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カーメロ、ガソル、スコラ…W杯アンバサダーによるバスケ界発展への提言「重要なのは、自分たちに適したプログラムを見極めること」<DUNKSHOOT>

THE DIGEST

 8月25日から9月10日まで、フィリピンのマニラ、インドネシアのジャカルタ、そして日本の沖縄を舞台に開催されたFIBAバスケットボールワールドカップは、ドイツの初優勝で閉幕。決勝に進んだセルビアと合わせて、表彰台の上位2つを欧州チームが独占し、北米の意地を保ったカナダが初のメダル獲得という結果に終わった。

 アメリカは前回の2019年大会に続いてメダルを逃し、前回銅メダルのフランスは1次ラウンドで脱落、さらにディフェンディングチャンピオンのスペインも8強入りを逃すという波乱もあった。

 一方で初出場の南スーダンがアフリカ大陸で首位に立ち、初のオリンピック出場権を獲得する快挙。欧州勢でも、初出場のラトビアが準決勝進出まであと一歩に迫るなど、世界のバスケットボールの勢力図は変動を見せている。

 その裏で今回も、前大会同様、上位半分の16位以内にアジアとアフリカからの代表国は食い込むことができなかった。

 決勝戦の前日、マニラ市内のホテルで開催されたFIBA主催のトークショーに出席した今大会のグローバルアンバサダー、ルイス・スコラ、パウ・ガソル、カーメロ・アンソニーのレジェンド3人が、これからアジアやアフリカといった国々が上位進出を計るために必要なことはなんなのか、国際舞台で成功を収めた自身の体験をもとに、三者三様の考えを語った。
  元アメリカ代表で、オリンピックで3度の金メダルを獲得したカーメロは言う。

「このワールドカップを見ている人たちは、このレベルに到達するために何をすればいいのかきっと考えていると思う。いろいろな国の人たちが興奮していると思うよ。『自分たちも、出場して金メダルを獲得できるかもしれない』というチャンスを目の当たりにしているんだからね。以前はそのような見方はありえなかったけれど、今ではそういったことが信じられるようになった。なぜなら、現実的にそれが起こっているからだ。

(準決勝でアメリカを撃破した)ドイツが昨夜成し遂げたことも素晴らしかった。彼らは、誰だって試合に出て渡り合えるんだということを知っている。プレーして、一体となって、仲間たちを鼓舞し合って、国や、人々や、家族や友人を活気づける。つまりそれはコミュニケーションすることでもある。

 みんなに知ってほしいのは、これがいかに素晴らしい機会かということ。なぜならそれは実現可能なことだから。試合に挑んで金メダルを獲る。良いプレーをすれば、それは実現できるんだ」 カーメロはどの国にも頂点を目指す資格があることを語ったうえで、「ただ、このことも知っていてほしい」と次のように続ける。

「とかく俺たちは勝ちたいと思うものだ。しかし試合に臨み、自分のすべてを出し切り、より大きなものを思い描いて挑戦する時、それは多くの場合、勝つことよりも大きなことだったりする。自分の家やそれぞれの場所に帰って親しい人たちに囲まれた時、彼らは称賛してくれることだろう。たとえ試合に負けても、引き分けても、彼らは君がコートで出し切ったこと、努力を尽くしたことを評価してくれるんだ。

 1、2年後、また同じようにこうして集う機会があった時、僕らはいったいどの国の話をしているだろうね。そうやって世界全体でバスケットボールが成長していくことにワクワクするよ。まさに頭角を表わして、自分たちに手応えを感じ始めている国もいる。たとえば南スーダン。彼らは次のオリンピックに出場することを喜んでいる。自分たちが一丸となって何ができるか、そしてそのことで、いかにコミュニティや国、国民に喜びを与えられるかを知ることができたからだ」
  2006年のW杯(当時は世界選手権)で金メダル、ユーロバスケットでも3度の優勝を経験した元スペイン代表のガソルも南スーダン、日本、そしてドイツを例に挙げて語った。

「今回のワールドカップでは、南スーダンはオリンピックの出場権を獲得し、日本は初めてヨーロッパのチームを破るという、歴史的な出来事があった。しかも日本はフィンランドのような、非常にタフで才能豊かな新進気鋭のチームを倒した。本当にいろいろなことが起きている。でも、それには時間がかかる。一朝一夕には何も起こらないよね?何事にもプロセスがあるんだ。

 たとえばドイツの決勝進出は、過去20年間歩んできたプロセスの成果だ。ダーク(ノビツキー)が祖国のバスケットボールのためにいかに尽力してきたかはみんなも知っての通りだ。そして今回のこの成果は、ダークがチームメイトとともに長い年月をかけて成し遂げたレガシーの一部だと思う。

 2017年のユーロバスケットで、ドイツは準々決勝に進出したけれど、そこで私たち(スペイン)と対戦して敗れた。ホームで戦った昨年のユーロバスケットでは、準決勝で敗れたけれど、その後3位決定戦に勝って銅メダルに輝いた。そして今、彼らはそれらのトーナメントをともに戦い抜き、挑戦を続けてきたメンバーでさらに大きな一歩を踏み出した。だから、大事なのはプロセスなんだ。いかに成長を目指して、一歩一歩、着実に歩みを進めていけるかということなんだよ」 2004年のアテネ五輪金メダル、ワールドカップ歴代得点ランキング2位(716得点)の元アルゼンチン代表スコラは、「2人とも素晴らしい指摘だと思う」と賛同したうえで、各国独自のスタイルを確立させる重要性を説く。

「ただ、グローバル化が必ずしも、『すべての国が勝てるようになり、世界中のすべての地域から等しくチームが集まる』ということを意味するわけではないことも付け加えておきたい。

 誰もが、そしてどこの国でも、この競技を成長させようと取り組んでいる。しかしそれでも、ほかより上手くいくチームというのが必ずある。そのカギは何かというと、自分たち自身のプログラムを発展させる、ということだ。才能がある選手も必要だし、入念な準備も必要だ。

 グローバル化は、全員が勝てるサークルが作られていく、という意味ではない。では何かというと、誰もがバスケットボールを発展させ、プロモートし、観客や、この競技に取り組む子どもたちの観点からも成長することができるチャンスを平等に得られるということだ。

 すべての国、すべての大陸が同じように勝てるというわけではない。それぞれの国が、それぞれのプログラムを開発する必要がある。ドイツはその好例だ。彼らはそうしたプログラムを20年かけて推し進めてきた結果、その成果を手にすることができている。セルビアもそうだし、ラトビアもそうだ。

 リトアニアは人口300万人足らずの小国だが、彼らは常にバスケ界の最前線にいる。NBAやユーロリーグでプレーする選手がいて、オリンピックやワールドカップ、ヨーロッパ選手権でメダルを獲得している。それではなぜ、彼らは常にその位置にいられるのか?スペインも同様だ。この大会では良い結果は残せなかったが、これまでの過程は素晴らしい。彼らはこれから先も素晴らしい躍進を続けるだろう。

 世界的な成長を考える時、まず重要なのは、自分たちに適した個々のプログラムは何なのかを見極めることだ。それぞれにそれぞれの成功の方法がある。そして繰り返しになるが、みんなが勝てるようになるわけではないが、みんなが等しく機会を得られるような状況を作ることに、我々は尽力していく」
 「自分たちにもできるに違いない」というポジティブな気持ちが前進につながると語ったカーメロ、「プロセスが重要」だと指摘したガソル、そして、与えられた機会の中で自分たちに合った手法を探し当て、それを継続していくことがカギだと語ったスコラ。

 前回大会では0勝5敗で31位に終わった日本は、トム・ホーバスHCの下で確固としたスタイルを構築し、今大会3勝2敗、19位と大きく躍進した。しかもガソルのコメントにもあったように欧州で勢いのあるフィンランドを筆頭に、アメリカ大陸のベネズエラ、アフリカのカーポベルデと、異なる大陸の対戦相手を破ったことも大きな経験となったことだろう。

 ノビツキー時代を経て新たなスタイルを確立したドイツ代表は、前回大会の18位から一気に頂点へと駆け上がった。

 自分たちらしいやり方で研鑽を重ねていった先には、さらに大きな成果が待っている。2027年のカタールW杯では、どんな未来が待っているだろうか。

文●小川由紀子
 
   

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