巨人異例の契約保留者が示した、戦力補強よりも大切なこと。
巨人異例の契約保留者が示した、戦力補強よりも大切なこと。
 このオフの巨人は凄まじい勢いで戦力補強を行っている。 移籍市場の最大の焦点となっていた広島・丸佳浩外野手に西武・炭谷銀仁朗捕手という2人のFA選手に加えて、オリックスを自由契約になった中島宏之内野手の加入も決まった。


今季は29試合に登板し、2勝1ホールドの田原。2011年ドラフト7位で入団した29歳。 (photograph by Kyodo News)

 このオフの巨人は凄まじい勢いで戦力補強を行っている。

 移籍市場の最大の焦点となっていた広島・丸佳浩外野手に西武・炭谷銀仁朗捕手という2人のFA選手に加えて、オリックスを自由契約になった中島宏之内野手の加入も決まった。新外国人選手はサンディエゴ・パドレスで今季20本塁打したクリスチャン・ビヤヌエバ内野手だ。

 そして12月6日には楽天と争奪戦を演じていた前シアトル・マリナーズの岩隈久志投手の入団が決まるというニュースも飛び込んできた。

 さらに難航はしているが、今季限りで退団したアルキメデス・カミネロ投手に代わるクローザー候補となる外国人投手の獲得調査も継続している。

 チーム編成の全権を与えられた原辰徳監督によるこうした精力的な補強の目的は、もちろん4年連続で遠ざかっているペナントの奪回であることは言うまでもない。

補強の後、新しいビジョンを……。

 まず勝つ。もちろん将来的なチームの青写真も描かれているが、まずやらなければならないのは勝つことである。

 極端にいえばチームが新しいビジョンに沿って動き出すのはその後からでもいいというくらい、勝利を求めた補強であることは、今の巨人の立ち位置を考えればやむを得ないのだろう。

 ただ、だとすればこの巨大補強の裏側で、不安材料は解消されていないことが気がかりだ。その不安材料を改めてクローズアップする出来事が、このオフの契約更改で起こった。

 11月27日に行われた契約更改交渉で田原誠次投手が契約を保留。巨人では実に7年ぶりの保留者が出るという異例の事態が勃発したのである。

「毎年『来年は良くなるから』と」

 そうして12月4日に再交渉に臨んだ田原は、金額的には現状維持の3600万円(推定)でサイン。その記者会見で保留の真意をこう明らかにしたのだった。

「3年連続でブルペンの環境改善を訴えていて、毎年のように『来年は良くなるから』と言われても、具体的に何が変わったか分からない状態だった。少しでも多くの人に『僕らはこんなひどい環境でやっていたんだよ』と知って欲しかった、という意味の保留だった」

 こう訴えたのである。

 実は巨人がペナントを奪回するための最大の懸案事項は、このブルペンの再建のはずなのだ。

問題は僅差のゲームに勝てないこと。

 今季の巨人の救援陣はクローザーのカミネロにセットアッパーのスコット・マシソン投手を勝利の方程式としてスタートした。ところが6月末にカミネロが不振から登録抹消されてマシソンがクローザーに回ったが、そのマシソンもケガで離脱。最後は先発の山口俊投手がDeNA時代の実績を買われて抑え役を任されるなど迷走を繰り返した。

 ただ、もっと問題なのは、序盤で2、3点を追いかける展開や競り合った僅差のゲームで中盤から継投に入った場合のブルペンだった。

 澤村拓一、宮國椋丞投手を軸に左の中川皓太、池田駿両投手、右の谷岡竜平にサムエル・アダメス投手に田原も加わる。そして大ベテランの上原浩治投手や先発から中継ぎに回った野上亮麿投手らも、こうした試合展開で度々マウンドに上がっている。

