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舞台「パラサイト」演出を手掛けた鄭義信「人間にとって本当に価値のあるものとはなんなのか」

MOVIE WALKER PRESS

度肝を抜く展開から格差社会をあぶりだし、第92回米アカデミー賞では4部門を受賞。世界中で大ヒットを果たした映画『パラサイト 半地下の家族』(20)の日本での舞台化が実現し、今春オープンした新劇場「THEATER MILANO-Za」でついに開幕した。台本と演出を手掛けたのは、「焼肉ドラゴン」や「泣くロミオと怒るジュリエット」など、パワフルな舞台作品を次々と世に送りだしている鄭義信(チョン・ウィシン)。キャストには、古田新太、宮沢氷魚、伊藤沙莉、江口のりこといった名優が顔を揃え、鄭は「猛獣使いの気分です」とにっこり。かねてより親交があったというポン・ジュノ監督との信頼関係や、力強い作品を生みだす秘密について語った。

■「ポン・ジュノ監督は『好きにしていいよ』と言ってくれた」

格差社会というテーマを描きながらも、サスペンス、ブラックコメディ、ヒューマンドラマなどの“ジャンルを超えた傑作”として世界中から称賛を浴びたポン・ジュノ監督による映画を、舞台を日本の関西に移して描く本作。家内手工業の靴作りで生計を立て、地上にありながら地下のように一日中陽がささないトタン屋根の集落で細々と暮らす金田一家が、高台の豪邸で暮らす永井家に寄生していく。

映画プロデューサーの李鳳宇(リ・ボンウ)が声をあげたことで、日本での舞台化が動きだしたという。鄭は「ポン・ジュノ監督と李鳳宇さんはもともと仲がいい2人なんですが、2~3年ほど前に鳳宇さんから『パラサイトを日本で舞台化したい。それをやれるとしたら、義信さんしかいない』というお話をいただいて。すごく光栄でした」と回想。

これまでも差別や貧困といった社会問題を、ユーモア交じりで描いてきた鄭だけに、李の言葉にも納得だが、鄭によると「舞台化するにあたって、ポン・ジュノ監督は『好きにしていいよ』と言ってくれた」のだとか。「僕の手掛けた舞台『焼肉ドラゴン』の韓国公演も観に来てくれたことがあって。もちろん僕もポン・ジュノ監督が大好きで、映画監督としても尊敬しています。今回は、これまでも親交のあった僕たちがいい形で手を組み合えた気がしていて、とてもうれしいです」と喜びをかみ締める。


■「ソン・ガンホさんの放つ重厚感やリアリティを出せるのは、古田さんしかいない」

キャスト陣には、映画、舞台、ドラマに引っ張りだこの実力派俳優がズラリと顔を揃えた。金田家の主、金田文平を演じるのは古田新太。映画ではソン・ガンホが演じていたポジションだが、鄭は「ソン・ガンホさんが演じたお父さん役は、日本でやるならば古田新太さんしかいないと思っていた」と初タッグとなった古田を信頼しきり。「私もそうですが、スタッフ一同、ソン・ガンホさんの放つ重厚感やリアリティを出せるのは古田さんだけと思っていましたので、引き受けていただいて万々歳です。古田さんを中心に、ほかのキャストの方々を考えていきました。バンバンすごい方たちが決まっていったような感じで、僕自身も驚きです」と話す。

高台の豪邸に住む永井家の家庭教師としてアルバイトを始める文平の息子、純平役の宮沢については、「氷魚くんの舞台を観に行ったこともありますし、彼も僕の舞台を観に来てくれたこともあって。ものすごい好青年なんですよ」と印象を口にし、「その好青年をどうやって崩していくのかが、今回の見どころ」と期待。純平の妹、美姫役を伊藤沙莉、文平の妻の福子役を江口のりこが務め、「沙莉とはこれまでにも作品をやったことがありますし、とても信頼しています。江口さんは、僕と同じ姫路出身で、若いころから『いつか一緒にやりましょうね』と話していたんです。なかなかそれが実現しないでいるうちに、彼女が大ブレイクをされて。江口さんと沙莉の母娘役というのも、どうスパークするのかとても楽しみにしています」と鄭自身、彼らの起こす化学反応にワクワクしている様子。錚々たる顔ぶれを見渡しながら、「濃いメンバーですよね。きっといろいろなことをしでかしてくれるはず。もはや猛獣使いの気分です」と笑顔を見せていた。

