
水野蒼生 ©Daiki Tateyama
2018年、音楽界史上初のクラシック・ミックスアルバム『MILLENNIALS -We Will Classic You -』でドイツ・グラモフォンからメジャーデビュー。同レーベルが主催するクラブイベント「Yellow Lounge」や、国内最大級のクラシック音楽フェス「ラ・フォル・ジュルネTOKYO」などでも注目を集めてきたクラシカルDJ、水野蒼生をご存じだろうか。
井上道義と出会いで指揮を学び、ザルツブルク・モーツァルテウム大学を首席で卒業。その経験を活かし、交響曲やオペラの名曲を大胆な手法で現代化してきた彼が、この夏、初のオリジナルアルバムを発表した。
自身のルーツの一つと水野が言う「ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2023」。まさにクラシカルDJとしての出演前にその会場で話を伺った。
「1枚目でDJ MIX、2枚目でシンフォニーの拡大解釈を試みて、3枚目ではオペラの「歌」を現代的にアレンジ。そのあと、『自分のサウンドは何だろう』という興味が生まれました。ゼロから作ったら、僕は何を生み出すのだろう。それを知りたいと思ったのです」

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「ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2023」の様子
「ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2023」の様子
そうして生まれたのが、第4弾アルバム『HYPER NEO POST ROMANTIC』。ポスト・クラシカルならぬ「ポスト・ロマンティック」をコンセプトに、水野が全曲の作詞作曲を手がける。
「ロマン派のはじまりはベートーヴェン。それ以前の音楽は教会と宮廷のためのもので、主語が“He”でした。しかし、ベートーヴェンははじめて『俺の音』を世界に発信し、音楽の主語を“I”にしたのです。シューベルトやリストなど、自分の音を求める人たちがそれに続いた。彼らの心境が、現在の自分とぴったり重なったのです。『彼の音』から『俺の音』へと変化した気持ち、それを表現するなら、テーマは『ロマン派』だと」
その言葉どおり、アルバムは交響詩のように壮大なサウンドスケープと、私小説のように親密な没入感で私たちの胸に迫る。同時に、現代の若者を描いた映像作品のようでもある。
「おっしゃるとおり、架空の映画音楽だと思って作りました。自分ではそれを〈夜の群像劇〉と呼んでいます。夜は感情が露わになる、神秘的な時間。ロマン派はもともと感情がダダ洩れの世界だから、夜が似合う。そう思って、さまざまなメタファーを群像劇のように並べたのです。歌詞は、リルケの詩やヘッセの小説などを読み漁って、その空気感をまとって一気に書きました。音楽的にはコルンゴルトの存在が大きいです。なぜなら、アメリカに亡命した彼とともに、ロマン派はハリウッドの映画音楽として生き延びたと思うから。それをジョン・ウィリアムズが引き継いで、ハンス・ジマーたちが脈々と繋いでいるのです」