
新しい業務に挑戦する有紗と、ミスをかばって助ける先輩
軽度の知的障害と自閉症のある有紗(小野花梨)は、自分の思う“普通”になるべく、運送会社の中で「配車」という新しい仕事に挑戦する。配車の仕事では先輩社員の天野(西山繭子)の指導の下、懸命にメモをとって業務を覚えようと意気込む。ただ、これまでは身体を動かす作業がメインだったのに対し、配車は瞬時の判断力や記憶力、全体を見ての調整力を問われる、有紗にとっては難易度が高そうな業務。
「普通になりたい」という希望が打ち砕かれた
ある日、弁護士に相談へ行くために職場を空けなければならず、天野は有紗1人に業務を任せる。天野としてもホワイトボードにその日の流れを事細かに書き記しており、有紗もある程度仕事に慣れたと安心したのだろう。だが実際は有紗ひとりではどうにもできず、どんどんミスを連発してパニック状態に。しまいには椅子から立てなくなるほど意識が保てなくなる。
こうして有紗の「普通になりたい」という希望は打ち砕かれ、「できないことが多すぎて苦しい」と自分自身に絶望する。8話で岡村は有紗が配送業務を担うことに反対していたが、残念ながら予想通りの結果となってしまった。
どう対応するべきだった? 正解のない問い
9話は、“周囲からは気付かれにくい障がい”を抱える有紗のような人が職場や身近にいた場合、どのように接するべきか? ということを考えさせる内容だった。その人が何かしらの失敗をして自信喪失した時、どのように言葉をかければ良いのだろうか。
とはいえ、ミスに対して叱責すれば、より一層自分自身を責めてしまうはずだ。つまりは、優しくすることも厳しくすることも正解ではないようだ。大前提として、岡村のような(有紗にとって)“普通”の人が声をかけること自体、間違っているのかもしれない。思わず「自分だったらどう声をかける?」と自問自答したくなる展開だった。
他の作品にも障がいのある人物は登場するが……
なぜここまで「どう声をかければ良いのか?」ということを考えたくなってしまったのか。それは有紗がとても稀有なキャラだからである。これまでも多くの漫画実写化作品に、知的障害や発達障害を抱えるキャラクターが登場している。例えば『ドラゴン桜』(TBS系/2021年)の登場人物で、発達障害のある生徒・原健太(細田佳央太)。原はその障がいのために聴覚的短期記憶能力が低いが、視覚から得た情報に関する記憶力はかなり優れていた。原をはじめ様々な作品に登場する障がい者は、障害を抱えているものの“その代わり”として突出した能力が与えられる傾向が強い。
従来の障がいを持つキャラであれば、“その代わり”があるため、かけられる言葉が簡単に見つかる。なにより“その代わり”のおかげで自力で現状を切り開くこともでき、言葉を探す必要に駆られることもない。
有紗が「稀有なキャラ」である理由
一方で周囲からは気づかれにくい障がいを抱える有紗の場合、特殊なスキルや経験を必要としない業務を遂行することも容易ではなく、日常的なコミュニケーションにも難がある。さらには、“その代わり”となる優れた能力を持たない。有紗のようなキャラは、フィクション作品において、実はとても珍しいのではないだろうか。日常生活とは反対に。
“周囲からは気付かれにくい障がい”を抱え、“その代わり”を持たない人への理解だけでなく、接し方についても議論したくなる、メッセージ性がつまったドラマだ。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki