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『リトル・マーメイド』以外にも! 『シェイプ・オブ・ウォーター』『ゆれる人魚』など”人魚”を題材にした物語

MOVIE WALKER PRESS

神話や伝承、童話として親しまれてきた“人魚”。なかでもデンマークの作家、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話「人魚姫」は、人間の王子に恋をした人魚姫の悲劇を描き、時代を超えて世界中で親しまれている。愛に突き動かされ大きな壁を乗り越えようとするヒロインは映画の題材にも最適で、ディズニーの長編アニメーション『リトル・マーメイド』(89)ほか何度も映画化されてきた。そこで本稿では、時代や作り手ごとに様々な形でスクリーンに描かれてきた”人魚”たちを振り返ってみたい。

■知らない人はいない!?アンデルセンの「人魚姫」

まずは1837年に発表されたアンデルセンの「人魚姫」についておさらいしたい。海で助けた人間の王子に心奪われた人魚姫は、声と引き換えに魔女の薬で人間の姿になって王子と再会を果たす。しかし王子が別の女性と結婚することを知った人魚姫は、王子を殺して人魚に戻るか、泡になって消えるかの選択を迫られて後者を選ぶ。アンデルセンの度重なる失恋から生まれたといわれるこの作品は、悲劇のラブストーリーとして世界中で親しまれた。

映画ではアンデルセンの没後100年にあわせ、チェコの実写映画『人魚姫』(76)や日本の劇場アニメーション『アンデルセン童話 にんぎょ姫』(75)などが公開。そして前述のディズニー『リトル・マーメイド』の大ヒットで、人魚は人気キャラクターとして定着した。「人魚姫」をモチーフにしたオリジナル作品も多く、日本では魚の少女と少年の交流を描いた『崖の上のポニョ』(08)や東京が水没した近未来を舞台にした『バブル』(22)が話題を呼んだ。

■ディズニー・アニメーションの金字塔を実写化『リトル・マーメイド』

ディズニーの長編アニメーションを実写化したのが『リトル・マーメイド』(6月9日公開)である。人間の世界に憧れるアリエル(ハリー・ベイリー)は、人間の王子エリック(ジョナ・ハウアー=キング)に心奪われてしまう。アリエルが人間界と人魚界を結びつける展開を含め、アニメーション版に忠実に映画化。圧巻は海中の描写で、人魚をはじめ様々なキャラクターが生き生きと描かれる。幻想的な色彩や吸い込まれそうな奥行きなど、その没入感は実写映画ならではだ。監督はミュージカル大作『シカゴ』(02)のロブ・マーシャル。人魚を絡めた『パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉』(11)ほか、『イントゥ・ザ・ウッズ』(14)や『メリー・ポピンズ リターンズ』(18)などファンタジーを得意とするマーシャルの手腕が光っている。

■美しき人魚のおぞましい生活『ゆれる人魚』

1980年代を舞台にしたポーランド映画『ゆれる人魚』(18)は、「人魚姫」をビターテイストで映画化した大人向けのファンタジー。歌声に誘われバンドのメンバーと出会った人魚の姉妹、シルバー(マルタ・マズレク)とゴールデン(ミハリーナ・オルシャニスカ)は、ナイトクラブのステージで人気者になっていく。本作の人魚のモチーフはギリシア神話のセイレーン(人間を食べる海の怪物)で、ここでも肉食と設定。シルバーはバンドのベーシストの青年ミーテク(ヤーコブ・ジェルシャル)に恋をして本物の人間になろうとするが、ゴールデンにとって人間は遊び相手で食糧でしかない。

人魚たちは上半身は人、下半身は魚という定番のスタイルで、体が乾くと足になる。無垢な人魚は人の姿になっても性器がなく、尻尾を切除すると声が出なくなるなど思春期のメタファーとしての面が強調されているのも特徴だ。オトナの世界が舞台のため、きわどいシーンも少なくないが、胸を締め付けられるせつないラストシーンを含め、正統派「人魚姫」の趣。本作はアグニェシュカ・スモチンスカのデビュー作で、彼女はインスピレーションを受けた映画に『崖の上のポニョ』を挙げている。シルバーとミーテクをポニョと宗介に重ねて観るのもおもしろい。