 ところがここで中継ぎ陣が踏ん張れずに、踏みとどまれなかった試合が非常に多かったのである。

目立った、救援陣の防御率の低さ。

 端的に数字に表れているのは、やはりチームのホールド数だった。

 セ・リーグのホールド数トップは136のDeNAで2番目がヤクルト(100)、以下広島(98)、阪神(96)、中日(82)と続いて巨人は73ホールドと圧倒的に少ない。

 もちろんこの数字の裏にはチーム完投が21という桁外れの数字があるのだが、そればかりとは言えないのは救援陣の防御率の低さにも表れている。

 個々の選手で見ても、防御率3点以内で終わったのは宮國(1.97)と田原(2.56)の2人だけ。3点台に上原(3.63)とアダメス(3.94)がいるが、その他の中継ぎ陣では池田(4.07)、澤村(4.64)、野上(4.79)、中川(5.02)、谷岡(5.76)と、特に追いかける展開でマウンドに上るケースの多かった投手は軒並み5点前後の数字に落ちてしまっていた。

 つまり、勝ち試合をそのまま逃げきれない。

 中盤で競り合った試合もあっさり勝ち越され、1、2点を追いかける展開ではダメ押し点を奪われてしまう。そこに大きな敗因があるということだ。

どんどん悪化していた救援防御率。

 ただ、そうした数字の背景は選手だけの責任ではない、と田原は説明する。

「そろそろ自分かな」と思って投球練習の準備を始めると、投手コーチから「お前はまだいい」と制止されたが、直後に「やっぱりここから行ってくれ」と送り出されたケースもあった。

 また、全く肩ができていないのに、急に登板の指名を受けたケースもあったとも語っている。

 田原曰く、この環境の悪化は昨シーズンより今シーズンはさらに酷くなり、救援防御率も昨年の3.40から4.12と下がっている。

「僕らにしても若い選手らにしても、やりにくい環境で結果を出すのは難しい。少しでもいい環境でやってチームの底上げにつながれば、日本一は絶対に取れるものだと思う。今回の保留が環境改善のきっかけにつながれば」

 田原の訴えだった。

宮本、水野ら新コーチ陣に期待!

 4年連続で優勝を逃している巨人の大きな弱点がこの中継ぎ陣の数字の悪さにあったことは明白だった。巨大補強の陰で、その一番の懸案は全く解消されないままに、今オフの編成は進んできてしまっていたように見えるのである。

 ただ、そういう中継ぎ投手の環境改善という点では、戦力補強ではない希望はある。

 それは新しいスタッフだ。

 新たに就任した宮本和知、水野雄仁両投手コーチは、中継ぎ登板の難しさを知る、という点ではうってつけのコーチと言えるだろう。2人とも現役時代から中継ぎ、抑え、左のワンポイントと様々なシチュエーションでのリリーフ登板を経験して、先発投手が知り得ないその難しさも熟知している。何より2人ともコミュニケーション能力が非常に高いことは、風通しの悪かったブルペンの再生に大きな武器となるはずである。

「コミュニケーションが取れると思った。自分も言いやすい部分もあったし、若い選手も言ったりした部分もあった。来年は良くなると言う風に感じました」

 新体制で迎えた秋季キャンプのブルペンの雰囲気を田原はこう語っている。

補強の次は、監督、コーチの仕事に。

 チームの弱点を補うために補強を行うのは、編成部門の責務だ。ただ、力を出しきるための障害を取り除き、伸びしろのある素材をきちっと使いこなすことは、今度は現場を預かる監督、コーチの責任である。

 もちろん丸や中島やビヤヌエバで打線のテコ入れをし、岩隈や炭谷獲得による先発バッテリーを強化するのも大切かもしれない。ただ、この中継ぎ問題をどう解決するのかこそ、実は巨人が5年ぶりのセ・リーグ王者となるためには必要条件だった。

 ブルペンを再生して勝てる試合を確実に勝ち、負けている試合をいくつ白星に逆転できるか。

 そこからしかペナント奪回への道は始まらないということだ。

text by 鷲田康
「プロ野球亭日乗」

(更新日:2018年12月16日)

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