■「『パラサイト』をやるならば、舞台を関西に置き換えたかった」

舞台ならではの「パラサイト」を披露するために、あらゆる可能性にチャレンジしている本作。それぞれの感情が入り乱れ、クライマックスに向けて怒涛の展開となる物語は、90年代の関西を舞台に繰り広げられる。

鄭は「『パラサイト』という作品が、遠い国の、遠い話というわけではなく、身近なところにもある話だと思っていただきたかった。どんどん見えにくくはなっていますが、もちろん日本にも貧富の差があります。それを軸に、身近にいる人たちの苦しみ、悲しみ、せつなさを共感できるような形で観客に届けたいと思った」と胸の内を吐露。「映画のように水がドバーッとあふれてくるようなスペクタクルな描写をすることはできませんが、そのぶん、舞台ではより濃い人間関係を描きたいと思っています。オリジナルの展開もありますよ」と意気込み、続けて「『パラサイト』をやるならば、関西に置き換えたかった」と語る。

関西弁も、本作に特別な力を加える。「関西弁は、たおやかさと力強さ、その両方を持っている方言だと思います」と切り出した鄭は、「そして、すべてを笑い倒す力がある。政治や権力などシリアスな社会問題を語っても、笑えるものにすることができる。『泣くロミオと怒るジュリエット』では、関西弁でシェイクスピア劇をやりましたが、関西弁にすることで、シェイクスピア劇も身近な物語に見えてくるんですね。土着的で荒々しい部分もおもしろいですし、関西弁で書かれている戯曲もそんなには多くないので、書けるうちにたくさん書いておきたいなと思っています」と、観客の共感と笑いを刺激するうえで、関西弁は重要な要素になるという。


■「舞台は観客と作りあげていくもの。マイノリティだからこそできる、パワフルな作品を届けたい」

小さな焼肉店を営む在日コリアンの家族が、時代の波に翻弄されながらも力強く生きる姿を描いた舞台「焼肉ドラゴン」の作・演出によって、数々の演劇賞に輝いた鄭。同作は、自身が初となる監督を務めて映画化もされた。鄭は、映画、舞台、それぞれのよさをどのように感じているだろうか。

「舞台は、すぐそばに役者がいて、その体温や汗、空気感のすべてを生で感じることができる。役者の表現する喜び、悲しみもストレートに感じることができます。またコロナ禍以降、『舞台は観客と作りあげていくものなんだな』としみじみと感じました。僕は公演が始まっても、千秋楽まで稽古をして、観客の反応を見ながら『こうしたほうがいい』といろいろと変えていくタイプなんです。稽古を積み重ねて作っていくものだけれど、観客を前にすると役者の演技もよりビビッドになる。やっぱり、笑いがあるところでは、もっとウケたくなったりするものなんですよね(笑)。そういった生の反応を取り入れていけるのが、舞台のおもしろいところ」と思いを巡らせながら、「映画では、撮影をして編集をしたものを観客にお見せするわけですが、それでもやはりその場の空気感って、映像に残るものだなと感じています。『焼肉ドラゴン』では、ラストに“家を潰す”というシーンがありますが、あれは映画だからこそできたもの。僕の掛け声をきっかけに家を壊して、それをスローモーションで撮っています。合図の瞬間は、ものすごくドキドキしましたね。作りあげたものを一瞬にして壊すことができるという、臨場感。そういった空気も映しだすことができると感じられたのが、映画『焼肉ドラゴン』です。舞台には舞台、映画には映画のよさがあって、どちらもとてもおもしろいものだなと思っています」。

鄭の作品には、観客を釘付けにするエネルギーが満ちている。そのパワーの秘密について、日本生まれで在日コリアン三世という出自に触れながら「僕自身がマイノリティだから」と笑顔を浮かべる。「特殊な環境と言いますか、ほかの演劇人とは生まれも育ちも違います。自分がマイノリティだからこそ、上から目線ではなく、下から人々を見つめながら、物語を発信していこうとしている。下からなにかを発信しようとすることって、やっぱりそれだけの力がいるもの。だからパワフルだと言われるものができるのかなと感じています。あとは、関西人特有の“しつこさ”ですね(笑)」と自己分析しながら、『パラサイト』では、『人間にとって本当に価値のあるものとはなんなのか』と感じていただけたらとてもうれしいです。観終わって、ほっこりするのか、悲しくなるのか、それは人それぞれだと思いますが、濃いドラマ、そして人間を見つめられるような舞台をお届けしたいと思っています」と熱を込めていた。

取材・文/成田おり枝
 
   

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