
すれ違い続けるふたりの関係が歪んでいく
9話で有紗が配送の業務に取り組むもミスを連発したことをキッカケに、岡村がそのフォローに奔走する。岡村は同僚や取引先に頭を下げ続け、心身ともに疲弊してしまう。一方、有紗も自分の思う“普通”になるために新しい業務に熱心に取り組み始めた矢先、上手くいかなかったことで「できないことが多すぎて苦しい」と絶望感を覚える。精神的に追い詰められ、岡村に話を聞いてほしいと考える有紗。しかし、岡村のクタクタな様子を見て、気を使って話すに話せない。ふたりで過ごす時間も減っていき、徐々にふたりの関係性が歪みだす。ついに有紗は仕事を休み、母親である冬美(若村麻由美)のもとを訪れて引きこもる。

岡村の優しい嘘と、有紗の表情から伝わる絶望
有紗が別れを口にした背景として、辛い時に会話ができなかったことだけでなく、さまざまな要素が重なっていた。彼女が配車業務でミスした一件を受け、岡村は有紗に「廃車はクビだって」と馬鹿正直には言わず、「(元いた)仕分けの仕事、戻ってきてくれないかな」「みんながさ、『有紗ちゃんが抜けて大変だ』『有紗ちゃんに戻ってきてくれ』ってうるさいんだよ」と優しい嘘をついた。ただ、有紗はそれが嘘だと気づく。信頼していた岡村から、嘘をつかれたことに。

「何で障がいのこと教えてくれなかったの?」
元はといえば、有紗が配車の業務をやらなければ、彼女は傷つかず、岡村も別れを切り出されることはなかったのかもしれない。つまりは有紗に配車を勧めたドライバーの千葉(福澤重文)が“元凶”にも思える。ただ、千葉は有紗に障がいがあることを後になって知ったようだ。
職場で障がいを公表するのは、簡単なことではない
それでも、千葉も障がいについて知っていれば、推薦するにしてももう少し慎重に判断しただろう。仮に有紗が配車を担うことになった場合でも、ドライバー達も注意深く業務に当たることができ、有紗のミスを防げていたかもしれない。同僚に障がいがあればそれを知っておくことは、業務を円滑に行うために大切な情報共有でもある。当事者のプライバシーに配慮するのなら、やはり本人の口から伝えてもらうしかない。とはいえ、有紗のように障がいがあることを隠して「“普通”に接してほしい」と考える人もおり、本人が自身に障がいがあることを公表することは簡単ではなく、強制することもできない。
先輩はなぜ、有紗ひとりに仕事を任せたのか
そもそも、障がいがあることを周囲が知っていたとしても、ミスを防ぐことは難しい。実際天野は有紗に障がいがあることを知っていたにもかかわらず、障がいの有無に関係なく難易度の高い配車という業務を、一時的に有紗ひとりに任せざるを得なかった。
障がい者にはグラデーションがあり、第三者にはわからない
障がいにはグラデーションがあり、「何が、どこまでできないのか?」は第三者にはわからない。それに当人であっても100%把握しているわけではない。加えて、パニックになると普段できていたことができなくなるケースもある。天野のように有紗が障がい者ということを知っていても、ついつい「フォローもしているし、これくらいならできるかも」と任せてしまうのも無理はない。ただ、障がい者であるかに限らず、誰しも得手不得手がある。その人の個性や特徴を見極めて仕事を振ることは容易ではなく、どのように仕事を任せれば良いのかということを考えたくなる。有紗という障がい者を軸にストーリーが展開されるが、障がいに関係なく、日常のあらゆるシチュエーションに存在する違和感を痛感させられる内容だった。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki