top_line

インストール不要ですぐ遊べる!
無料ゲームはここからプレイ

安藤サクラ、永山瑛太が語る“是枝裕和への信頼”と“坂元裕二脚本の魅力”「テイクを重ねることに喜びを感じた」

MOVIE WALKER PRESS

日本の創作の場を牽引する、映画監督、是枝裕和と脚本家、坂元裕二がタッグを組んだ映画『怪物』(公開中)で、重要な役回りを演じた安藤サクラと永山瑛太。安藤は『万引き家族』(18)に続き、2度目の是枝作品。シングルマザーで、大きな愛を持って一人息子を育てる麦野早織役を演じた。早織の息子である湊の担任教師、保利役を演じた永山は、是枝作品への出演は初めてだが、坂元作品には欠かせない存在だ。「ミリ単位で演技を見てくれている信頼関係があった」という、撮影現場や作品の話を語り合ってもらった。
■「第一印象を“へその緒”のように大事にしていた感じです」(安藤)

第76回カンヌ国際映画祭で、脚本賞、クィア・パルム賞の2冠に輝いた本作は、よくある子ども同士のケンカと思われたが、子どもたちをはじめ、息子が教師に暴力を振るわれたと訴える母親、否定する教師らの食い違う主張によって、やがてメディアをも巻き込んだ事態に発展していく圧巻のヒューマンドラマ。

――映画『怪物』は2人の子どもたち、安藤さん演じる早織、永山さん演じる保利先生と、4者3様の視点で語られます。私も子どもがいるので、早織視点のパートにものすごく感情移入してしまって、息子を想って必死に訴えている母親に対して、ずさんな態度をとっているようにしか見えない保利先生に対する怒りが…。

安藤サクラ(以下、安藤)「わかります(笑)」

――最初に脚本を受け取られた時の感想は?

安藤「早織のパートを読み終えた時、私も同じく保利先生に対して怒りで震えていました。『なんだ、こいつー!』って。早織に共感して、感情的になりながら読み進めていくと、だんだん早織の知らなかった世界線を知ることになる。そうすると、最初に感じた怒りが薄まっていく感じがしたんですよね。それで『まずい、あの怒りは大切に記憶しておかなきゃいけない』と思って、それ以降をあまり読まないようにしました。こうして(目を細めて)、ササーッと」

永山瑛太(以下、永山)「薄目で読んでいたんだ(笑)」

安藤「もちろん、そのシーンを演じる時は一生懸命。だけど、じっくり読み込んでしまうと保利先生に寄り添ってしまって、最初の感情を忘れてしまう気がして。第一印象を“へその緒”のように大事にしていた感じです」

永山「僕は、タイトルが『怪物』だったので、“怪物探し”をしながら読み進めました。これまで、坂元(裕二)さんが脚本を書かれた作品にいくつか出させてもらっていますが、僕が演じたのは大体が“生きづらさ”を抱えている役柄でした。世間と折り合いがつかない、周りともうまくいかない。保利先生もそういう人物だと感じました」

――早織の息子、湊が、保利先生からモラハラを受け、挙句の果てに殴られていると早織は訴えます。謝罪をする際の彼の態度、同僚とのやり取りなど、保利先生の不器用さは細かなシーンから感じ取れました。

永山「細かいところまで、人となりが行き届いているのが坂元さんの脚本のおもしろさですよね。だからこそ演じる悦びがある。けれど一回読んだだけでは誰に、なにを伝えたいのか、充分に理解が追いつきませんでした」

――理解はどのように深めていったのでしょうか?

永山「何度も脚本を読みながら、そして現場に立って是枝監督やサクラ、子どもたちと向き合って演じながらですね。明確な一つの答え、みたいなものはないので、実際に演じてみて完成した作品から、さらに新しいものを受け取っている感じはありました」

――確かに保利先生は、誤植を見つけて出版社に手紙を送りつけるという妙な趣味を持っていたり、着任早々、先生方に「君は目つきが悪いし、感じも悪い」と言われてしまったり、一般社会になじめていない感じがありました。そうしたなかで、瑛太さんは保利先生の“生きづらさ”をどのように捉えていらっしゃいましたか?

永山「先生としては真っ当な人間なんです。なにか問題があったらすぐに反応して、生徒たちとのコミュニケーションも取っていて。でも、ひとつひとつの問題や行動に対して『どういう対応をするか』、という道徳観が少しずれているのかもしれません。『なんで』を深く追求しない、というか。でも、その落とし穴は些細なもので、保利先生のように気づけていない人も多いのではないかと思います」

■「テイクを重ねることに喜びを感じたのは、初めてだったかもしれない」(永山)

――安藤さんは『万引き家族』以来の是枝組でしたが、現場の印象はいかがでしたか?

安藤「是枝監督の現場づくりというのは、どの部署もフラットで、プレッシャーがなく、年齢も関係性も超えて意見を交わせる環境なので、それぞれがそれぞれの力をシンプルに引きだしてくれる現場だと今回も感じました。監督自身の脚本ではなく、坂元さんの脚本という意味で違いを感じたとすれば、前回は撮影を終えると翌日の脚本が変わることが普通でした」

――「差し込み」と呼ばれる、修正箇所のプリントが配られるんですよね。

安藤「はい。どんどんと脚本も作品もうねるように動いて、どこに着地するのかわからない。その作品の可能性を探りながら、みんなで作っていく感じがありました。今回は差し込みがほぼなくて、代わりに前回よりもテイクを重ねた印象があります。NGという意味ではなくて、幾度も動いてみて選択されていましたね」

――永山さんは、初の是枝作品への参加でした。印象に残っていることは?

永山「撮影初日が、恋人役の高畑充希さんと火事を見つけるシーンでした。その日の夜に監督から『もう、保利先生のキャラクター像が見えました』とメールをいただいて、少し安心しました。役作りといっても僕にできることは限られているので、俳優として最低限のこと――セリフを覚えて、監督の演出を受け取って、健康でカメラ前に立つこと。キャスティングをされた時点で幸福で、『自分の表現をしよう』みたいな雑念はなく、保利として生きられました。

いままで味わったことがないことと言えば、子どもたちの演出です。主演のふたりは台本を読んでいましたが、クラスの子たちは読んでいなかったのでなにが起こるかわからない。目の前の言動に反応していくと、自然と先生像ができあがっていきました。あと、サクラの目を見て演技をするのも初めてだったので、ずっとサクラを見ていました。どういう動きをするんだろう、と」

――安藤さんはいかがですか。

安藤「私は職員室で校長先生や保利先生たちから謝罪を受けるシーンが、最初の撮影だったんですよ。心情的には息子がひどいことをされてすごく嫌だったし、場面としても怒りがおさまらなくなる状況で。でも、段取りの確認とかテストでは、腹がちぎれるくらいみんなで笑いました」

――そうだったんですか。本編はとても緊迫感あふれるシーンだったので、そんな和やかな舞台裏があったとは決して思えませんでした!

永山「坂元さんの脚本って、悲劇的なシーンでも捉え方によっては喜劇にもなる。あんな場面で、いい大人が急に飴をなめるなんて…」

――親が怒鳴り込んできているのに、当の教師は上の空という(笑)。あのシーンは、腹が立ちました…!

安藤「腹が立ちますよね。失礼極まりないというか。だけど、視点を変えると、ものすごく変な人じゃないですか?みんなも『こんなタイミングで飴なめるって、なんだこいつ…』って思っていたらおかしくなってきちゃって。集中力と楽しさって紙一重だと思うのですが、テイクを重ねるとどんどん演じる楽しさが増していって、すごく集中して演じられた最高の現場でした」

永山「僕もそうですね。テイクを重ねることに喜びを感じたのは、初めてだったかもしれない。芝居によくないところがあったから撮り直すのではなくて、表現の可能性を探るようにもう一度撮る。監督がミリ単位で演技を見てくれているという信頼があったので、そのやり取りがとても楽しかったです」

安藤「信頼は大きかったよね。監督と役者の間だけではなくて、現場全体の信頼関係があるから、『もう一回』となっても誰かを否定することがない。みんなが『もう一回』を受け入れて、なにができるのか考えて、自分自身の最善を尽くそうとする感じがすごかったです」

――様々な視点から物語が描かれるということで、演じるにあたって非常に繊細なやり取りがあったのではないかと想像していました。意識されたことはあるのでしょうか?

安藤「私はそんなに器用ではないので、早織という役はずっと変わりませんでした。例えば、母目線だとなんて滑稽で、頼りなくて、ふざけた教師たちなんだと思ったのですが、視点が変わったとしても、相手の根っこは変わらないなと思ったんです。それは、自分の感じを変えずに演じられたからかなと思います」

永山「僕もあくまでも自分の役として演じました。台本とは別で、ノートに保利の周りで起きたことを時系列に沿ってメモしていました。順撮りではないので、ごっちゃになってしまいそうで。辻褄を合わせるために、この時点で保利がなにに気づいていて、なにに憤りを感じているのか、日付と共にノートに書き込みました」

安藤「私もノートに時系列をメモしていました。日記みたいに、何月何日に〇〇があった、と書き残して。わからなくなっちゃうもんね」

永山「そこを間違えちゃうと、人物そのものが変わってきちゃうから」

安藤「でも、保利先生は特に、視点によって見えかたが変わるもんね」

永山「演じ分けはしないけれど、周りの状況が見えてくると、役の印象が変わりますよね。ただ、自分の中では整合性をつけながら演じていました」

■「『人間』というタイトルでもいい映画だと思います」(永山)

――最後に、映画を通じて感じた“怪物”について教えていただけますか。

安藤「私は、“怪物”を映画から受け取りませんでした。命の美しさや人間の深さ――いろんな人が共存しながら生きとし生けるすべての美しさ、を見つけましたね」

永山「僕も怪物感はなかったですね。ただ『怪物』というタイトルがすばらしいと思いました。でも『人間』というタイトルでもいい映画だと思います(笑)」

安藤「ああ、そうだね」

永山「いろんな視点が世の中にはあって、人間はこれだけ複雑に、多面的にできているんだなと感じました」

――親としての学びや教訓を受け取る部分はありましたか?

安藤「そういう視点で観なかったですね。ただ、一つの正しさを伝えたり、ストーリーを追ったりする映画ではないじゃないですか。いろんな人が、いろんな選択をする。主人公の子どもたち2人の選択も含めて、もっと単純に、純粋に、その美しさにただただ感じ入ってほしいなと思います。いろんな要素が詰め込まれている映画なので、劇場だとその世界観に入り込めるのではないかなと思います」

取材・文/羽佐田瑤子
 
   

ランキング(映画)

ジャンル