今の10代、20代の表現者にとって、またその世代のリスナーにとって、恋愛が切実なテーマになっていることの表れなのかもしれない。ひとりでも幸せに生きていける時代においてもなお、他者と共に人生を生きることの意義は不変であり、人との繋がりが失われていたコロナ禍が明けていくなかで、今、多くの人がその意義について再確認し始めているのだろう。そして、新しいラブソングが増え続けている現在のシーンにおいて大きな存在感を放っているのが、ヤングスキニーである。

 かやゆー(Vo/Gt)が綴るラブソングに滲む切実さは卓越していて、今回の新曲「愛の乾燥機」は、その真骨頂のような渾身の一曲である。何度も繰り返される〈ゆらゆらゆらゆらゆらゆら揺れている〉というサビのフレーズ。その後に続く〈無理して気持ちまで揺らしている〉〈揺らがない気持ちも揺れている〉といったアンビバレントな情感を表した一節が深く胸を締めつける。誰かと生活を共にするのは、楽しいだけではない、むしろ思い通りにならないことばかりだし、辛いこと、悲しいこともたくさんある。それでもなぜ多くの人々は、誰かに恋をして、愛してしまうのだろうか。その極めて普遍的なテーマを、ヤングスキニーは愚直に、そして懸命に追求し続ける。9月27日にリリースされるメジャー初のEP『どんなことにでも幸せを感じることができたなら』では、彼らが提示する新たな答えに触れることができるはずだ。

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