東京2020オリンピック・パラリンピックをはじめ、FIFAワールドカップ2022カタール大会、2023年のWBCなど、近年スポーツが多くの人々に感動を与えている。この盛り上がりをさらに異次元のものにすると期待されているのが、メタバース(仮想空間)。リアルな世界のスポーツを、メタバースはどう盛り上げるのか? その意外な活用法を、順天堂大学スポーツ健康科学部の山田泰行准教授に伺った。
スポーツの「する」「観る」「支える」でメタバースを活用

スポーツは心身の健康維持の他、地域活性化やスポーツビジネスにおける経済効果、国際友好への貢献など、さまざまなメリットがある、近年注目のコンテンツでもある。実際、多視点映像技術や、AIを使った採点システム、ファン同士が繋がれる専用アプリなど、スポーツをより楽しむためのテクノロジー「スポーツテック」が世界中で次々と開発されている。
そんな中、メタバースの活用に期待を寄せている研究者の一人が順天堂大学スポーツ健康科学部の山田泰行准教授だ。
メタバースとは、簡単にいうとインターネット上に構築される仮想空間のこと。この3次元空間で、人はアバターと呼ばれる自分の分身を使ってゲームなどの遊びや、商取引といったビジネスなど、さまざまな活動を行うことができる。それだけ聞くとリアルな肉体を動かすスポーツとは対極にあるように思えるが、決してそんなことはないのだそうだ。
「スポーツの世界を『する』スポーツ、『観る』スポーツ、『支える』スポーツに分けて考えると、メタバースがスポーツにどのような変化をもたらすかについて具体的な未来を見通すことができます」(山田泰行氏、以下同)
メタバース×「する」スポーツ
順天堂大学自転車競技部の監督でもある山田氏は、まずメタバースがもたらした『する』スポーツへの恩恵について、自転車競技の先進的な事例を紹介してくれた。
【メタバース×選手のモチベーション】東京2020オリンピックの出場をかけたバーチャルレース

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「新型コロナウイルスの影響で、2020年に開催予定だった東京オリンピックが1年延期になりました。その際、自転車トラック競技日本ナショナルチームが、選手たちのモチベーションを維持するため、メタバースを使ったレースを開催したんです。その模様をYouTubeで見ることができますが、これが非常に面白いんです」
と、山田氏が教えてくれたのが以下の『More CADENCE The Movie -コーチに挑め-』という動画だ。
この動画には、日本ナショナルチーム短距離Bチームの選手たちが、元世界選手権のメダリストであるナショナルコーチたちにバーチャルレースの勝負を挑む様子が納められている。Bチームの選手がコーチに勝てば、東京2020オリンピックの日本代表内定選手に挑戦できるというもの。バーチャルレースにはトラック競技の短距離選手が常用しているインドアバイクとオンライントレーニングアプリが使用されていた。ドラマ仕立てということもあり、正直、自転車競技にそれほど詳しくない筆者も思わず夢中になって見入ってしまうほどの迫力と面白さだった。
【メタバース×選手のリスクマネジメント】高額な遠征費の節約、事故や怪我のリスク回避
メタバースはこれまでにあったスポーツにおける金銭的な問題や怪我などといった課題の解決にも役立つという。
「自転車競技の世界では、コロナ禍でレースの開催が見送られていた2020年ごろから、バーチャルレースのニーズが一気に高まりました。バーチャルレースのメリットは、選手のモチベーションだけではありません。試合や合宿にかかる高額な遠征費を節約できますし、自転車競技につきものである走行中の事故や怪我のリスクを回避できます。バーチャルレースといっても、選手が実際に自転車のペダルを高速でまわす必要があるため、選手は日頃のトレーニングの成果を競うことができます」

日本学生自転車競技連盟が主催するバーチャルレースでは、実際の道路のデータを元にオリジナルのコースを設定することが可能なアプリと装置を導入。ツール・ド・フランスなど有名なレースルートの勾配や、石畳のゴツゴツした感触や舗装の継ぎ目までを再現し、実走した風景映像を流して競技するため、選手は本番さながらの感覚で競技を行える。こうしたレースがコロナ禍以降、増えているそうだ。
【メタバース×選手のメンタルトレーニング】バーチャル空間でコースを試走