野村君と、一度だけじっくり野球の話をしたことがある
中西太さん
5月11日に亡くなった元西鉄の中西太さん。生前、大変お世話になり、何度となくインタビューもさせていただいた。時々にはなるが、それを紹介していこうと思う。
今回は2020年2月11日に元南海ほかの野村克也さんが亡くなった際、追悼号での取材の中編。新型コロナもあって、直接お会いしての取材は最後だった。
◆
そういえば、若手時代の野村君と、じっくり野球の話をしたことがあった。南海の後援会の方から「野村君と一度会ってくれ」と頼まれ、食事をしたんだ。
そこでいろいろ話し、彼がつぶさに聞いてきた。私は口が立つほうじゃないし、何を話したかはよく覚えていないが、あくる日の試合で2人ともホームランを打って、びっくりしたことは覚えている。
私は、川崎徳次さんのあと、昭和37年(1962年)から兼任監督となり、たまたま38年に1度優勝もしたが、黒い霧事件で、いろいろ周りに迷惑をかけ、44年限りで退団した。
野村君が南海の兼任監督となったのは翌45年からで、彼も48年に1度優勝したが、沙知代さんのこともあって52年に退団した。お互い順風満帆な人生じゃなかったが、ここまでは似てるといえば、似てるな。
少年時代もそう。2人とも母親が女手一つで育ててくれ、今では信じられないほどひどい貧乏の中にあった。
そういう人間は闘志が表に出ない。負けてたまるかという思いは誰よりもあるよ。それがなきゃ、この世界では生きていけないしね。
ただ、私も野村君もそれを内に秘めるタイプだった。豊田泰光君とは反対だな(笑)。
