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浜辺美波演じる寿恵子を“犠牲者”にしなかった『らんまん』 朝ドラの妻たちとの違いは?

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『らんまん』写真提供=NHK

「だったら、あんたも一緒に駆け上がってみなさいよ」

参考:『らんまん』田邊彰久は朝ドラ史に残る人物に 要潤が演じきった“もうひとりの主人公”

 このひとことで世界が変わった。NHK連続テレビ小説『らんまん』第22週「オーギョーチ」で寿恵子(浜辺美波)が叔母のみえ(宮澤エマ)より投げかけられた言葉である。

 残すところあと2週となった『らんまん』だが、本当に多くの物語を私たちに届けてくれた。なかでも注目したいのが本作における“妻”の描き方だ。ここでは朝ドラ過去作にも触れながら『らんまん』における万太郎(神木隆之介)と妻・寿恵子が体現する夫婦像について考えてみたい。

 『らんまん』寿恵子のキャラクターで非常に新しいと感じたのが、自分も活躍しながら夫の仕事をサポートする立ち位置。これまでの朝ドラでも多くの妻たちが夢を追うパートナーを支えてきたが、その多くは「あなたについていきます型」か、「わたしのキャリア捨てます型」だった。

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 「あなたについていきます型」の代表的な例が安藤サクラ主演の『まんぷく』(2018年度後期/作・福田靖)と松下奈緒がヒロインを務めた『ゲゲゲの女房』(2010年度前期/作・山本むつみ)。安藤演じる福子も松下が担う布美枝も日本初の即席ラーメンを作ろうとする夫や漫画家としての成功を夢見る配偶者を献身的に支え、裏方として徹底的にサポートを続けた。

 かわって「私のキャリア捨てます型」からピックアップしたいのが『ちりとてちん』(2007年度後期/作・藤本有紀)と『エール』(2020年度前期/原案・林宏司)だ。『ちりとてちん』は落語、『エール』は音楽がドラマの主軸であったが、『ちりとてちん』の喜代美(貫地谷しほり)は落語家やタレントとして先に成功を収めていたにもかかわらず、同じく落語家の夫・徒然亭草々(青木崇高)を支えるため妊娠を機に引退。『エール』の音(二階堂ふみ)も作曲家の裕一(窪田正孝)との間に子を宿したことをきっかけに、一度はオペラ歌手として舞台に立つ夢を諦める。

 妻が夫を無条件に支えることが主流になりがちな朝ドラの世界で、最も大きな革命を起こしてくれたのが『あさが来た』(2015年度後期/作・大森美香)だろう。江戸末期から明治にかけてさまざまな事業を成功させ、のちに女子高等教育の祖を築いたあさ(波瑠)。その夫・新次郎(玉木宏)は妻の仕事や夢を一切否定も邪魔もせず、100パーセントその活動を支えきるという展開で、既存の朝ドラの逆バージョンだった。

 では『らんまん』主人公の妻・寿恵子はどうか。彼女の在り方で画期的だと感じるのは自分の足で稼いだ情報と卓越したコミュニケーション能力を活かして商売の世界で成功し、そこで得た縁を夫・万太郎に繋いだ点だ。さらに当時は田舎扱いだった渋谷の土地を購入し、待合茶屋の経営をスタートさせたのは複数の子どもの出産後。つまり彼女は中年とされる年齢に達してから経済的に自立し、夫の夢を金銭的にもチャンスの面でもバックアップしたのである。まさに、家計を支えるため仲居として働く寿恵子に商売の先輩でもある叔母・みえが放った「だったら、あんたも一緒に駆け上がってみなさいよ」の言葉を自力で実現。夫の後をただ着いていくのでも、同じ分野でサポートするのでもなく、彼女は自分の力で駆け上がり、そこで得た成功をパートナーと共有した。その生きざまは凛々しく強い。

 もし、寿恵子が万太郎をただ献身的に支え、自らの人生を犠牲にして彼の植物学者としての仕事をサポートする受け身の存在であったなら、この夫婦を真っすぐ見ることはできなかったかもしれない。が、彼女の行動の芯にあるのは「植物学者・槙野万太郎の研究を世に出すためならやれることはなんでもやる!」との強い意志。破天荒な天才を支える妻が圧倒的な光に焼き殺される犠牲者として描かれていないのは本作『らんまん』魅力のひとつである。

 ご存じの通り『らんまん』にはモデルが存在し、主人公の槙野万太郎と寿恵子のキャラクターも実在した人物がベースとなっている。寿恵子のモデル・壽衛にも商売の才覚があったらしく、渋谷(現在の円山町)に待合茶屋「いまむら」を出し、店は陸軍の顧客も抱えて繁盛したそう。が、景気の悪化に伴い壽衛は店を売却し、夫婦はある土地に居を移す。その後、若い頃からの無理がたたったのか、壽衛は身体を壊して55歳の若さでこの世を去った。このときの牧野家はまた経済的にも困窮しており、病気を治療するための長期の入院もままならなかったそうだ。

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