■人魚映画の転換点『スプラッシュ』

「人魚姫」を現代風にアレンジし、人魚に恋した冴えない青年の物語に仕立てたのが『スプラッシュ』(84)だ。アレン(トム・ハンクス)は、海で溺れたところを助けてくれた人魚マディソン(ダリル・ハンナ)と恋に落ちる。彼は素性を隠し人間界にやって来たマディソンと暮らし始めるが、人魚の存在を知った研究所の実験材料にされてしまう。本作のマディソンは、ブロンドヘアに黄金色の大きなヒレの下半身を持つ“ザ・人魚姫”なルックス。下半身の足ヒレを上下に動かし水中を自由に泳ぐ姿は、スタントなしでハンナ本人が演じている。人間の暮らしをよく知らず、裸で街を歩き回ったりレストランで巨大なロブスターに殻ごとかぶりつくなど、『魔法にかけられて』(07)のジゼルの元祖というべき天然ぶりがかわいい。体が乾くと足ヒレが人間の足になるという設定は、本作が発祥ではないだろうか。

本作でアレンとマディソンの障壁になるのは、エゴや利己主義といった人間の心。それを乗り越えアランがマディソンの手を取り新世界に旅立つラストは、「人魚姫」にハッピーエンドという選択肢を与えることになった。監督はラブコメばかり撮っていた駆け出し時代のロン・ハワード。彼の娘ブライス・ダラス・ハワードは、M.ナイト・シャマラン監督の『レディ・イン・ザ・ウォーター』(06)で、人間界にやって来た水の妖精ナーフを演じている。

■これまでにない造形!『ACRI』

アーティストでミュージシャンの石井竜也が監督した日本発のオリジナル人魚映画『ACRI』(96)。人魚伝説に人類の進化を絡めたストーリー作りには、岩井俊二と作家の吉本ばななも参加している。オーストラリアの大学で教鞭を執る佐古田(藤竜也)は、日本から彼を訪ねてきた海原(浅野忠信)という青年が海棲人、ホモ・アクアレリウスではないかと考える。本作に登場するアクアレリウスは、進化の一時期に海で暮らしていた人類の祖先。のちに陸に戻り新人へと進化していくが、海に残ったアクアレリウスも人知れず生き延びていた。現在はメスしか残っていないため、海難事故に遭った男性を巣に連れ帰って交わっている。ちなみに男性の目には、アクアレリウスは人間の女性に映るという。人魚もの定番のロマンスではなく、種の存続という発想がユニークだ。

アクアレリウスはイルカに似た皮膚で覆われ、背ビレやヒレ状の手足を持つ半魚人。進化や海への適応を考慮にデザインされ、芝居のシーンは特殊メイク、体をくねらせ泳ぐ姿はCGIで描かれた。海原は両種の間に生まれたハーフのようで、見た目は普通の人間だが海に入ると手足にヒレが生えてくる。タイトルの「ACRI」は海原の元カノ、藤沢亜久利(吉野公佳)のことで、彼の目にはアクアレリウスが亜久利に映っていた。

■圧倒的な映像美『シェイプ・オブ・ウォーター』

作品賞、監督賞などアカデミー賞で4部門を受賞したギレルモ・デル・トロ監督の代表作『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)。政府の研究所の清掃員イライザ(サリー・ホーキンス)は、職場で水槽に隔離されている不思議な水棲生物を目撃。口がきけない彼女は、手話などを使って彼とコミュニケーションを取り始める。世界から孤立した者同士のロマンスを描く本作に登場するのは、魚のような頭と皮膚を持つ半魚人。デル・トロが心酔する『大アマゾンの半魚人』(54)や『ドラキュリアン』(87)の半魚人の流れを汲む妖しいデザインで、角度や光の当たり方で違って見える複雑なディテールも息をのむ美しさだ。

スーツの半魚人を演じたのは「ヘルボーイ」シリーズで半魚人エイブ・サピエンなどを演じた個性派俳優ダグ・ジョーンズで、彼のスリムなボディラインもキャラクターに寄与。一見すると不気味だが、醜い世界からイライザを救い出す王子様というべき気品漂う仕草や振る舞いにきっと引き込まれるだろう。

性差や姿形を含め、様々な形で描かれてきた映画のなかの人魚たち。彼らに共通しているのが、強い思いに突き動かされ障壁を乗り越えようとする姿で、それが観る者の心を揺り動かすのだ。そんな人魚たちのなかでも、特に能動的な存在が『リトル・マーメイド』のアリエルである。憧れの王子の心を射止めるだけでなく、人間と人魚2つの種族の架け橋を担う彼女の行動は多くの人に刺さるはず。いまの時代だからこそ必要とされるキャラクターなのである。

文/神武団四郎
 
   

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