
「イケメンと音楽」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、そもそもの話、藤井風の何が、どうすごいのか、いくつかの特徴を踏まえながら解説する。
藤井風ってなんなん!?
「藤井風って何がすごいの?」。まずはこの問いから始めたい。これにベストアンサーを与えてくれるのは、2019年11月にリリースされた野心的なデビューシングル「何なんw」だろう。
さぁ、この独特なタイトルのシングルで藤井風を初めて聴いたリスナーはどう思うだろう。舌打ちが紛れ込むイントロを聴いて、思わず「なんなん?」となるか。あるいは、サビの「なんなん」コーラスと藤井の歌唱に自然と身体が揺れるだろうか。
いずれにしろ、これは単なるデビューシングルではないということ。藤井にとって名刺代わりのとりあえずの一曲でもない。この豊かな音楽性、そのグルーヴ感にいてもたってもいられなくなる。思わず、藤井風ってなんなん!?
音楽を奏でる喜び、聴く喜び
特別美声というわけでもない。なのにどんなシンガーよりもしっとりつややかに歌唱は響く。歌唱を支える持ち前のピアノ演奏は、前奏も伴奏も独奏も音楽を奏でる喜びに満ちている。メロディから音がこぼれてきそうな気配すら。もちろんこぼれない。リスナーをそう錯覚させながら、たちまちにして音楽を聴く喜びに目覚めさせる。気づけば、藤井風ワールドのグルーヴィーな渦の中でぐるぐる回っている。
デビュー前からYouTubeを主たるプラットフォームとして、古今東西のカバー曲をアップしてきた彼ならではの技芸も魅力あふれる。例えば2021年リリースのカバーアルバム『HELP EVER HURT COVER』に収録されている「Beat It」を聴いてみる。
マイケル・ジャクソンが1982年にリリースし世界的メガヒットとなった『スリラー』からシングルカットされたナンバーだが、これが藤井の強い打鍵のリズム感によって、ものの見事に独自の表現に落とし込んでいる。恐るべき才能を感じた。
歴代のクセ強元祖に連なる系譜
そしてデビューまでは出身である岡山弁を駆使した歌い方が特徴的だった。一言で言えば“クセ強”なのだが、そのクセ自体が藤井特有のグルーヴを生み出している。
日本最大のクセ強シンガー桑田佳祐だけでなく、「東京ブギウギ」(1948年リリース)など戦後日本を代表する笠置シズ子など、恐ろしくうねるような節回しでグワッとリスナーを持っていってしまう歴代のクセ強元祖たちに連なる系譜を認めることもできる。
岡山の公立校トップレベルで、英語教育に定評がある岡山城東高校で学んだ英語力によって、数々の洋楽カバーを自国言語のように扱えるのも稀有な表現力となっている。
洋楽カバーでは、マイケル・ジャクソンだけでなく、テイラー・スウィフトの「Look What You Made Me Do」(2017年リリース)カバーも圧巻の聴き応えだ。
誰もがうらやむ天性の人
音楽性だけではない。藤井がグッドルッキングガイであることも人気を支える要因のひとつ。オダギリジョーや若手人気俳優の鈴鹿央士など、岡山県はイケメン出身者が多い気がする。誤解を恐れずに言えば、あの男前フェイスだからこそ、その歌声もより美しく聴こえる。シンガーにとっては容姿などの外見も当然武器になる。ただし、見た目がいいだけではもちろんダメ。
演奏のセンス、圧倒的なリズム感、卓越した作曲能力など、音楽家としての才能に恵まれすぎている藤井がその上、見た目もいいというだけの話。もはや嫉妬混じりに誰もがうらやむ天性の人なのだ。
日本にとどまらない規格外の存在

軽快なメロディと藤井のさりげないビューティーが一致した奇跡的な映像だった。一方でロケ地のインドからその強い信仰心が話題になったサイババからの影響など、2023年初めの炎上が記憶に新しい。
サイババの教えを自曲に込めていたことがステルス布教だと問題視されたのだ。う~ん、でも別に筆者はそれが明白なステルス布教だとは思わないのだが、要するに藤井風は、日本にとどまらない規格外の存在だということではないだろうか。
実際、彼の華々しいデビューは、1998年に「Automatic/time will tell」でデビューし、空前の大ヒットを記録した宇多田ヒカルにたとえられることがある。それほど稀有な逸材であること、これだけは紛れもない真実なのだ。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu